ブラッドオレンジフロート
真夏の様な陽射し。季節は秋から冬への
移り目にも関わらずここ、水の国は炎天下で
目の前の海が恋しいが、カイルはビーチパラソルの下でカペラを待っていた。
水の国ではビーチパラソルはフリーなので場所取りをしろ。との事で、先程言っていたどうせなら海で汚してしまえ。と、いう台詞が霞んで見える。
時間的にはまだ五分かそこらであるが、陽射しが体内時計を狂わせていた。
ふと、カペラはどんな水着を着てくるのかと考え横になる。そんな時懐かしい声が聞こえた。
「カイルー?ちょっと、カイル!?聞こえてんの?バカイルー。」
昔から隣で聞こえた高い声。後ろを見るように首を動かすと、ローアングルで彼女を見上げる形になった。太陽も気にならない程目を引く金髪。
流れるようなツインテールの幼馴染みの少女、アトリアが、黒いビキニでそこにはいた。
「あ、アトリア!?な、なんで…幽玄街にいるんじゃ?」
呼ばれても反応が遅かったのと質問のせいか、
アトリアは少し不機嫌そうに答えた。
「はぁ…?ウチの旅団はこの時期遠征なんです、しかもそれ、こっちの台詞じゃん?おばさまおじさまが亡くなった後火の国で一人暮らしだったじゃない、どーなってんのよ?」
アトリアはカイルとの故郷、幽玄街の魔法士旅団に属していて、魔法の腕はかなりのものである。
旅団は幽玄街から手の届く範囲の国との友好関係を深めるために挨拶と見せ物をするんだとか。
そんな彼女に、火の国の魔女の臣下と戦ってそのままここに来た。等と現実離れした事は言えなかったので、取り敢えずそれっぽい嘘をついた。
「お、俺も遠征でさ…先生が水の国の魔女様と仲良いらしくて。連れてこられたんだ。」
アトリアは少し疑ったように見えたが、すぐに割り切った顔をした。
「そ、まぁいいわ。で、どう?」
そう言いながらアトリアは両手を腰にあてポーズをとる。
「四年ぶりの幼馴染みの水着姿、アンタ的にはどうなのよ…。」
少し恥ずかしそうに言うアトリア、均整のとれた体と肩から腕へ落ちる雫。
カイルは好評価せざるを得なかった。
少し胸元が寂しい気もしたが、言うまい。と思った。昔からアトリアは怒らせると謝るまでよく追いまわされた経験がある。気にしていた場合はそれが昔の映画の名作のように色褪せずそれが再生されるだろう。
「えーと…良いと思うぞ。黒がお前を引き立ててるって感じもするし、雰囲気も相まって魅力的に見える。」
アトリアは誰からも見てとれる程顔を赤くした。
「そ、そう、アンタからそんな風に言われるとは思って無かったわ…。昔はそんなに優しくなかったじゃない…」
少しまずった、とカイルは思った。
「いや、だってどうって言われたから…」
続きを言おうとしたが、女性の声にかき消された。アトリアの旅団の仲間のようで、名前を呼びながら手を振っている。
「じゃあ、私行くわ。アンタも私レベルまで追い付いて来れそうだし。幽玄街に来たときは寝るところは提供してあげる。」
そういうとアトリアは走っていった。
「楽しそうにしてやがったなぁ?カイルとか言ったか、お前。」
飛び上がり構えをとる。目の前には細長い物を
回す弾けた髪の青年がいた。
「メイス…?」
メイスとは戦棍であり、アバウトに言うと軽いハンマーのような物だ。
「んお?メイスってのは俺ンとこだと古くさい武器で誰も興味ねぇのによ、なんだ知ってる奴いるじゃねぇかよ。」
ほとんどわからない。でも一つわかるのは、大方この青年は自分を殺しに来てる。そうカイルは思った。白昼堂々この青年は凶器を振り回しでいて、自分に話し掛けてくる。証拠はそれだけで充分だ。
「なんで俺を殺そうとしてる?火の国の追っ手なのか?」
青年は不思議そうな顔をした。
「火の国?なんかしたのか?お前。
俺の出身は風の国。正反対だドアホ。」
そう言うと青年は物凄い速さでカイルに襲い掛かった。




