よそはよそ、うちはうち
「はい、また機会があれば。失礼します」
そう言って電話を耳元から離す。わざわざお礼の電話を個人によこすとは。感謝の電話なら会社の方にすればいいのに。
「仕事関係の電話?」
「うん、そんなところ」
「女?」
「浮気じゃないよ」
「女であるのは認めるのね」
彼女はどこか冷めた目でこちらを見る。否定するから怪しまれるのだ、隠すから探られるのだ。ならば逆に、肯定してしまえばいい。僕がそんな事できるやつではないと、一番近くの君ならば理解できるだろうに。
「ずいぶん優しいお声でしたけどね」
「そりゃ仕事でお世話になったから」
「ふーん……」
「不機嫌?」
「いーえ。ただ私に優しさとか気遣いが少なくなってるんじゃないのかなと思いましてねぇ」
やっぱり不機嫌じゃないか。それもこんな電話一つで…… と思ってしまうのは僕の都合。君と一緒になることを決めた以上、君の都合も僕の都合の一部なのだ。
「君も。お隣の夫婦には随分と上品な話し方になってる気がするけど?」
「それはそうでしょ。他人なんだし、気を使うわよ」
「そうだよ。だから僕もさっきの電話は気を使って丁寧な口調になった」
関わりが浅い人にほど気を使ってしまうものだ。それを優しいとか、丁寧とか言われても。結局それは、偽って話しているのだ。僕の本来は、君の前だけ。こうして気を使わずに、話したいことを話すだけ。それがとても心地良い、そう思っているんだけど。
「まだまだ私のことを理解出来てないね」
「うーん、じゃあ今から丁寧語で話す?」
「やだ。なんかそれ、負けた気になっちゃうから」
やれやれ…… お隣の夫婦も、朝見かける時は仲睦まじい雰囲気だけれど。家の中では、僕たちみたいになったりしてるのかな? まぁ夫婦生活なんて十人十色か。気にしても仕方がない。僕が気にするべきは、目の前の人。
よそはよそ、うちはうち。それでいいのだ。
勢いでの執筆なので、誤字脱字ありましたら申し訳ありません。