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可愛らしい子だった、彼女を知る人は皆そう言った。
30を過ぎたイキオクレとは誰も言わず、可愛らしく明るい子だった、幸せになってくれればいいと思っていたと口をそろえて言った。
自分も思い出せるのは明るい笑顔。
自国が敗戦の憂き目をみたときも、前向きな姿勢を崩さなかった。明るい子だとおもっていたのは、ただの強がりだったのかもしれないと今なら気遣うことができる。
そう、あの時も彼女は自分ににこりと笑いかけたのだ。
城壁、剣のぶつかる音、血の臭い。女がいるには物騒な場所で彼女は立っていた。
助けなければと思った、すぐにそばに行こうと思った。
そう思ったのと同時に、彼女の体に誰かの剣がぶつかった。
ひどくゆっくりと時間が流れて、剣が彼女の肘の上を裂き、彼女の左腕が体から離れていく。自分はその様子を、城壁の下から見つめることしかできなかった。
城壁の上の彼女と目があった。彼女は自分を見つけて、微笑んだのだ。何かを言おうとするかのように彼女が口を開きながら、バランスを崩した体は城壁の向こう側へと落ちてゆく。
その様子を見て、やっと弾かれたように自分の体が動いた。
敵も味方もわからない人混みをかき分け、城壁の向こう側へ。そこに彼女の姿はなかった。落ちた場所がずれてしまったのかもと城壁をぐるりと回ったが見つからない。
誰かに助けられたのか、自力で逃げ延びれたのか、それとの……。
全てが終わった後城壁に上がると、敵味方折り重なる死体の中で、自分を待っていたかのように白い腕があった。彼女のものだとすぐわかる。自分が指輪をはめようとした薬指もある。
その場に崩れ堕ち、その白い腕の細い指にすがりつき、泣いた。