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されど恋  作者: nana
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5

「それで名前を教えて欲しい」

ヴィンフリートは少し照れくさそうにフィオナに訊ねかけてきた。

「フィオナ」と小さく呟くとヴィンフリートは嬉しそうに「フィオナ」と名前を口にした。

先程軟禁されていた部屋から連れ出され、ヴィンフリートに割り振られた部屋に一緒に入るよう説明を受けた。フィオナの不安を取り除くためかかなり丁寧に説明をし、しっかりしたエスコートで連れ出された。

いきなり結婚して欲しいと軟禁状態にされたのと行動がちぐはぐでフィオナは少し混乱する。そもそも彼は敵兵のかなりの地位にある人物で、ただの侍女である自分を見初めるなど戯れにしても笑えない。若くもないし、特別美人ではない。

なぜ?と思っても誰に相談できるわけもない、先程まで傍にいたジェイドも今はどこにいるのかもわからない。この先再び会えるかも、敗戦国となった以上わからない。

ヴィンフリートはフィオナを寝室のソファに座らせ、自分は床に跪き真摯なその目でフィオナの顔を覗き込んだ。

「城が落ちたばかりで混乱しているとも思う、でもこういうことは始めが肝心で、きちんとしておくべきだと思っている」

「はぁ…」

「結婚をして欲しい」

本日3度目のプロポーズだった。

フィオナは一度目を閉じ、次はしっかりヴィンフリートの目をしっかり見返した。

「お戯れを。敗戦国の侍女と結婚など、軍議で報告したとおっしゃっていましたね、皆様に笑われたのでは?」

「祝福してくれた。ずっと結婚しないことを皆気にしていたようだからな」

フィオナの疑問をヴィンフリートは笑い飛ばす。

「そちらの国の方は皆様少しおかしいのでは?」

「結婚すると報告があれば祝福するのが普通であろう?」

「それは身分や家柄が釣り合った結婚の時の話です。しかもこのような戦時中、敵国の人間と結婚すると言って祝福する人間はいません」

「それは貴女が俺と結婚したくないということか?」

フィオナがすぐに答えを用意できず2人の間に嫌な沈黙が流れる。

「歳はいくつだ?」

「あまり言いたくはありませんが、30は超えました」

「そうか。ずっと城勤か?」

「はい、姫様の遊び相手としておそばに仕え、そのまま侍女になりましたので」

「城勤をしていればそれなりに男からの誘いもあったであろう?まだ結婚はしていないのだったな?」

「ええ、姫様の結婚が決まってからとなんとなく思っておりましたし、ジェイド様も結婚なされなかったので」

フィオナはヴィンフリートに問われるままに答えた。隠し立てするようなことでもなかった。

「ジェイドとは宰相の息子だな?恋仲だったのか?」

「とんでもございません。身分が釣り合いません。私は姫様の遊び相手で、ジェイド様も宰相様のお子様でよく城に遊びに来ておりましたから、幼い頃は3人で城中を駆け回りました。ただそれだけでございます」

「身分が釣り合えば、貴女は宰相の息子と結婚したのか?」

「そのようなこと考えたこともございません。私はただの侍女です」

「今は侍女でもない、仕える主人はいなくなった。俺もただの一兵にしかすぎん。それでも身分は釣り合わないか?」

「たたき上げの一兵には見えませんわ」

「本当だ、俺の生まれはこの国でもない、流れ着いて生活の為に軍に属した、たまたま戦が起き、何度か武功を立てることができ、今のこの地位にいるだけだ」

「今の地位が私には不釣り合いですわ」

「ならば軍を去ればいいか?そうすれば地位もなくなる」

フィオナはしつこいヴィンフリートに困った。一晩の相手をせよや妾になれならばまだわかるが、どうやら彼は本当に自分と結婚しようとしているらしい。彼に何の得があるのかはわからないが。

「それでも、敵国の人間と婚姻などできるはずがございません」

ピシリとフィオナは言った。敗戦国の人間が敵国の大佐にそんなことを言っていいのか迷ったが、どう考えても現実的ではないことを言っているのは相手だ。

「そうか。わかった、それでは話しをかえよう」

フィオナの言葉にヴィンフリートは立ち上がり、上からフィオナを見下ろした。

「宰相の息子とは懇意らしいな。あいつが死ねば悲しいであろう?」

フィオナが「なにを?」と声に出す前にヴィンフリートは次の提案を出してきた。

「俺は一応この度の作戦で指揮権をある程度持っている、俺の一言で敵国の兵を生かすことも殺すこともできる」

ヴィンフリートがなにを言わんとしているかフィオナにもわかった。

ふーっと諦めたようにフィオナは息を吐いた。

「本当に貴方が何を考えているかわからない。たかが城の侍女など勝手にどのようにでもしたら良いでしょう。貴方の『結婚して欲しい』という言葉に私は『はい』とお答えしたらジェイド様の安全を保障してくださるということですね?」

ヴィンフリートはようやく嬉しそうに頷いた。

「どうぞ、プロポーズしてくださるんでしょう?」

フィオナの呆れたような声にヴィンフリートは本日4度目のプロポーズをした。

日付が変わる直前の出来事であった。

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