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昼食とともにランスロットは数冊の本と刺繍道具を持ってきた。朝のように怒鳴ることはなかったが、見下され忌み嫌われていることはよくわかる態度だった。
フィオナは食事をどうしても食べることができなかった。これから何が起こるかはわからない以上食べておいた方がいいことはわかっている。ヴィンフリートの気が変わり今にもこの部屋から放り出されるかも、チャンスが巡ってきてこの城から抜け出せるかもしれない。そうなると次まともな食事がいつになるかはわからない、だから食べるべきだと頭ではわかっていたがどうしても口に運ぶことができなかった。
この気持ちは一体なんだろう、昨日の夜少し軽くなった心は朝のランスロットによってまた重く沈み込んでいる。
ヴィンフリートと結婚なんてとんでもないということは自分でもわかっていたし、自分でも不可能だと思っていた、なのになぜこんなに気が重いのだろうか。大体まだ出会ってすぐの人を好きになれるわけもないのに。
今までだって自分が幸せな花嫁になれるなんて想像していなかった。姫の嫁ぎ先でも決まれば、歳も歳なのでどこかから紹介された後妻にでも収まり、さしあたって日々の生活に事欠かない程度がいいところだと想像していた。
でも今ぽんっと身分不相応に幸せな未来を見せてもらい、少しその気になっていた。全てが上手く進むのならそういう未来が自分にも訪れるかもしれないと心の奥底で思ってしまった。
だからこんなに落ち込むんだ。
本当に自分がオメデタ過ぎてフィオナは苦笑してしまう。
こんなに欲張りな自分を誰かに指摘されるのが嫌だ。ランスロットに見透かされている気がするのが嫌だ。
持ってこられた本にも刺繍道具にも手をつけず鬱々と過ごすとあっという間に部屋が薄暗くなっていた。
食事のお盆を持って扉を開いたヴィンフリートに「灯りを灯せばいいのに」と言われてフィオナはすっかり部屋が暗くなっていることに気づき、慌てて蝋燭に火をつける。
テーブルにお盆を置いたヴィンフリートに居心地悪くフィオナが「お帰りなさい」と声をかけると、蕩けるような笑顔を向けられた。
向かい合って席に着き、食事を始める。
「本や刺繍道具は気に入ってくれたか?」
「はい、ありがとうございます」
ヴィンフリートの質問になるべく表情を崩さずフィオナは答えたつもりだが、ヴィンフリートの目が悲しげに細められる。
「何かあったか?」
「いえ、なにも」
「何かあれば話してほしい。俺は人の気持ちを推し量るのが苦手のようでな、だいたいの人間に言われるのだからそうなんだろうと思う。だからいつも気をつけているんだ、気持ちの変化に気づけないから表情や体の動き、いつもより少しでも違うと感じたら直接訊ねかけるようにしている」
彼は誠実な人だと思った。
敵国の将軍である彼を、自分が今まで出会った人の中で1番誠実な人だと思った。
だからフィオナはもう一度にっこり笑って「何もありません」と伝えた。




