12
「なぜ?」とヴィンフリートは呟いた。
そこにいたのは朝部屋で別れて、今も部屋にいるはずのフィオナだった。
ジェイドがぎゅっと一度強く握ってからフィオナの手を離した。フィオナがジェイドの顔を見るとジェイドが難しい顔で頷く。
フィオナはおずおずとヴィンフリート方を向く。
部下たちを連れている姿を見ると彼が大佐という高い地位につく人なのだと実感した。ヴィンフリートの横には昨日食事を届けてくれた金髪碧眼の青年が悪意をたっぷり含んだ目でフィオナを見下ろし立っていた。
フィオナは悲しげな視線をこちらに向けるヴィンフリートに覚悟を決めて言い訳を始める。
「どうしてもジェイド様のことが心配で、許可を取ろうと思ったのですが、部屋の前に人がいなくて、歩いていて誰かいたら伝えてもらえばいいかと思ったのですが誰にも会えず、不安になって地下牢まで降りてきました。だって他に知っている人がいる場所がわからなくて」
眉を寄せて、なるべく可哀想に思ってもらえるように顔を歪めて、最後に小さな声でとってつけた様に「ごめんなさい」と言った。横目でフィオナがジェイドを見るとその目が頷いていた、これでいいというかの様に。
「すまなかった」
ヴィンフリートは本当に申し訳なさそうにフィオナに言った、真っ直ぐフィオナの目を見つめて。
「敵の手に落ちた城で部屋に閉じ込められていれば不安にもなる、気づけなくてすまない。昨日からジェイド殿のことも気にしていたのに俺の配慮がかけていた。何よりフィオナが無事でよかった。城の内部のことは俺たちよりわかっているとは思うがここはもう敵兵のいる場所だからな。俺の部屋以外は何かあったら大変だからできれば出歩くのはやめて欲しい。申し訳ないとは思ってはいるのだが」
ヴィンフリートの口から出てくる嘘ではないフィオナを気遣う言葉にフィオナは何も言えなくなった。ヴィンフリートは黙ったままのフィオナの肩に優しく手を置いた。
「ジェイド殿の様子を見にきたんだ。できればフィオナと会える様にと思っていたのだが手間が省けたよ」
ヴィンフリートはフィオナに優しく言って、鉄格子の向こうのジェイドに向き合った。
「ただの兵というなら俺の一存でどうとでもなるが、ジェイド殿は少し偉すぎたな」
フィオナに言い訳するかの様にヴィンフリートは言葉を繋いだ。
「どうだろう、我が軍はこれ以上の戦闘も望まないし、そちらとて城を落とされ王と王妃が死んだ今戦う意味も少ないだろう。勝ち負けだけで言えばこちらの勝ちだが大人しく属領になるというなら宰相殿や君の立場についても考えなくはない」
ヴィンフリートの提案にジェイドの目が戸惑いに揺れた。
「考える時間がジェイド殿にも必要だろうが、こちらにも時間はあまりない。今日中に君の考えをまとめて欲しい。もちろん君の一存では決めれないこともあるだろうから、宰相殿たちとも話し合いの場を構える用意はある」
ヴィンフリートは少し厳しい目でジェイドに言ってから、フィオナに向き直り肩を抱く。
「ジェイド殿のことは心配だろうが、こちらもきちんと考える、決して悪いようにはしないしないからフィオナも安心して欲しい」
フィオナは不安げな目でヴィンフリートを見て、ジェイドを見た。
「あの!」とジェイドが鉄格子を掴んでヴィンフリートに話しかけた。
「フィオナをよろしくお願いします!えっと、フィオナはいつも平気そうな顔をしてるけどそれは必死に我慢しているからで、あのわがままな姫にも愛想を尽かさず付き合って、戦が始まり侍女たちも城から逃げ出す奴が後をたたなかったのに最後まで姫の側に残っていて、貧乏くじを引くのが得意なんです。だから貴方はそれに気づいてやって欲しい。ちゃんと年齢聞きましたか?若く見えるけどもう30超えてるんですよ。何度か結婚の話も出たっていうのに、姫や俺が嫁いでから考えるって断って。今は『ジェイド様』なんて畏まってるけど、怒った時と文句言うときは『ジェイド』って呼び捨てで怒鳴り込んでくるし、本当にガサツで侍女としてどうなんだって思うんですけど、本当にいいやつなんです」
ジェイドは声を詰まらせながらヴィンフリートに言う。ヴィンフリートはフィオナの肩をしっかり抱きジェイドに頷いた。
フィオナはヴィンフリートの腕の中であの金髪碧眼の青年と目があった、嫌悪感を隠さない汚物を見る様な目で見られた。