車酔いの少女5
野々宮部長が出張りまくりです。
「それじゃあ、明日。図書館に11時でいいかな?」
「え!?」
土曜日。部活終了後。
野々宮部長が私の肩をポンと叩いてにこやかに言った。
数日前のアレがよもや本気とおもわず、声を上げると、なにやらひんやりとした空気が・・・野々宮部長から漂ってきた。
「『え!?』って忘れていたの? ひどいなぁ」
「い、いえっ! 忘れていたとか、ではなく。せっかくの休日に部長にご足労なんてっ!」
本気で申し訳無い。あと緊張する。
「あのっ! 気にしないでください、本当に。両親相手に練習してもいいんですし」
「うん、でもね。やっぱりやってもらう相手のほうがいいと思うんだよ?」
結局野々宮部長に押し切られました。・・・いいのかな?
「断るほうが、機嫌が悪くなる。野々宮のわがままに付き合うつもりで相手にすればいい」
部活帰り。方向が一緒なので必然的に森川くんと帰ることになる。お付き合いもしていますし。
土曜日は日の高いうちに帰れるけど、平日はちょっと遅めなので、自宅まで送ってくれるのだ。
その後、森川君は徒歩で帰っているらしい。30分かけて・・・!! 毎回申し訳なさで一杯だ。
グルグル考えているうちに森川くんの降りるバス停になった。
「気をつけて帰るんだぞ」
「うん。お疲れ様、森川くん。それで明日だけど・・・」
「そうだな・・・。野々宮と分かれたら連絡をくれないか?」
「う、うん」
「俺も楽しみにしていたからな。短い時間でも逢いたい」
森川君はあっさりしょうゆ顔(死語?)でかなりの殺し文句をはいてくれた!!!
男子に免疫があるわけがないこちらとしては、「あ、はははは」と笑うしかない。本当はここで「あたしも」って言ったほうがいいんだろうけど! 言えないよ!! 言えるかぁ!
ところで、部長と会うときは制服のほうがいいのかな?
翌日。
熟考の上、ブルージーンズのロングスカートに黒いTシャツにカーディガンという格好にしてみた。
足元はビリケンシュトックのサンダル。初夏から秋口にかけて愛用しているお気に入りだ。
そして本が5冊入ったエコバックに、テーピングの入った肩掛けのバッグ。
11時待ち合わせだから・・・10時ちょい過ぎくらいに図書館に付いたら、本を物色できるよね。
いつもどおり図書館について返却。そしていつもの通りメモを片手に検索コーナー。
「何借りるの?」
「! 野々宮部長!?」
なんで!? まだ10時半前だよ!?
「図書館では静かにね。俺も一緒に探してあげるよ。メモ見ていい?」
なんだかデジャヴだ・・・。わたしは野々宮部長にメモを見せた。
「・・・・・タイトルだけじゃはっきり分からないけど、ジャンルがバラバラだね。推理小説にホラーに、バスケ関連に、ワーグナーの伝記?」
「は、はい。この間視聴覚室でオペラ聴いて・・・」
「そうか、ワーグナーだったよね。よし! 本探そうか」
そして私はワーグナーのオペラにまつわる本を2冊、推理小説を2冊、ホラー小説を1冊、テニス関連の書籍を2冊借りた。
全てハードカバー並みの厚さの本なので、嵩むし重いが私にはいつものことだ。
グレーのエコバック(汚れが目立たないから)にズボっと入れるとちょうど11時。
「探してくれてありがとうございました、野々宮部長」
「俺もかなめちゃんの読んでいる本に興味あったし。楽しかったよ。それにしてもそんなにたくさん、いつ読んでいるの?」
「朝練が終わるのって少し早いのでチャイムが鳴るまで部室で読ませていただいています・・・」
「恐縮しなくてもいいんだけど。そういう使い方なら文句は言わないよ。授業サボってゲームやら昼寝
をするヤツも居たしね」
「え!?」
「もちろん、俺や大友で制裁したけどね」
ゲームって・・・佐川くんかな?
ともかく、図書館で立ち話も何だし・・・とエコバックを肩にかけようとすると野々宮部長が、すっとそれを奪った。
「俺が持つよ」
「そんな・・・だって私が借りた本ですし」
「でもね、かなめちゃん。君がテーピングの入ったバッグを持って更にこの本を持つとするだろ? 手ぶらの俺があまりにも甲斐性なしっぽいじゃないか」
それじゃあテーピングのほうを・・・と思ったけど。ダメだ! バッグには黄緑色の大きなコサージュついている! 男の子には恥ずかしすぎるグッズだよね・・・。
「部活で筋トレしてるし、このくらい軽いよ」
「あ、ありがとうございます」
か、借りなきゃ良かった・・・。もしくは夕方に借りればよかったのよ。私のバカ!
図書館を出て、どこでテーピングの練習をするのかな? と思いながら部長の後をついていくと、オープンカフェにつれてこられた。
「お昼を食べようか」
え!?
いやでももう11時半過ぎているし、昼食タイムには違いないけど!
部長と二人でお昼!? しかもこんなオシャレな店で!
「中学生でも大丈夫な安心価格だよ、ここは。俺ね、ここのフィッシュバーガーがお気に入りなんだ」
そんな風に言われると・・・断れない。
「それじゃ、私もそれで・・・」
「飲み物は何にする?」
「コーヒーのホットで」
考えていいですか。
なんだかこれって・・・。
デートっぽくないですか! うわーうわーうわーーーー!!
部長とデート!?
いやいやいや。そんなの部長に失礼だよね。
だって野々宮部長だよ。全国紙に載るわ、インタビュー受けるわ・・・。
・・・。メンズノ●ノ出身とかジャニー●って言われてもおかしく無いさわやか系イケメンな上、全国制覇を成し遂げたバスケ部の部長。最強の中学男子プレイヤーだよ!!
ありえない。私とはステージが違う。
そう、これは教育っ。
不出来なマネージャーの教育なんだよ。ご飯食べたらテーピングだもん。
私は美味しいフッシュバーガーを食べながら、野々宮部長のにこやかな質問にたどたどしく答えるのでした。
「かなめちゃんは何時に寝るの?」
「部活に入ってからは11時です」
「起きるのは6時くらいかな」
「は、はい(何でー)」
「宿題とかどうしてる? 部活やっていると中々出来ないよね」
「休憩時間に出来る限りやって・・・あとはやっぱり自宅ですね」
「あ、俺もそんな感じかな」
「かなめちゃんの今日の服って甘すぎないけど可愛いね。スカートが多いの?」
「スカートしか持っていないんです」
「そうなんだ。でも似合っているしいいよね。髪は下ろしているのが多い?」
「体育と部活のときくらいです。長く結んでいると頭痛がするし・・・。一部ピンで纏めたりしますけど」
なんか、全然テニスに関係ないような? 生活態度の質問? 生徒(?)指導??
「ねえ」
「?はい?」
「そろそろいいかなって思うから言うんだけど・・・敬語止めない?」
「? 敬語使っていましたか? ・・・って使っていますね」
「うん(笑) 同じ年だし、おなじ部活だし、もう少し砕けて欲しいんだけど?」
ああ、大友君もそういっていたよね。
わたしったらバスケ部の人に妙に距離を置いているとか思われている?
「それじゃ、野々宮君でいい?」
「まだ硬いなぁ~」
「でも、苗字の呼び捨ては・・・。今まで男の子にそんなことしたことないし」
「じゃ、春都くんにしようか(笑)」
「・・・・・・・・・・・・・え?」
「うん、そうしようね? 部長とマネージャーなんて一心同体みたいなもんだよ。他の部員より仲良くて当たり前だもんね。俺もさらに親しい風にして『かなめ』って呼ばせてもらうから」
よ、よびすて!! しかも決定!?
い、いやいやいや! それよりも野々宮くんを・・・・いきなり名前呼び!!??
む、むむむむむ無理! 男の子を下の名前で呼んだのなんて、ヒトケタ年齢以来だもん。無理だよ!
彼氏(キャー!)の森川君ですら「森川君」なのに!!!
わたしはブンブンと首を横に振った。
「大丈夫だよ、慣れるよ。さあ練習しようか」
そして私は・・・オープンカフェで
「かなめ」「・・・・は、はるとくん?」「疑問系はいらないよ、かなめ」「ははは春都くん」「月乃」「は、春都くん」
とドモらないようになるまで、延々と呼び合いっこを続けたのでした。
いやーーーー! どこのバカップル!!??
森川君とだってこんなことしたことないよ!?
そして。
「俺、観葉植物が好きなんだ。花屋見てもいいかな」
と は、春都くんに誘われ(ドモりは治りませんでした)。
観葉植物のレクチャーを受けて、真剣に聞いたり。
今からだとトマトがプランターで育てられるときいて、つい苗を購入してみたり。
夕方、は、春都くんに自宅に送ってもらってから・・・テーピングの練習をしていないことに気づいたのでした。
私ってバカ!?
そして結局森川君とも逢えず仕舞いでした・・・。
翌日。月曜日。
「おはようかなめ!」
キラキラオーラで は、春都くんが挨拶をしてきました。
場所は部室。あ、あう~皆見てるよ~。
「お、おはよう。部、あ、野・・・・・・は、はると、くん」
二度もいい間違えて、そのたびは、春都くんの目がキラリと光って。
小さな声で名前を呼んだ。
「もう少し練習したほうがいいかなぁ~」
「だ、大丈夫! は、春都くん心配しないで!!」
「ならいいけど(笑) 昨日は楽しかったね。また遊ぼうね」
昨日は『うっかり遊んでしまった』んだけど、は、春都くんは楽しかった・・・のかな?
ならいいのかな。テーピングは昨日お父さんで練習したし・・・。
は、春都くんから離れると、大友くんと佐川くんが近寄ってきた。
「水野先輩、いきなり部長を名前呼びっすか!?」
「う、うん。なんだかそういうことになっちゃって?」
「疑問系・・・ということは野々宮に言いくるめられたか」
「そうだとおもう・・・」
「じゃ、俺もかなめ先輩って呼ぶっす! 先輩の名前って可愛いっすよね! 似合ってるっす!」
ゴイン!
「後輩のくせに、馴れ馴れしすぎる!」
「って~~! 馴れ馴れしいとかじゃないっすよ! おれとかなめ先輩は仲良しですもん! モンハン仲間っすよ!」
「さ、佐川くん! それは言わない約束だったのに!!」
「なに、マネージャー。モンハンやってんの?」
角野くん(3年)が食いついてきた! モンハンやっていることはなんとなく秘密にしていたのに~。
「かなめ先輩はモンハンだけじゃなくてFFもDQもBHもテイルズもバサラもやってるんすよ!」
「すげーな」
「・・・叔父からお古のソフトを・・・」
「うらやましいっすよ!!」
うう。乙女系は絶対ナイショにしておこう(涙)
人気ゲームを叔父から譲り受けるネタは、尊敬する竹本泉氏の某マンガから流用させていただきました。マジでうらやましいです。
ちなみに私はBHとモンハン以外は手を出しています。BHは小説と映画を愛しています。ゲームはクリアする自信がないので手を出していません。