13
ヴィンフリートは部屋まで送っていくと言ってきかなかった。
しっかり腰に手を回し密着されて歩くのは人目があるので遠回しに拒否したのだが、フィオナの拒否にヴィンフリートは気づかなかった。
すれ違いヴィンフリートに頭を下げる人達は敵兵ばかりだ。
この城にはじめからいた人達はどうしたのだろう?全員脱出できたなんていううまい話はないだろう。どこかに全員捕らえられている?殺された?聞いてもいいものかと考えあぐねてフィオナがヴィンフリートを見上げるとヴィンフリートは幸せそうに笑った。
何というか、毒気が抜かれる。フィオナは訊ねかける事を諦めて少し口角を上げ彼の笑顔に応えた。
ヴィンフリートの後ろをぞろぞろと部下が付いてくる。自分が従えているわけではないとわかっているが落ち着かない。
ヴィンフリートに与えられている部屋に着くと部下は部屋の前で待機し、2人だけが部屋に入った。
「不安なことも多いと思うがもう少し我慢して欲しい。悪いようにはしない、できる限りの配慮はする。ジェイド殿に関してもできる限り」
ヴィンフリートは扉の前でフィオナに向き合った。フィオナは神妙な顔で小さく頷いた。
「できれば服を着替えて欲しい」
フィオナがハッとヴィンフリートを見上げると「気に入らなかったか?」と訊ねかけられたので慌てて首を横に振った。
「よかった。あと、できれば、名前を呼んで欲しい」
ヴィンフリートはおずおずと口にした。
「え?」
「だめか?」
「いえ、あの、……ヴィンフリート様」
フィオナが躊躇いがちに名前を口にするとヴィンフリートはガバッとフィオナに抱きついた。
「もう一度呼んで欲しい」
「ヴィンフリート様?」
フィオナを抱きしめるヴィンフリートの力が少し強くなった。
「幸せにする、必ず。信じて欲しい、いきなり難しいとは思うが、少しずつでいい。努力するから」
扉の外には彼を待つ部下達がいる、たくさんの部下を率いて、大佐という地位に就いている彼が自分にこんな事を言うのがフィオナは不思議だった。
「離れがたい」
フィオナの髪に頬を擦り付けヴィンフリートは言う。
「皆さんお待ちでは?」
「そうだな」
「ヴィンフリート様?」
「うん……」
ヴィンフリートはやっとフィオナから体を話した。
「なるべく早く全て終わらせるようにするから、落ち着いたらゆっくり話をしよう」
ヴィンフリートはその言葉にフィオナが頷くとやっと部屋の外に出た。
なぜ彼はこんなに自分に優しくしてくれるのだろう?
ふと頭に浮かんだ疑問の答えは思いつけなかった。
『できるなら結婚してもらえ』
フィオナはジェイドの言葉を思い出しながら服を脱いだ。