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されど恋  作者: nana
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部屋から出てきたヴィンフリートからあの女の匂いがして、ランスロットは眉間に皺を寄せ、綺麗な青い瞳に非難の色を浮かべた。

ヴィンフリートはランスロットのそんな様子など気づかず通り過ぎていく。ヴィンフリートが出てきた扉を冷たく一瞥して、ランスロットも彼を追いかけて歩き始めた他の部下を追いかける。

ヴィンフリートは後ろ姿さえ美しい。ランスロットは彼の後ろに立つことができる幸福を噛み締めた。


初めてランスロットがヴィンフリートに会った時、彼はただの兵にしか過ぎなかった。

その時、賊によって国内が混乱に陥っていた。軍による討伐で抜きん出て手柄を立てていたのがヴィンフリートだった。

何十人もの賊を1人で一網打尽にしたなどという噂話が1人歩きしていて、ランスロットの耳にも入った。士官学校で一緒だった同僚に誘われてその野獣のような男を見にいこうということになった。

予想に反しヴィンフリートは美しかった。

華美ではない軍服をきていても溢れ出す育ちの良さ、しっかりとした筋肉がついた肢体、整った男らしい顔立ち、濃い茶色の髪は艶やかで、深緑の瞳は引き込まれそうなほど魅力的だった。見るからにただの兵ではなかった。

思わず声をかけたランスロットに北の方の生まれだと答えてくれたがそれ以上は穏やかな笑顔でかわされた。

その後も機会があればランスロットはヴィンフリートに会いに行き、時間があれば飲みにも行ったし娼館にも行った。

そうしているうちに、何度かの戦でヴィンフリートは武功を立て、王の覚えもめでたく、ランスロットの階級を追い抜いた。

ランスロットは上官になったヴィンフリートに志願して部下になった。ヴィンフリートの役に立てることが何よりの喜びだった。

軍での地位が上がれば色々な誘いがヴィンフリートの元にもやってきた。社交界のしがらみに疎い彼のフォローをするのもランスロットの大事な役割だった。

叩き上げの人間などと馬鹿にしていた貴族どもが、ヴィンフリートの知性と機転のきいた対応に舌を巻く姿は愉快だった。舞踏会でも名家の令嬢相手にそつなくダンスをこなした。

ランスロットは父にヴィンフリートをぜひ婚約者が丁度よく死亡した姉の嫁ぎ先へと話し、父や姉も乗り気になったが、肝心のヴィンフリートに断られた。

理由が笑ってしまうほど稚拙だった。結婚は好きになった者としたいと真面目な顔で言うのだ。ランスロットははじめ、冗談かと思い笑ってしまった。

ランスロットの家はかなりの由緒ある家柄だ。その娘が嫁ぐと言うことはヴィンフリートはこの国でかなり大きな後ろ盾を得たと言うことになる。彼のこれからの出世にも有利に働くだろう。

それでも、彼は断った。

ランスロットには理解不能だった。そもそもヴィンフリートの女の選び方については、一緒に娼館に行った時から疑問に思っていた。

彼はいつもその娼館で1番パッとしない稼ぎの少なそうな女を選ぶのだ。時には娼館に来たというのに女を抱きもせず、法外な金額を払う。舞踏会でどんなに評判の美女に声をかけられても体良くかわしてしまうし、皆から疑問の目で見られてはいた。

誰かそばにいるのかとも勘ぐったがそういうわけでもない。

痺れを切らして本人に訊ねかけると運命の相手を待っていると笑って答える。

ランスロットはそんなとこまで彼らしいと最後は諦めた。だが危ういと心配はし続けていた。

そうすると今回のことだ。

落とした敵の城で、敵国の姫付きの侍女といきなり結婚すると言い出した。

よほどの美女なら諦めもついたが、ただのイキオクレの平凡な女だ。髪は侍女にしては整えて腰まで伸ばしているが、薄い茶色の色は安っぽく、目の色も薄茶で気品や美しさからは程遠い。体も薄く魅力に欠ける。何より知性が感じられない。

ランスロットはヴィンフリートの目を覚まさせるのは自分の役目だと思っていた。

何としても彼に気づいてもらわなくてはいけない。

あの女と結婚などできない、結婚などしても何の得にもならないと。

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