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星の魔女 序  作者: 羅偽
水の国と影の国
13/33

交わらぬ二人

「おぅら、よっ!」

距離を積めメイスを振るう。

カイルにとってはギリギリ反応できる範囲。

「ッ!」

手早く魔法障壁を張ろうとする、しかし、

棍が振るわれる直前カイルの頭に過ったのは、

サルガスとの戦闘、氷の柱が爆発する瞬間で、カイルは何かを悟る。

即座に撃つ魔法を切り替える。

自らを後ろに引っ張るだけの簡単な魔法。

カイルはそれをかなりのスピードが出るよう放つ。

急激に体が引っ張られる。人間、前に押される時は

断崖絶壁以外では驚かないものの、後ろに引かれる時は何かと胃が縮む物だ。

「ぅお…っと。」

砂浜を一メートル程後退してしっかり踏み留まる。

「ほぉ…、魔法を壊すタイプの魔具との戦闘経験があンのか…?それともただの勘か?どっちにしても、殺しがいがあンぜ!」

「させるか!」

青年が次の行動に出る前にカイルは火球を放つ。

二発放ったそれらは不規則な軌道をとらせてはみたが、青年の振るったメイスに当たるとガラスのように割れる。地面に落ちても燃えず、溶けるかのように消えてなくなり、青年はニヤリと笑う。

「無駄だぜ、普通の魔法を発射するんじゃ俺には意味ねぇ。」

「どうして俺を!なんにもしてないだろ!」

「あン?お前、無名にしちゃおかしいくれェの魔力量じゃねぇか。どうしてか知りてぇンだよ。

それにお前の動き、妙だ。大技をぶッ放して前の殺し合いは勝ったみてぇだな。身体中痛ぇンだろ?そんだけ必要な魔法は見てみてぇ。」

カイルは困った。なにせ【嵐 龍】はカペラに使用を止められているのである。

唱えられる人間が限られているだけでなく使い方一つで国から反逆者として見なされる禁忌の魔法達は、一般の魔法士には見せてはいけない。カイルのような身分の低い人間が使えるのは師の許可を得てからである。

(仕方ない…風魔法で代用するか…?でもアイツにメイスで殴られたら…)

視線を砂浜に落とした。

海風に上部を拐われていく砂にカイルは閃いた。

「行くぞ、ワックス頭。」

「なっ!?」

青年は驚きと怒りで怯む。先ず、この髪は固めておらず、昔からくせっ毛であること。次に目の前の獲物が風魔法で砂を巻き上げた事だ。

「そんな目眩ましに何の意味…っ!?」

青年は見た、カイルが火を投げる所を。

火の魔法で適当に火を着けたのであろう。

でも、この状況で彼が火を投げたのに一瞬理解が追い付かなかった。

しかしこの一瞬が青年に痛手を負わせるのには充分だった。

投げられた火は一気に砂を這い、凄まじい規模の爆発へと変わる。

[魔法薬学]、サルガスがカイルに教えた魔法学問。

砂を巻き上げた風魔法に魔法薬を仕込み、それに火を着けたのである。

青年は咄嗟に受け身を取る。メイスを降り剣を防ぐかのような姿勢をとる。しかし、メイスに当たった炎は止まらなかった。魔法薬による炎は魔法ではない。薬品に含まれる成分と火が反応して一気に燃えているだけであり、魔法そのものではない。

いつもの魔法薬学を使う魔法士なら直ぐに魔法で距離を取ることができた。しかし、先程のやり取りで思考回路が鈍っていた事。魔法攻撃が来たらメイスで防ぐ癖が付いていた事により、彼は炎に飲まれた。

「っ!?」

カイルは反り、顔を炎の中から来た物を避けようとした。青年のメイスだ。頬を掠める寸前で避けたかのように見えた。でもカイルは傷を負う事になる。青年のメイスは先端から出ている四本の刃が延びたのである。碇のように、鎌のように。

青年は吹っ飛ばされたが、爆風により加速されたメイスがカイルの頬を斬る。

黒煙が消えると、カイル側にはメイスと血が、

青年の側には焦げた服と血が落ちた。

「テッ…メェ!」

青年は凄まじい勢いで距離を積める。

カイルは反射的に横に跳ぶが、メイスを青年がとり右手をカイルに向ける。

「いっぺん死にやがれぇぇぇぇ!」

右手から放たれたのは高速の光の矢。

一本ではない、その数十五本。

カイルを追尾する物では無いがカイルが空中にいることで急には動いてもカイルの軌道が読める事、十五本が凄まじい速さで射たれるという二つの事柄は青年の攻撃をカイルに当てるのを助けた。

八本程の矢が刺さりカイルを地面に縫う。

「魔具持ってるからって…魔法撃てねぇと思うなよザコがぁっ…!」

青年はメイスを振り上げた。

動けず、身体も痛む。

「死んねぇぇぇぇぇ!!!!」

(マズいっ…!【嵐…)

奥義を使おうとしたその時、

カイルの視界は青年から真夏の様な青空へと変わった。ふと、背中に何かを感じる。誰かに持ち上げられているのだ。

「っだっ!?…放せ!おい放せムーリフ!放せよ!おい!」

先程の青年の声が聴こえる。同時にカイルは地面に下ろされる。目の前には青年と青年に似た顔の青年。戦っていた彼とは違い髪は落ち着いていて長髪、正反対のイメージだ。

「アホ、おとなしくしてろって言っただろうに、黒焦げになりやがって。VIPに迷惑掛けんな。」

ムーリフと呼ばれていた長髪の青年は手に持った青年を叱りながらこちらに会釈した。

ふと後ろを見る。見慣れた彼女の姿があった。

カペラである。先程とはうって変わって青と白を基調としたビキニで、腹部にはあの時の傷はなく、青年の方に笑った顔を向けている。

「んじゃあカペラさん、俺達は帰りますんで。協議で会いましょう。」

「はいよ~。」

長髪の青年の挨拶に軽く挨拶するとカイルの方を見た。

「場所取りしといてくれた?まだ背中に日焼け止め塗ってないから早くビーチパラソルに入りたいんだけど…」

「え、いやそういう問題ですか!?心配とか、状況説明とか、あるでしょ!?」

カペラはカイルを心配してないようである。

いたってご機嫌で、目の前で跳び跳ねそうだ。

「えー?いやいや、一番弟子君のアイデア、良かったよ~!ちゃんと成長してんだね~、感心感心。」

「そ、それだけですか!?俺殺されかけてたんですよ?」

カイルはまだ状況が掴める筈もなく。カペラに問いかける。

「おい!ザコ!こっち向け!」

カイルは振り向いた。自覚があるわけではない。

青年の声が多分こちらに向けてであると思ったからだ。

「よく覚えておけザコ!俺はスハイル!詠唱破棄者(スペルクイット)の中堅!スハイル様だ!」

そう言いながらスハイルはムーリフに担がれていった。

「さぁ!一番弟子君!レッツバカンスだよ!」

カペラはカイルをこちらに向かせると手を引く。

「いやいや!状況!状況ですよ!状況説明!

訳わかんないです!」

カペラは面倒くさそうな顔をした。

「えーっと、スハイルとムーリフはたまたまオフで此処にきててスハイルが一番弟子君に目を付けただけ。それだけ。」

「知り合いなんですか?」

カイルはざっくりな説明より関係が気になった。

カペラは自らの過去をあまり喋らないし、喋ったとしても曖昧なのである。

「んー、まぁ知り合いだね。どちらかというと

二人の親御さん達と知り合い。そんなことより泳ごーよー。」

カペラはカイルの手を引く、いつものように。海と砂、それたけがカイルの目の前に広がる。

カペラに頬の治療をしてもらいつつカペラの口に食べ物を運ぶ変な助け合いも、カペラに泳ぎを教えたり、カペラに魔法を教わったり、そんな事も、この先の事を思えば幸せだったのかも知れない。




ーーー王宮ーーー

「こんなことがあった気もする、今となっては、私にとっては色褪せてボケた写真でしかない。まったく老いとはこんなにも早いものか…。」

「王よ、水の国で動きが…」

暗い玉座に座る王に臣下が言う。

「知っておるわ、放っておいて良い。」

王は静かに絵を見つめる。

海の絵。白い砂浜には穴と黒煙、そしてメイスと

自らの師、カペラ。

王の名はカイル・セイリオス。

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