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機械王国の騎士  作者: 皇みかん
2章 つながり
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2章1節 問いかけの答え


『君は』



 金髪の少年は、何もないところで白く笑った。

『君は一体なにをしているのかな』


 銀髪の青年も、何もないところに立って首を振った。

(俺が知るか…)


『何のために生きているの』



(知らない)


『だめだね、君は。やる気がないよ』



(うるさい…!)

 銀髪の青年は俯いたまま耳をふさいだ。決して顔を上げることなく、少年と視線を合わせることもなく。








 昨日いきなり「行き先が同じだし」と道案内を買って出た男――メオ。

 彼……エラインにとってはそれは案内役というよりは、まとわりついていたといった方が正しかった。

 用もないのに気軽に話し掛け、つまらない冗談をとばし、挙句の果てに妙なあだ名をつけてくる。

 宿も予算の関係上渋々折半に応じた。夕食も一応一緒に取ったはいいが、メオはふざけた言葉を並べて彼をからかった。

 昨晩から苛ついていた彼はついに堪忍袋の緒が切れ、食事もそこそこに立ち上がり、メオを残して夜の街に出ていった。


(……撒くか)

 メオ、という男と同行しても、嫌な気分になるだけだ。なら、今晩のうちに街を抜け出し彼を撒いてしまおう。

 何も一緒に旅をする必要性があるわけでもない。あるはずもない。

 赤い月の光の下を歩きながら、エラインはそんなことを考えていた。

 物心がついたころから旅の生活をしていた彼は、一人で旅することを好んでいた。誰かと途中一緒に旅をすることが今迄なかったわけではないのだが、そちらの方が彼にとっては気楽なもの。嫌な気分になるのなら、余計ににだ。


 エラインはふと、立ち止まって周囲を見る。

 人通りは多くない。商店街から離れたこのあたりの夕飯時は、そこかしこから様々な匂いがする。

 窓から明かりのともった室内の家族の様子が見受けられた。

 エラインは眩しそうに家々の窓を見て、再び当てもなく歩き出す。

 空を見上げるとそこには赤い三日月。無意識に、髪で隠している左眼へ手を伸ばしかけたがすぐに気付いて止める。

 やがてエラインは人通りもない、家の明かりもほとんどない裏通りに入った。狭い路地で、周囲は暗い。月明かりだけが頼りになるような、そんな場所だった。

 エラインは夜中になるまでここに潜んでいるのも悪くはないかと思ったが、首を振ってやめる。このあたりは今はまだ時期ではないとはいえ月を売りにした観光地というから、夜中までやっている店など探せばいくらかは見つかるはず。

 あの男……メオと鉢合わせることも多分ないだろう。それに、よく考えれば夕食をきちんと取っていない。

 そう思い直し、ここから立ち去るべくエラインがきびすを返しかけた、その時。


「!」


 背後に冷たい気配を感じ、彼は反射的に身をよじらせた。


 次の瞬間、今まで彼がいた辺りの地面には数本の短剣が刺さっていた。

 それを横目でちらりと確認した後、彼は間を置かずすぐに身をかがめる。

 頭上に何かが通っていったのを身体で感じながら、いつの間に出したのか数本のダートを、短剣が放たれたであろう方向へと投げた。

 続いて響いた硬い音でそれが外れたと認識しつつ、今度は短剣を抜き放ち、両手で構えたまま勢いをつけて立ち上がる。


 構えられた短剣は、刃の叩き付け合う鋭い音と共に頭上からの白い刃を受け止め、弾いた。


 頭上から攻撃を浴びせてきた相手はエラインにそれを弾かれると大きく後ろに跳び退る。

 エラインは暗い中目を凝らして目の前にいる相手を観察した。

 それは暗闇に溶け込んでいるような黒い衣を細い身体に纏い、目元だけを覗かせている。両手には先程彼の短剣で弾かれた得物…タイプは違うが短剣が2本…暗闇の中ちらちらと光っている。

 明かりの少ない夜闇のなかその目元と刃物だけが浮かんでいるようにも見え、エラインは不気味さを感じた。

 何者だろうか。エラインには心当たりはなかった。あるといえば……エファロン教徒だろうか。それとも物取りか。

「……何の用だ」

 お互い微動だにせず暫くにらみ合った後、エラインがぽつりとつぶやいた。あたりは不気味なほど、静か。

 黒い影…それはわずかに見える目元を歪ませてから、それに答える。

「我はお前に、教えに来たのだよ」

 声からして男。その男の声はくぐもっていて小さいものだったが、頭に響くようにはっきりと聞こえて来る。その声と仰々しい話し方は共にエラインには不快しか与えなかった。

「………?」

 何を言い出すのかと思えば。全く訳がわからない。

 エラインは黙したまま、しかし相手への警戒は解くことなく武器を構え、赤の片目で影を見据える。

 一体何を、と口を開きかけると影がそれを遮って言った。

「お前は自分のことが知りたくはないか」

 その言葉に彼は目を見開き、息をはっと飲み込む。動揺を隠すようにしてエラインの口は開かれた。

「……! どういうことだ」

「何故お前は一人なのか、知りたいと思わないか?」

「……黙れ…!」

 エラインは怒気のはらませた声を上げ、いつの間に出したのかダートを投げつける。

 黒い影は小さく声を立てて笑いながらそれらを軽いステップで易々と避けた。

「お前が、一体何を知っているというんだ……!」

 落ち着きを失いかけている彼を見て、影は目を細めた。まるで笑っているかのように。

 そしてゆっくりと、口に巻かれた布を通して言葉をつむぐ。


「レイトル」


 その言葉に、エラインは遂に動揺を隠し切れなくなった。

「貴様! 何故その名を知っている!?」

「答える必要は、まだない」

 影は両手の短剣を懐にしまった。

「我は、お前が知りたいことの手がかりとなるものは知っている」

「……どういうことだ?」

「まずはメオという男と共に、行くがいい」

 エラインはこめかみを引きつらせた。

(あのうるさい金髪男と、だと…?)



「機械繁る国、ルーンデシアに」


 そう言うと、影は彼の目でも追えぬ速さで移動し、気付いた時には彼の遥か後方へ去っていっていた。

「待て!」

 エラインは、その後を追った。自分の胸の奥でどうしようもなく高鳴る鼓動を抱えながら。







「エッちゃん?」


 声をかけられ、顔をあげる。視線の先には声の主の金髪男……メオ……と、昨日の『お節介女』。

 今は真夜中。場はとった宿屋の部屋の中。そこにいるのはエラインとメオと少女。

 あの後、エラインは少女と出くわした。昨日出会った少女だった。しかし、彼はそれに構わず影を追った。エラインは彼を見失っていたので、不気味なほど静かな街じゅうを走り回った。

 宿の周辺を通った時、やっと屋根に影とメオの姿を認め、急いでそれに割り込んだ。

 その際少女も何故か一緒にエラインと影を探し回り、先程のような連携を提案してきた。つまり、彼の飛び道具で影の気をそらし、不意をついて少女が攻撃をするといったもの。

 事情は知らないが、少女……セイレーンと名乗った彼女にも何かあの黒い影に何か用があるようだった。

 結局あれから何も聞き出すことは出来ず影は逃げてしまったが。


 今は三人で部屋に戻り、残りの二人はなにやら色々話していた。



 エラインは話にはあまり加わらず、影が残していった短剣の刃をじっと見つめていた。

 鋭い刃は部屋の明かりに鈍く光り、エラインの顔をゆらゆらと映している。

『何のために生きているの』

『行くがいい』

 耳の奥で声が木霊する。


 エラインは額に手を当てた。

(探さなければ、駄目なのか……?)



 問いかけの答えは、ない。









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