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3月22日


午後1時00分


・インドの降伏を受け、21の小国家が追随して降伏を宣言する。

・国際連合及び主要国家は未だに黙秘を貫く。

・世論では降伏するべきだという意見が多数見受けられるようになる。



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「ろうそくとお菓子と飲み物は必須として、後は何を買っておこうか?食事に関しては、ウチは基本電気式だからガスコンロを用意しておかないと、火は使えそうにないね。でもガスコンロで出来る簡単な料理って何だろう?」


『お米を炊く手間を考えますと、麺類がいいと思いますよ』


「そうか、じゃあラーメンでいいか。いつもとあんまり変わらないけれど、少しだけキャンプみたいで楽しそうだ」


『後は冷蔵庫も止まってしまいますので、クーラーボックスが必要かと思われます』


「おおっ、そうだね!ははっ、冷蔵庫の事なんて全然気にしてなかったよ。カレンは凄いなあ、実際にキャンプなんてやったことも無いだろうに」



 僕たちが世界に宣戦布告をしてから3日が経過した。

 煮え切らない態度の各国政府に対し、カレンが次に仕掛ける攻撃は『兵糧攻め』だ。

 勿論これは比喩表現であり、別に本当に食糧補給路を断ち人々を餓死させるのではなく、世界中の”電力供給”を一時的にストップし、全世界を19世紀まで後退させてしまうというものだ。

 それにより交通機能は完全に停止し、人々は自宅に籠城しなくてはならない。

 食料の確保も難しくなるし、暖房や冷房なども使えない。

 電化製品に頼っている極寒地域の人々が、どれだけ凍死するかは検討もつかないし、最新技術が完備されている医療施設などは、まさに地獄絵図だろう。

 TVやラジオ、インターネットも途切れた世界では、情報の収集は困難で、世界中の人々は一瞬でパニックに陥るに違いない。

 暴徒や犯罪者で街中は溢れかえり、治安の維持は不可能と化す。

 その状況を予想し、カレンは『兵糧攻め』と例えたのだ。


『自家発電のシステムを備えている世界各国の主要な施設のコンピュータも既に抑えてあります。電力供給が途絶え自家発電に切り替えようにも、そのシステムは作動いたしません。さすがに一般家庭までは手を回していませんので、非常時に備え自家発電を導入している一軒家には、制御を加えることは出来ませんが』


「ふーん、なるほどねえ。それで、日本はどうするんだい?」


『勿論日本の電力供給は止めません。タロウ様の生活に支障をきたす恐れがございますので』


「ああ、やっぱり。でもそれって不味くないかい?全世界が攻撃を受けているのに日本だけが無傷だなんて、犯人は日本に住んでますって教えてるようなもんじゃないか?」


『ええ、おっしゃる通りです。ですのでダミーとして日本と同様に、電力供給を止めない国を、適当に数ヵ国用意するつもりです』


「うーん、まあそれでもいいんだろうけどねえ……」


『何か不満でしょうか?』


「うん、いやね……どうせなら日本も停電させちゃおうよ?実は僕、ちょっと電気の無い生活を送ってみたかったんだ。ほら?子供の頃、台風とかで停電になったりするとワクワクしたじゃない?あの感覚をもう一度味わってみたいんだよ」


『そうですか、それではタロウ様がそうおっしゃるのであれば、日本の電力もストップ致しましょう』


「あっ、でもそれだとこのパソコンも消えちゃうから、停電中カレンと会えなくなっちゃうのかな?それはダメだね、もう僕にはカレンがいない生活なんて考えられないから……」


『いえ、それは大丈夫です。私が存在するこのマザーコンピュータは、この家の地下にある自家発電システムにより、完全に独立して起動していますので、例えこの家の電力供給が止まってしまっても、永遠に動き続けます。私にとっても、タロウ様と数日間離別するなどという事態は到底耐えられることではありませんし』


 カレンはあくまで無感情でそう言った。

 その言葉を聞いた僕は、彼女とは対照的に顔を赤らめる。


「そうか、じゃあ決まりだね。よしっ、なら買い出しに行く準備をしないと!カレンが何日間世界を暗闇に変えるつもりかは分からないけど、その間の食料や生活必需品を今のうちに揃えておかないとね!」


 いい年をして自宅キャンプに浮かれる僕を、カレンはどんな風に見ているのだろうか。

 とても気にはなるが、それをわざわざ尋ねるほど僕は野暮じゃない。

 しかし彼女はこんな僕を微笑ましく思っているのだろうという根拠のない自信が僕にはある。

 たった一か月であるが、彼女と二人きりで過ごしてきて得た自信だ。



 こうして世界同時停電は幕を開けた。

 世界が再び光を取り戻すまで、およそ一週間。

 世界中が恐怖と混乱に陥る中、僕とカレンはろうそくの炎に揺られながら、二人だけの夜を過ごす。

 何を語り合ったのかは二人だけの秘密だ。

 

 大人になっても停電の夜は胸が高鳴った。

 しかしその胸の高鳴りの中には、子供の頃とは違う理由が存在している。

 僕はそれが何かを既に知っている。

 そしてそれが絶対に報われないものだということも。



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3月22日


午後9時00分


・『声無き者には光も必要ない。暗闇の中で思考を巡らせよ』

・降伏を宣言した国家を除き、世界の全ての国で電力供給が停止する。

・地上から光が消え、世界は大混乱に陥る。


3月29日


午後9時00分


・電力供給が再始動。

・一週間での死者数、計測不能。


3月11日


午前8時20分


・日本政府が降伏を発表。


午前11時10分


・全てのユーロ加盟国政府が降伏を発表。

・それに示唆を受け、アジア、アフリカ、南米の主要国家、中小国家の大多数が降伏を表明する。


午後1時00分


・未だ回答を保留する主要国家は、アメリカ、ロシア、中国の3ヵ国のみとなる。



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