あたしの親友を紹介します。
私には親友がいる。舞原瑠衣。十人中十人が美人だと言う程の美貌の持ち主だ。本人にも自覚はあるらしいけど、危機感がない。ほら、また瑠衣をいやらしい目で見ている男がいる。本当に、男って生き物は気持ち悪い。どんな男が寄ってきても私が蹴散らしてやるけど。……リーチが短いのは知ってるやい。
舞原瑠衣、きっと校内一の美少女。いつもニコニコ笑ってる。本当にかわいい。
「優香はいつも牛乳飲んでるね」
サラサラのセミロングの髪を風に遊ばせて瑠衣は私を観察する。片手で頬杖をつきながらニコニコと笑う瑠衣はまるで天使のようだ。だから私も満面の笑みで返す。
「成長期だからね!」
私は諦めていない。きっと成長期が遅れているだけ。だからいざというときの為にカルシウムを蓄えておかないとね!今に私の身長も160センチに届くはず……!!
「そうだね、頑張って」
笑みを一層深めて瑠衣が言う。女の私でも頬を染めてしまいそうな笑みだ。さすがは天使!
放課後、先生に呼ばれた。折角瑠衣と一緒に帰る約束してたのに。待っててくれるって言ったけど、長引きそうだし、困るなあ。
「失礼しまーす」
職員室の扉を開けると涼しい風が頬を撫でる。くそう、これが大人の特権ってやつか。
「おお、溝内」
担任の山ちゃんが私を見つけて声をかけた。山田誠一、32歳、独身。さすが、机の上には書類が乱雑に積まれている。
「おい、声に出てるぞ」
「えっ!嘘!」
呆れた顔で溜め息を吐く山ちゃん。気さくで喋りやすく、生徒には大人気だ。だが独身。何がいけないのだろうか?
「そんなの俺が聞きたいよ……って、そうじゃなくて。まあ、座れ」
「はーい」
折角褒めたのにな。山ちゃんは机の上に積まれた書類から茶封筒を一枚抜き出した。器用に抜いたな。
「これ、例の書類な。去年と同じように書いてくれたらいいから。分からん所があればまた聞きに来い」
封筒を受け取り中を確認する。うん、去年と殆ど同じ。多分分かる。ちなみに去年の担任も山ちゃんだった。
「ありがとうございます、山田先生」
頭を大きく下げてお礼を言えば山ちゃんは気持ち悪そうに手を振った。失礼な。
「やめろやめろ。お前に山田先生なんて呼ばれると鳥肌立つわ。それはそうと、親父さんとはどうだ、相変わらずか?」
「ああ、はい、まあ……」
歯切れの悪い返事に何かを察したのか、山ちゃんはそれ以上聞いてくる事はしなかった。
「そうか、まあ、溜めこむなよ。何かあったら大人を頼れ」
「りょーかいです。ありがとう、山ちゃん」
山ちゃんは男の人だけど、良い人だ。笑顔でお礼と別れを告げて早々に職員室を出た。意外に早く終わったな。早く瑠衣と一緒に帰ろう。
ウキウキ気分で教室に戻った私を瑠衣は待っていなかった。教室に残っていた数人の生徒に話を聞けば男に連れて行かれたらしい。まさか、まさか。
「まさか、とは思うけど、その男って、B組の木村……?」
「あ、そう!そんな名前の人!よく分かったね」
ああ、やってしまった。お礼もそこそこに私は教室を飛び出した。B組の木村、前から視線は感じていた。ただ、他の男の子と違う視線だったから警戒していたのに。よりにも寄って今日呼び出してくるなんて!あいつはダメだ。あの男は危険だ。私の勘がそう叫んでいる。
まず屋上に向かった。ドアを開ける。誰もいない。念のために隅から隅まで見渡しても誰もいない。ここじゃない。階段を三段飛ばしで駆け下りて中庭へ向かう。最後の段で失敗してこけたけど気にしてられない。中庭を見渡す。椅子に座っている人に片っ端から声をかけて聞いてみても誰も瑠衣を見ていないらしい。ここも違う。体育館裏へ向かう途中、出会う人に瑠衣を見たか聞いてみても誰も見ていないという。体育館裏にも誰もいない。練習中のバレー部に聞いてみても知らないと言われる。
あとは、裏庭?走りながら時計を見る。瑠衣と別れたのが三時四十分くらい、今が四時五分前。大丈夫、まだ少ししか経ってない。でも急がなきゃ。走って、走って。裏庭に着いたとき、息が一瞬できなくてせき込んだ。
「大丈夫?」
誰かの声がした。その人の顔を見て私は声を上げた。
「るっ……!?」
違う、瑠衣じゃない。顔はそっくりだけど男だ。舞原君だ。瑠衣の双子の兄。見つけたと、思ったのに。
「……どうしたの?」
「あのっ、瑠衣、瑠衣見なかった!?」
ここにもいなかったらもう手掛かりはない。この学校の告白スポットはこれで全部だ。お願い、見てると言って!
「瑠衣?」
少し考えるように首を傾げる舞原君、見れば見るほど瑠衣にそっくりな綺麗な顔をしている。彼が瑠衣だったらよかったのに、瑠衣がここにいれば良かったのに。少しだけ酷い事を考えながら、それでも祈るような気持ちで彼を見つめていると、彼が声を発した。
「見てないな」
全身から力が抜けるような気がした。どうしよう、あとはもう虱潰しに探すしかない。その間に瑠衣が傷付けられたらどうしよう。私のせいだ、私が瑠衣を一人で待たせたから。
「溝内さん」
声をかけられてゆるゆると顔を上げると、瑠衣と似た天使が微笑んでいた。
「多分だけど。瑠衣はあっちに居ると思う」
そう言って天使はグラウンドの方を指差した。
「え、何で……」
「ただの勘」
瑠衣みたいに常にニコニコ笑ってるんじゃないけど、舞原君の笑い方は柔らかくて優しいものだった。だからだろうか、その勘を信じてみたくなった。
「っありがとう!」
舞原君の指さす方に走り出した私は瑠衣の無事を祈りながら走った。グラウンド方面で人目に着かない場所はどこだろう?みんな部活してるし。……体育倉庫の裏、とか?とりあえず行くしかない。
体育倉庫の裏に着いた瞬間、木村が瑠衣に抱きついているのが見えた。後ろから思い切り蹴りあげて瑠衣を連れて逃げる。舞原君の勘がなかったら、と思うと背筋が凍った。
瑠衣は今頃想像もしたくない出来事に見舞われていただろう。美人過ぎるのも損だ。
手を握って歩く内に、瑠衣が震えていることに気が付いた。そりゃそうだ。いくら人を馬鹿にしている瑠衣だって怖かっただろう。だから途中の自販機でミルクティーを買った。手をはなしても瑠衣は黙って立っている。自分用のコーヒーも買って公園のベンチに瑠衣を座らせた。
瑠衣はようやく自分が震えていることに気付いたらしい。まるで自分を嘲笑うかのように小さく口を歪めた。そんな瑠衣を見て思い出した。私がいなかったのも悪いけど、瑠衣が私を待っていてくれれば良かったのだ。いつもの瑠衣なら待っていてくれたはずだ。だから、瑠衣には缶コーヒーを渡してやった。
ああ、そうだ。明日舞原君にお礼を言いに行こう。
瑠衣と舞原君は何故か仲が悪いけど、瑠衣が助かったのは彼のお蔭だから。
そんな3人の日常でした。
続きを書こうと思いましたが、完結出来そうにないのでこれで完結とします。
お目を通して下さり、ありがとうございました。




