ルビーとアマダンダイト
用語解説
召喚士 サモナーと読む。この世界に数百いると言われている生物、ドラゴンを2体以上呼び出す事ができる者の事。一体を僕、もう一体を竜依として戦うのが定石。
森。
庭園か。カイルの目にはそう映った。
最初は木々にだけ囲まれていると思ったが、後ろに噴水があったのである。
透き通る水が、銀の綺麗な彫刻から。
ここは、何処なのだろう。
「ミアは質問します。」
ボウッと、後ろから発火したような音と共に声がする。
カイルは噴水から目を離す。
そこには少女が立っていた。
紫の髪に、黄色いローブ。顔は整っているが、彼女はこの森には異端の存在のように見えた。
彼女の足下は燃えていたからだ。
森に火など、似合うわけがない。
「ここは一般人の立ち入りを禁じています。どのように侵入したのですか。」
ミアと言っていたか、少女は立ち止まったままだ。
「いや、俺は移動魔法で飛んできて…。」
カイルの答えをミアは否定した。
「それは不可能です。この国の中での移動魔法発動は我々が見ています、感知できなかったと言うことは外の国からです。あなたの魔力でここに来る程の移動魔法は使えない。それでいて、今日移動魔法の申請をしてきたのは我々を束ねるミザール様の旧友、カペラ様お一人です。」
カイルはカペラの名前を聞いて説明する。
「そのカペラが俺の師匠なんだ!師匠の魔法で飛ばされたらここにいたんだよ!」
ミアはそれを聞くと怪訝そうな顔をした。
そして続けた。
「なら、見せていただきましょう。弟子というなら私をあられもない姿にすることくらい簡単でしょう。」
そういうとミアは閉じていた脚を肩幅に開く。
カイルにはブーツが見えた
赤と紫のブーツである。
ヒールが高く太い。尖った爪先もだが、まるで端同士が剣のようだ。
ふと、ヒールが回転、折れ、かかとの方に寄る。
すると、土踏まずの辺りから何かが降りてくる。
火を使わないコンロを想像してくれればいい、円型のパーツが出てきて、ミアの体を浮かせる。
一瞬ではなく継続的に、人を浮かせている。
あのパーツはブースターか。ともかく、彼女が履いているのは、マジックブーツ。
聞いたことしかないが、今でも存在し魔法がうまく使えない者を手助けする、《魔具》。
「どうしました?魔具を見たことくらいはあるでしょう。」
カイルは必死に思い出す。マジックブーツは人を浮かす事が仕事ではない。
彼女が身に付けているタイプは改造が施され、移動能力を強化している。
マジックブーツの攻撃方法、それは…。
「っ…!!!!」
カイルは数メートル飛んだ。
木々を突き抜け、少し開けたところで転がされる。爆発だ。
目の前、それもカイルとの距離はほぼゼロ。
強化した魔法を蹴り、出す。マジックブーツの本当の性能を思い出す頃には、カイルの服は焦げていた。立ち上がると、ミアが目の前に滑るように出てくる。
「生きているとは、流石ですね。ただでさえ賢者レベルにブーツで3乗したミアの魔法を耐えるとは。やはりドラゴン使いですか、普通の人間は即死です。加護を受けている証拠です。」
カイルは痛みを抑えながら言う。
「君も…使えるのか…?」
『カイル、そんな事を訊ねている場合ではない。次を受ければ命が危ないぞ。』
ファフニールの声が聞こえる。
ミアの攻撃を察知したのか、どこからか話しかけてくる。
「愚問ですね。私は召喚士です。見せて差し上げましょうか?あなたのそよ風など消し飛ばして見せますよ。」
ミアは浮いたまま訊く。
カイルが警戒して身構えた途端、後ろから衝撃が走る。
何か大きな物にぶつけられたような感覚。しかし、ただぶつかって来たのでは無い。堅い何かで背中の肉を削られた。
そして、ミアが脚を振るう。
爆発でカイルはまた吹き飛んだ。
「ぐっぁぁぁあ!!!」
地を転がりながら見た。
黒い竜の姿、少女に寄り添うように付き従う。
「これが私の一の竜、私の父です。」
歪む、歪む、歪む。




