車酔いの少女4
「新しいマネージャーの水野かなめさんだ」
「・・・・・宜しくお願いします。出来る限りフォローをさせていただきます」
ボール拾い そして ボール磨き。
モップ掃除。
ドリンクの準備。
洗濯は各自でするので必要ナシ(タオルも同様)。
部室の掃除に救急箱の管理。
テーピングの練習。
スコア付けに部誌の管理
ポール籠は重くて引きずってしまって、体育館を傷つけてしまうので、免除。
レギュラー陣でお話するのは、部長に副部長そして森川くん。
「の、野々宮部長・・・。部誌、です・・・」
「ありがと。 ・・・・うん、よく書けてるね」
「お、大友副部長・・・。一年生の練習スケジュールの確認お願いします」
「貸してみろ。・・・ふむ。だいたいはいいが・・・そろそろ練習試合も入れるか」
「森川くん。スコアはこれで、いい? 大丈夫??」
「どれ。・・・見やすいな。さすが水野だ」
3人そろって3恐か!? 部活終了間際のこの時間が一番緊張する・・・!
かなめはホッとため息をつくと、二年生のところにやってきた。その足取りは軽い。
「佐川くん、テーピングの具合、どうだった?」
「今回はズレなかったっスね。上達しましたね、先輩!」
「本当? 佐川くん、練習台ありがとうね~」
「こんくらいいいっすよ!」
「今度はね、腕、お願いしてもいい?」
「腕、っすか?」
「うん。バスケやっているときは流石に無理だから・・・。今から」
「なるほどっすね。・・・いいっすよ。チャッチャとやりましょうか!」
「ありがとう!」
かなめは肌色のテーピングを取り出すと、佐川の右腕を固定し始めた。
「にしても・・・。緊張してますねー」
「部長達のこと? そりゃあ、お師匠様みたいなものだもん。部長にニッコリ笑って『やり直し』とか、副部長に『なっとらん!』とか森川くんにため息付かれるかとおもうと・・・胃がキリキリしそう」
森川とはナイショのお付き合い中だが、ソレとコレは別なのだ。
バスケに真剣な森川は格好いいとおもうし、彼女だからという理由で採点を甘くしない姿勢も立派だ。
だからこそ、カンペキにこなしたいと思うわけで・・・
「でも、一度もダメ出しされてないっすよね」
「そりゃあね。もう全精力をそそいでやってるもん。精神力がエンプティだよ。LPゼロみたいな?」
「先輩ひょっとしてあのゲーム、やっちゃってます?」
「あ、LPでバレちゃったかー」
「オレも好きなんすよー」
「今度新作でるよね、対戦型。佐川くん、買う?」
「モチっす!」
「それじゃあ・・・私とも遊ばない? あんまり仲間がいなくって・・・オフ会はちょっと勇気いるし」
「アブねっすよ、女子でオフ会は。オレでよけりゃ喜んで♪っす」
そんなかなめをこっそり見るのはバスケ部ナンバー3。
「水野さん、ちっとも懐かないなぁ~って思ってたんだけど、一年や二年とは仲良しなんだね。しかもヒロヤ・・・」
「お、オレは真剣に取り組んでいる者を頭ごなしに叱りなどはっ!」
「ようするに、水野は俺達に対する認識が浅いのだろう」
「誤解は早めに解きたいよね。水野さん、マジメだし真剣に取り組んでくれるし」
「うむ。歴代のマネージャーで髄一の働きぶりだ」
「ね、佐川くん。腕動く?」
「ま、多少は・・・でもこんくらい動かないと俺飯も食えませんし」
「あ、そうか! ごめんね。外そうか?」
「一晩くらいいいっすよ」
「うん・・・。でも、毎日お願いしているの悪いよね。他の準レギュ達にもお願いしようかな・・・」
「それなら俺達が協力するよ?」
「「!」」
ヒロヤが飛び上がり、かなめはブンブンと首を横に振った。
「ぶ、部長方にご迷惑をお掛けするわけにはっ!」
「そ、そっすよ! 一年二年で練習台になりますんで! 先輩達はいーっすよ!」
結構可愛くて。マジメで優しいマネージャー。しかも趣味まで合うという相手だ。
テーピングの練習相手に事欠いているのなら、練習台になるくらいどうってことない。
3年生はしゃしゃり出なくて結構!(本音)
「でもね、かなめちゃん」
「か、かなめちゃん!?」
「いいよね。同じ部活なんだし。オレのことは野々宮部長じゃなくって、春都でもでいいよ?」
「い、いえっ!!(こ、コワイよぅ~)」
「じゃあ、追々ね。・・・話は戻るけど、実際テーピングするのってオレ達が一番多くなるよね? レギュラーだし」
「・・・部の方であればテーピングの必要性は誰しにもあると思いますけど・・・」
「うん、でもレギュラーが多いと思うんだよ(断言)」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんだよ。だからね、俺の脚や腕のことも知って欲しいんだよ。一人ひとり太さやリーチが違うわけだからね」
「!」
そういえば! と開眼するかなめ。
佐川の腕と大友の腕を見比べれば・・・確かに。
でも・・・・・・・怖い。
こんな人たちの前でぎこちないテーピング技術を披露なんて・・・・・・やっぱりムリっぽい。
森川だと照れるし・・・。
いや、でも!
女子バスケ部のマネージャーをやるつもりで、なんでだか(森川のせい)男子バスケ部に入部しちゃったけど! やることはどちらも一緒! 同じバスケ! 部長だって副部長だって森川くんだって同じ中学3年生!
恐れるなんて、おかしいのよかなめ!!
「や、やらせて頂いていいでしょうか・・・・・・・・・大友副部長」
かなめは一番腕が太そうな大友を練習台に選んだ。
野々宮の表情が黒く曇り、森川の目が細くなる。
「なんで、正隆?」
「!(ビク) 一年生や二年生と違って一番身体が出来ているので、差を感じるには一番いいのでは、ないか・・・と」
「かなめちゃんは、本当に理論がブレないんだね。まあ正隆はたしかにデカいね。秀司より筋肉質だし。
でもね、かなめちゃん。日本男児の平均に一番近い体格なのは、俺だから(笑」
「! は、はい! 是非野々宮部長にも練習に付き合っていただきたいと思います!」
「そう? じゃ、今度の日曜日。部活が休みだし、みっちり練習しようか☆」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」
「用事あるの? ないよね?」
「に、日曜日は二週に一度図書館に行っていまして! ちょうどその日なのですが!」
「じゃあ、図書館で待ち合わせしようよ。そのあと町に出ればいいし」
「ま、町?」
「テーピングの材料にも色々あるしね」
「そ?そうですね???」
あれ? なんだかおかしくない? と思うかなめだが、野々宮のほうが一枚以上上手だ。
図書館の日は森川と逢うのが恒例だが、これでは逢えなさそうだ。
なぜか日曜日は野々宮と逢うことになったかなめは、今回の練習台である大友と部室横のベンチへ向かった。
「わあ・・」
「?」
「大友副部長も、一年前は佐川くんみたいに細かったんですか?」
「俺はプロテインを飲んでいるからな。筋肉の成長は一般よりも早いはずだ」
「プロテイン・・・傷ついた筋肉をさらに補強するために飲むたんぱく質ですよね」
「そうだ。よく知っているな」
「スポーツ医療の本は色々読みました。読んだだけじゃダメなんですけど」
「まだ若いのだから、実戦が足りないのは仕方あるまい」
「(同じ年なんだけど・・・)」
ガッシリとした大友の腕にテーピングを貼る。
やっぱり佐川のときより長さが必要だ。
「スジがここだから・・・」
「関節がココだ。固定するときは」
「ココですね」
「そうだ」
「副部長、腕がスベスベですね」
「ブッ!」
「爪もきれいだし・・・健康状態がいいんですね」
「そ、そうだな」
「成績優秀でバスケも強くて・・・尊敬します」
「み、水野もよくやっていると思うぞ」
「そうですか?」
「ああ。細かいところに行き届いたサポートをしてくれている。練習も随分しやすくなった」
「そう言う風にいわれると、マネージャー冥利につきますね」
ニコッ。
かなめは初めて、大友を真正面から見て微笑んだ。
大友の身体が硬直し、テーピングしているかなめにもその変化が伝わる。
「大友副部長? どうしましたか?」
「! なっなんでもないっ」
「そうですか?」
「あ、ああ! なんで水野は同じ年の俺に敬語なのかと思っただけだっ」
逃げ口上だったが、気になっていることを大友はつい口走った。
「バスケ部では先輩ですし、大友副部長は貫禄があるから」
「だが、同じ部活の仲間だ。あまり堅苦しいと距離を置かれている気分になる。秀司程度には砕けてもらえんか?」
「それじゃあ、大友くん?」
「あ、ああ」
「・・・・わかった。ねえ、大友くん、テーピングこんなカンジでいいかな?」
「そうだな。もう少し強くてもいいが、軽度であればこれでも十分だろう」
「そっか・・・。ありがとう!」
「いや。俺たちのためにしてくれていることだからな」
「いい雰囲気じゃない?」
「正隆にしては、上手い事やった。と言えるな」
「かなめちゃんに微笑まれて硬直してるしね。・・・雲行きが怪しいな」
「野々宮、お前・・・」
「ま、日曜日が勝負だからね!」