車酔いの少女6 ~彼女のカレシ~
「そいえばかなめっていつデートとかしてんの?」
「・・・教えません!」
緑川の二年生ホープ佐川は、マネージャーとその友人の会話を偶然聞いてしまった。
「大変っすよ。大変っすよ~!!」
バーン!! と扉が壊れんばかりの勢いで部室に飛び込んできた佐川ヒロヤは先輩メンバーに先ほどの会話を教えた。
「マネージャーにカレシが居るらしいっす!」
メキョ。ボコ。パタン。カシャン。ブー。うわっ、きたねぇ!
野々宮のロッカーのドアが曲がった。
大友がロッカーで頭を打った。
森川がロッカーを閉めた。
佐野がメガネを落とした。
角野がコーラを吹いた。
大崎にそれが掛かった。
「佐川、どこで聞いた?」
当然だが、一人動じなかった森川が冷静に訪ねる。
「マネージャーが友達と話しているの聴いたっす!
デートはいつやってんのか?って訊かれて『教えない』って言ってたっす!
普通なら『そんな人居ない』とか言うじゃないっすか。絶対カレシが居るんすよ!!」
「その発言だと去勢を張った・・・とも考えられるだろう?」
「それはありえないっす! そんなキャラじゃないっすもん」
「ということは・・・水野さんには現在恋人が居るってことか」
メガネのフレームを気にしながら佐野が呟いた。
「そういうことだな。俺らに気付かれないってことは・・・自宅デートでもしてんじゃねぇ?」
角野がコーラを飲み干しながら返事をする。
「な、なんすかその『自宅デート』って!」
「既にご両親に紹介済みで、互いの家に行き来自由ってこと」
「!!!!!」
佐川ヒロヤは大ダメージを受けた。
「部活忙しいから誰も恋人いねぇよな、俺ら。ってことはマネージャーが一番乗りだな」
めでたいじゃないか。とほんわか顔の大崎の頭を角野がはたく。
「いや! 俺は許せねーな! つうか信じられねぇ」
「角野君。水野さんは可愛らしく気立てもいい女性です。恋人がいてもなんらおかしくはないと思いますが・・・」
「いや! 水野が男にこびている姿なんて想像できねぇ! 」
「まあ確かにマネージャーが恋人と腕を組んだり、手つないで下校したりってのは想像できねぇな」
ガコ。
野々宮のロッカーの扉が外れた。
森川はそれを見て、ムダだとおもったがフォローを入れた。
「水野に恋人が居ることについて反対なのか? 部活に支障はきたしていないし、個人の自由だと思うが?」
「寂しいっす」
「悔しいじゃねぇか」
「俺は祝福するぜ」
「複雑な気分もありますが、概ね祝福します」
「中学生で交際とは早いのではないか?」
「相手は誰か気になるよね?」
野々宮が呟いた。
「春都?」
「だってさ、大友。あのかなめだよ? ほよよんとしているし、妙な男に携帯番号をバンバン教えそうだし、だまされているかもしれない。
俺たちは徹底的に相手を突き止めて追及しなくてはいけないんじゃない?だって仲間だから!」
森川は思った。
それは面倒だな、と。
そしてそろそろ潮時かと感じた。
やはり付き合っているというのに部活では仲間のフリ、というのは物悲しい。
森川は挙手した。
「水野と付き合っているのは俺だ」
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
部室が静まり返った。
そこへかなめが入ってきた。
「こんにちわー。・・・て、アレ?」
どうしたの? と1人普通な森川に尋ねるかなめ。
「お前に恋人が居ることが判明したので、相手が俺だと言ったところだ」
「!!!」
かなめの顔が真っ赤になった。
「うううううう、ウソですよね、マネージャー!」
「お前らが・・・って、そういえば一緒に登下校してたな」
「近所だからだと思っていましたが・・・」
「登下校中に愛が芽生えってやつか?」
「いや、付き合っていたのは入部前からだ」
「ってことは・・・自分の彼女をマネージャーにしたってことかよ?」
「秀司、公私混同は・・・」
「このままでは他の部のマネージャーになりそうだったので、緊急措置を取らせてもらった」
「それじゃあ、仕方ないか」
野々宮が即効で返事をした。
「俺が先に知り合ってたら現在も違っただろうけど、かなめが俺たちのマネージャーになってくれたのは森川の独占欲のおかげなんだし・・・黙っていたことは許すよ」
非常に偉そうな物言いだが、野々宮だから仕方ない。森川は素直に礼を言った。
「そうか。ありがとう」
「ど、独占欲!?」
かなめが動揺する。
森川はわざとだが、結果2人そろって、野々宮の最初の台詞をスルーしたことになった。
「それに『水野』『森川君』呼ばわりのカップルより、『かなめ』『春都くんv』呼びのほうが進んでいるしね。
ランチデートもしたし、手をつないで部活に行ったこともあるし」
全て野々宮が無理やりしたことだが。
「ほー。だが、俺たちは既に家族ぐるみの仲だぞ」
「・・・くっ!」
「登下校は一緒。メールは1日5通以上。おはようおやすみのメールも勿論している」
「くっ!」
野々宮、惨敗。
「フツーにカレシカノジョやってるんだな」
大崎が呟き、かなめは真っ赤になって硬直していた。
話の進行上、メンバーにばらしてみました。