転換
「おおぉぉぉぉおお!!」
カイルが上からフォーマルハウトに襲い掛かる。
風を集めた鎚は、フォーマルハウトを今まさに砕こうとした。
しかし、カイルの鎚が打ったのはフォーマルハウトではなく、リヴァイアサンの体だった。
蛇のような鱗がある巨駆はカイルの攻撃を容易く弾いた。
『ふぅむ…随分と勝手の悪い使い方をしている、まだまだ積み重ねる物があるな。』
「…嘘だろ…?先生の時とはまるで手応えが違う…。前より威力は上がってる筈なのに。」
カイルは少し距離を取りながら呟いた。
鎚はあの時の戦いとは違い、全くと言っていいほど敵を砕かなかった。フォーマルハウトに傷を負わせるのは、時間が掛かりそうだ。もっとも、カイルはそれほど長く龍を使えない。
「こんなものですか…カイル君。実戦経験の無い君では、風だけではダメですよ。カペラに貰った力を使いなさい。」
(師匠に貰った力…?)
カイルは考えながら走った。フォーマルハウトに向かってである。勿論只々向かっていく訳ではない、スハイルに使った薬学を応用する。
もう一度風で鎚を作る。そして鎚の中に薬品を仕込み、そこで薬品を停滞させる。
「おぉあああぁぁぁあ!」
横凪ぎに腕を振るう。
案の定フォーマルハウトは静かに水を纏った腕を出した。
ウォーターカッターのようになっているのだろうか、風は簡単に切り裂かれた。
しかし、そこからが本命である。
薬品の辺りをカイルは凝視する、そして薬品が燃えるのをイメージして魔法を唱える。
「…!」
フォーマルハウトの目の前で赤く炎が爆散する…。
あまりにも近くにいたのでカイル自身も吹っ飛ばされてしまった。一・五メーター程飛んで転がると、服が少し千切れ、リヴァイアサンに守られていたフォーマルハウトが向こうにはいた。
「少し食らったけれど…まだ許容範囲。
さっさと見せてくれないかしら?あなたの本気。
まぁ、カペラの約束を破る代わりにズタズタにしてあげてもいいけど。」
「何の事か分からないし、見せる気もない!」
カイルは心の内では、少しわかってはいた。
龍を初めて使った時、身体に流れ込んできた魔法の事だとは思っている。しかし、それはカペラに止められている。
嵐龍は強敵の時、特に、カペラを呼ぶか龍を使わないと戦え無いときである。
しかしこの魔法は自分の生命が危ぶまれた時。
フォーマルハウトは自分とは格が違うが、出すに値しない。と、カイルは心に決めた。
「コイツで俺はアンタを倒す!フォーマルハウトぉぉ!!」
嵐龍をもう一度振るおうとした時、カイルは何かが飛んでいくのを見た。
それと同時に、自分の身体に異常が起こったのが分かった。
カイルの体の中から起こった事ではない。
外からである。
カイルが見たのは、自身の腕。
右腕である。
「え…あ…。」
目の前には腕を上げたフォーマルハウトがいた。
どうやらカイルの腕はフォーマルハウトに切断されたようだ。でも、それだけではない。
カイルはリヴァイアサンに胸を貫かれていた。
竜の太く、強靭な尾で、心の臓を。
カイルは暗くなっていく視界と共に、倒れる。




