螺旋
用語解説
竜依 (龍依) ドラゴンアームドと読む。竜と人とが心を通わせ、更に自信の才によって使うことが出来る秘技。人に竜の姿を写し強力な力を得る。
ドラゴン 竜、龍と呼ぶこともある。どのようにして発生したかは不明。人が膨大過ぎる魔力に呑まれた時等に人から変異する事例も確認されている。ブレス、強靭な鱗、牙、爪等が攻撃手段。
「へぇ…まさか…生きているなんてね。驚きで動揺が隠せませんよ、カイル君。」
フォーマルハウトとリヴァイアサンに即死攻撃と言っても過言ではない連携を食らったカイルは一秒も経たない内に傷を癒し、風を集め、姿勢を直して立って、フォーマルハウトを見た。
もちろんこれは影の国での治療、修行を行ってカイルが戻ってきたからであり、カイルがその場で自身を回復するような魔法を使ったわけではない。
「申し訳ないけど、闘いの最中に自分の影と契約させてもらったよ。これで対等だ。」
カイルは自信を持って言う。
当て付けはフォーマルハウトに伝わったのか、彼女は苦い顔をする。
「へぇ…本契約を済ませて私に並んだつもりでいるのですか。甘く見られたもので…。」
フォーマルハウトは腕を振った。
リヴァイアサンが主を守るようにとぐろを巻く。
海王竜の体に何かが衝突した。
『ふぅん…こんなもので私を倒せるとでも?ファフニール。』
リヴァイアサンの胴には鎖が刺さっていた。
鎖を握っているのはカイルと契約し本来の力を手に入れたファフニールだった。力強い翠の身体はリヴァイアサンの動きを制していて、ニヤリと笑う。
『それにしては随分と大人しいではないか、貴様の潮臭い香りは此方には届いておらんぞ。』
フォーマルハウトはリヴァイアサンに怒鳴る。
「リヴァイアサン!力負けは許しても、この場でそこの龍に負けるのは許さない!本気を出しなさい!《竜衣》よ!」
『致し方ないか。フォーマルハウト、私に喰われるなよ。』
そういうと、リヴァイアサンはその場から消え、鎖は地に落ちた。
「り、りゅうい…?」
『ドラゴンアームド、というやつだろう。油断するで無いぞ、貴様は今星の娘に追い付かんとする勢いだ。ここで死ぬのは惜しい。』
カイルの問に落ちた鎖を引っ張り戻しながらファフニールは言った。
フォーマルハウトの周りを蒼い何かが漂い巻き付く、リヴァイアサンの鱗のようなそれは、鎧のようにフォーマルハウトの腕、銅、スリットで見えている脚に付いていく。
フォーマルハウトの頭から蒼い角が二本伸びると、頬の横に鱗が浮かび上がる。
人竜一体、自ら契約したドラゴンと心を通わせて共にすべてを捩じ伏せる。これが《竜衣》、
ドラゴンアームドである。
ドラゴンと契約できる魔法士は数少なく、更に自らのドラゴンを身に纏えるのは一握りである。
『さぁてカイル、初撃は防いでやろう。あとはお前が縛れ。』
「わかった。でも、ホントにそれで勝てるのか?」
ファフニールが答えようとしたとき、フォーマルハウトはそれを遮った。
『何を相談しているかは知らないけれど、カペラの前でお前達を殺せばアイツは止まる。これからが全てうまくいくんだ…。大人しく死んでもらう。』
フォーマルハウトの声はリヴァイアサンの声を重ねたように聞こえた。完全に一体化しているのがカイル達にわかる。
『おおおおぉぉぉぉぉ!』
フォーマルハウトは手の揺らぐ水で剣を作る。
長く、しなやかなその武器は《竜衣》しているための素早さと合わせてとてつもない威力を誇っているように見えた。が、それをファフニールはいとも簡単に防いで見せる。自らの腕で、易々と。
『さぁて、後は任せたぞカイル。ワシは久しぶりに動いて眠い。』
そういうとファフニールの姿は薄れていく。
その間にカイルは魔法を唱えていた。
「封竜一繕、《竜鎖》八章。《痺鎖》!!」
対ドラゴン用の魔法を全て綴った魔法書、《光輝》の内の単元、《竜鎖》の八章。《痺鎖》は、単純に相手を虚空から発生させる鎖でその場に縛りつける魔法だが、ドラゴンに対してより効果があり、その身を衰弱させる事が証明されている。
『ぐっアァァァァァァァァァァァア!!貴様ァ!その術を何処でェ!何処で習ったァ!』
フォーマルハウトは電撃を撃たれ続けているように叫ぶ。
「アンタが止めたいカペラ。師匠だよ、フォーマルハウト。」
フォーマルハウトの顔には絶望が写っていた。
(カペラ…またお前は私を…こうやって地に伏せて…あの時のように…!)
四年前ー
第三次大戦
フォーマルハウトは協会側に付き、戦場を率いている兵と、自らと契約したリヴァイアサンで、戦場を駆けていた。
冷静に。
そんな時、血の池が目の前に現れた。
フォーマルハウトは兵の歩みを止めさせる。
池の真ん中に、真っ白なローブの少女が立つ。怒りと憎しみと狂気が溢れでて、彼女の周りの池を作っているように見えて、凍りついた。
「あなたは…私がどう見えるかしら。花に見える?化け物に見える?それとも、ただの小娘程度かしら?…」
少女はフォーマルハウトに話しかけてくる。
「それに…素敵なドラゴンね…。魔法の才能があって、お父さんとお母さんには大事にされてきたのかしら…?まだ生きてるでしょう?…」
少女の気味悪さを感じる質問にフォーマルハウトは震えが止まらなかった。
「な、何を…。」
短い言葉しか出てこない。
当然である。
この光景には違和感しかない。
なぜ血の池に浸かっている少女は浸かっている部分しか赤く染まっていないのか、何故この戦場で池が出来るのか。そして何故、派遣した筈のフォーマルハウトの部隊およそ九〇〇〇は合流地点のこの場所にいないのか、仮にこの少女が兵を殺したとしても、何故彼女のローブは汚れていないのか…。
「あなたとはもっとお話しがしてみたいわ…でも、後ろがとっても邪魔。どうにかしてくれない?…」
ー そのギアだと止まれても、このギアでは止まる事は出来ない。じきにそのギアでも止まらなくなってしまう。歯車というのは、動くのが生きるという事なのだから。




