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自分の人生で牢に入るという日が来るとは予想しなかったなと1人の地下牢でジェイドは鉄格子にもたれて座り込んでいた。
自国は目障りなほど豊かでもないが、貧しくもなく、さして突出した何かがあるわけでもなかったので大国の狭間で平穏を享受していた。
風向きが変わったのは数年前、とある大国の王がいわく付きで死にその息子が王座についてから。若い王は好戦的で、近くの小国を武力でどんどん併合し、近隣の大国の領土さえ抉ろうとしていた。
そのせいで自国の姫の結婚について熟慮しなくてはいけない事態となった。
王に他に子どもができないことから元より姫の結婚については慎重に考えられていた。自国の要職に就く家の子弟を婿にするか、大国の王に嫁がせ生まれてきた子を次の王としてむかい入れるか、大国に嫁がせるならその大国はどこを選ぶべきか。
答えがまとまらないまま問題のとある大国から先制攻撃を受けた。予想はしていたものの準備は整わず、城を落とされ敗戦、父である宰相が率いいる軍はほぼ無傷で残っているだろうが、敵の力は圧倒的だ。
これ以上戦うつもりがないというあの男の言葉を信じていいのだろうか?
戦うことが無意味だということはわかっているが大人しく属領になったとき姫の立場はどうなるのだろう。敗戦国ではあるができるだけ有利にことを進めたいとは思っている。自分の立場はどうなってもいいが、むしろ宰相の息子などという肩書きがなくなった方が清々しいが、姫のことフィオナのことは安心させてやりたい。
ジェイドは全て片がついたらこの国から出て行きたいと思っていた。
ずっと思っていたこの小さな国の外に出てみたいと。ずっと宰相の息子という肩書きがジェイドをこの国に縛りつけていた。いずれ自分がこの少し傾けば崩れてしまいそうな国を背負わなければいけないということがジェイドには負担だった。自分に小国とはいえ一つの国を取り仕切るだけの才がないのは気づいていた。死んだ王や家柄だけで宰相という地位にいる自分の父親にも、だからいつもこの国は危うい立場から逃れられず、決断を先延ばしし、結局国がなくなる。滅びるのが目前に迫った今、無責任だが肩の荷がおりてホッとした。
国境に展開している軍はこちらを引きつける罠で、王都に向かって大軍が移動しているとわかった時、姫とフィオナの身の安全だけが心配で単騎で城に駆けつけた。
わずかな者しか知らない城からの隠し通路の出口で丁度よく姫たちと会うことができた。フィオナは城に残り、少しでも姫が逃げる時間を稼ぐためにも別の通路からでることにしたらしい。ジェイドは恐らくフィオナが選ぶだろうと思った通路の出口から敵の手に落ちた城に向かった。フィオナには会えたが、敵にも見つかって拘束された。
拘束されてホッとしたと言えば矛盾するかもしれないが、決定権が自分に無くなったことに安心した。どのような結果になっても自分のせいではない。
でもヴィンフリートは、そんなジェイドの気持ちを見透かすかのように最後の責任を与えようとする。
この国のために、姫とフィオナのために、自分ができることは少ししかない。その少しのことをきちんと済ませば、生まれてからずっと背負わされていた未来の宰相という重圧から解放される。