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機械王国の騎士  作者: 皇みかん
1章 出会い
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1章4節 寡黙

 翌日。

 結局二人は一言も口をきくことなく、一夜が過ぎていった。

 メオは目を覚まして焚き火の後始末を済ませると、洗面をすべく立ち上がる。

 狭い洞穴の入り口には、エラインと名乗ったあの青年がこちらに背を向けて座ったまま眠っていた。

 もう朝だということを告げようと、肩を叩く。

「!?」

 その瞬間、メオのみぞおちに肘が叩き込まれた。

 メオは訳もわからず、腹に入った衝撃に手で押さえながら咳き込む。

 見上げると、そこにはダガーを抜き放った銀髪の男…エラインが立っていた。

 彼は困惑していた。メオは咳き込みながらもなんとか声を出す。

「な、なにするんだよいきなり…」

「悪かった」

 ダガーを鞘に収めながら、彼は素直に謝った。

 しかし、後ろから何も言わずに寄って来るな、と付け加える。

 それにメオはきょとんとした顔をした後、小さく苦笑した。

「気をつけるよ。そんなので刺されちゃたまらないし」

 とっさに腹筋を入れて痛みをやわらげようとはしたものの、先程の強烈な一撃は今朝の朝食を受け付けなくさせるには、充分なものだったようだ。

 メオは腹をさすりながら、近くの泉に足を向けた。

 朝霧と静寂に包まれた森には、少しずつ日差しと鳥の声が差し込んできていた。

 泉には、それが安全な水であることを示す白い花が咲いていた。

 それを確認してから、メオは泉の水を飲み、洗面をし始めた。

(赤い目……か)

 顔を洗いながら、メオは先程のエラインの様子を思い浮かべる。

 赤い目を持つものは、エファロン教の教えの影響が大きいこの大陸では、酷く忌み嫌われている。

 何でも、主神エファロンに刃向かった悪魔が赤い目をしていたところからくるものらしい。

 メオはエファロン教徒でもなければ赤い目を持つ人間を忌み嫌う人間でもなかったので、別段気にはしていなかった。

 むしろ、ばかばかしい迷信だとさえ思っている。

 ただ、旅に出てから赤い目を持つ人間を見たのは初めてであった。

 夜見たときよりもはっきりと見えた、彼の目。

 彼の目の色は……そう、とても暗い赤だ。

(話には聞いたこともあるし、故郷くににも、結構いるけど……)

 メオは顔をはたき、布で拭きながら洞穴に戻った。

 あんな色は、見たことがなかった。



「で、さ、一緒にいるってことは俺の案内受ける気になったってことかな?」

「………」

「沈黙は肯定ってやつ? 照れ屋さんだなあ、あっ、ちょっ、蹴らないで!」

 風に揺られる木の葉のささやき声、心地よい木漏れ日。空はまばゆいほどの快晴。

 今日は珍しく気持ちのよい日だった。

 森の中の小さな街道をにそって、彼らは歩いていた。

 エラインは、とにかく寡黙だった。

 色々話し掛けてはみたが、昨日と同様、無視するか適当に相槌を打って話を切ってばかり。並んで一緒に歩いてはいるが、彼は一人で歩いているかのような振る舞いだった。

 何しろ歩調が早い。少し気を抜くと置いていかれそうになる。

 メオは少しつまらなくなってきたので、ここはひとつからかってみることにした。

「なぁなぁ、えーっとーなんだっけ」

「…………………」

「あ、エッちゃんだ!」

「違う」

 唐突に声をあげたメオにエラインは怒りも顕に否定した。それに何故、とでも言うようにメオは首をかしげる。

 しかし顔も目も笑っているのは、メオ自身も自覚していた。

「え、だってエラインって名前だろ? だったらエッちゃんじゃないか」

「どこをどうしたらそうなるんだ」

「エラインの頭のえをとってエッちゃん」

「そんなことは分かっている。気持ち悪いからやめろそんな呼び方」

「いーじゃん、呼びやすいし」

 もう良いとばかりに彼は再び黙った。

 不機嫌そうな顔は、眼光がするどくなりますます不機嫌さを増していた。表情がほとんど変わらないので、単にそういう気がするだけかもしれないが。

 メオはその様子に苦笑しつつ、話題を変えることにした。

 勿論、エッちゃんという呼び方を変えるつもりはなかったが。

「そういえば、エッちゃんはルーンデシアについての噂、なんか聞いてない?」

 この二週間、何度尋ねたか忘れるほどした質問をする。

「……どういった?」

 『エッちゃん』という呼び方にやや眉を吊り上げたものの、その質問に興味もなさそうにエラインは訊き返す。

 訊き返されてメオは少し困ったが、何とか言葉をひねり出した。

「んー……例えば、戦争……とか」

 エラインは首を振った。

「そういったものは聞かんな」

「そう……か」

 いきなり暗い影を落としたかのようなメオの様子をみて、エラインは何を思ったのか、こうつけたした。

「仮に戦争が起きていたとしたら、隣国のこの地に影響が無い筈がないだろう」

 エラインのその意外な言葉に、メオは少し目を見開いた後、小さく笑った。

 彼にしてみれば、話を切ろうと思って言ったことかもしれないが、メオにしてみれば不安を少しでも和らげる、ありがたい言葉であった。

「……そうだよな、うん。ありがと、エッちゃん」

(ほんとに、そうだといいんだけどな)

 礼を言ったメオを不思議そうな顔をして横目で見つつも、エラインはもう何も言うことなく、黙々と歩きつづけた。

 その様子に、メオはこっそりと苦笑する。

 それから彼は懐から地図を取り出し、風に飛ばされないように注意しながら、現在の位置と次の街の場所を確認した。

 空を見上げると、まだ日は東。朝になったばかりだ。

 距離からして、このまま歩いていけば日暮れまでには辿り着けそうだった。


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