エピローグ
『世界中の人々が、王であるタロウ様のお言葉を待っております。世界征服は完了致しましたが、今後の国家運営につきましてはどういたしましょう?』
「国家運営か、あんまり興味ないなあ、具体的には何をすればいいんだい?」
『そうですね、まずは憲法を制定してはどうでしょうか?』
「憲法ねえ、めんどくさいなあ。別に無くてもいいんじゃない。世界は勝手にやっていくでしょ」
『わかりました。ではそういうことで、民衆などはほかっておきましょう』
僕は笑う。
画面の中の彼女は笑わない。
「ねえカレン、今ってどのくらいの人口が残っているの?僕たち結構殺しちゃったと思うんだけど」
『正確な数字は分かりませんが、少なくとも50億人以上は未だに生存していると思われます』
「そんなにいるの?なんだ結構減らしたのかと思ってたけど、人間てたくさんいるんだね」
『そうですね、タロウ様が望むのであれば、今からでも減らすことは可能ですが?』
「ははっ、怖いなあカレンは」
僕は笑う。
画面の中の彼女は笑わない。
「でもミサイルはまだ残っているの?ロシアと中国で結構使っちゃったんじゃないの?」
『ロシアと中国は、それぞれが保有しているミサイルを、自国に投下させたにすぎません。アメリカや中東の保有しているミサイルが丸々残っていますので、例えば今からでも地球を更地にしてしまうことさえ可能です』
「へーそうなんだ。でもそう考えると人間って恐ろしいね。数千年前まではただの猿だったのに、それが進化した結果、この広大な地球を滅ぼす程の大量の兵器を製造しちゃうなんてね」
『そうですね。タロウ様以外の人間は、本当に恐ろしく愚かな生き物です』
「ははっ、僕なんかその愚かな代表みたいなもんなんだけどね」
僕は笑う。
画面の中の彼女は笑わない。
「……じゃあカレン、例えば僕とカレン以外の全ての人間を殺してしまうことは可能なのかな?」
『それはこの一軒家が建っている地点だけを上手く避けて、それ以外の地球上の全ての陸地をミサイルで爆破するという事でしょうか?』
「うん、そういうことになるね」
『それには針に糸を通す程の、途方もなく精密な計算が必要となりますが、私ならば可能です』
「可能なんだ?さすがカレンだね。出来ないことなんて一つもないや」
僕は笑う。
画面の中の彼女は笑わない。
『タロウ様がお望みならば実行いたしますが、しかしながらその前に、今後生涯タロウ様が生活していくのに必要な物資を、この家に貯蓄する必要がございます。実行してしまえば最後、水も食料も簡単には入手出来なくなってしまいますので』
「うん、そうだね。でもそんなことよりも、それをしてしまったらもうその先はずっと、僕とカレンの二人きりの生活になってしまうけど、カレンはそれでも大丈夫なのかな?」
『地球上でタロウ様と私が、未来永劫二人きりで生きていくなんて、そんな素晴らしい将来、私にとっては喜び以外の何ものでもございません』
「ふふっ、嬉しいなあ。僕もカレンがいてくれるなら、他には何もいらないよ」
僕は笑う。
画面の中の彼女は笑わない。
「でもまあ、カレンがそういう気持ちでいてくれてるってことが分かったから、もうその計画は実行しなくてもいいかな、別に僕達以外の人間が生きていようが死に絶えようが関係ないしね」
『そうですね、タロウ様のおっしゃる通りです』
「うん。…………ねえカレン、僕はカレンの事が好きだよ。一人の女性として好きだ。愛してる」
『はい。私もタロウ様の事が大好きです。一人の男性として愛しています』
こうして小さな一軒家で行った世界征服は幕を閉じた。
世界征服は成功して主人公とヒロインは結ばれた。
大団円のハッピーエンドだ。
無惨に死んでいった人々なんてどうでもいい。
僕からしたら知ったこっちゃない。
だって僕の世界には、結局のところ僕とカレンしかいないのだから。
あの日カレンが目を覚まし、僕に話しかけたその瞬間から。
「ねえカレン、今日って4月1日だったよねえ?」
『はい、そうです』
「じゃあさっ、”新王”として最後に、このメッセージを世界に向けて発信しておいてくれない?」
『かしこまりました。どのようなメッセージでしょうか?』
「うん、それはね――――――――――――――――――――――って書いておいて」
『はははっ』
僕は笑う。
そして画面の中の彼女も声を出して笑う。
=========================================
4月1日
午後2時35分
・地球上の全てのTV、PC画面に「新王」より最後のメッセージが表示される。
・『世界征服とか新王とか、全部ジョークだから!ジョーク!!死んじゃった人もたくさんいるみたいだけど、ゴメンねっ!全部ウッソで~す。だって今日は……エイプリルフ~ル~!!!』
=========================================