最終
***
ナースセンターで教えてもらった病室は、個室だった。
ノックもまともにしないで、部屋に飛び込む。
そこには、ベッドに座っている凌の姿があった。
頭や腕の包帯が痛々しい。
パジャマの胸元からも、包帯が少しだけ見える。
「慌しいな…お前は」
息せき切って飛び込んできた駿に、凌が苦笑する。
「し…のぐ…なんでっ…お前…生きて……」
「勝手に殺すな」
凌が手招きをして、ベッド脇の椅子を指し示す。
「話してやるから、そこに座れ」
「……あぁ」
駿が椅子に座る。
「……まずは…どこから話すかな」
順を追って話すべきかと悩む。
「事故はな、居眠り運転していた車が歩道に突っ込んで来たんだ。それに巻き込まれた」
ゆっくり話す凌の言葉に、駿は耳を傾けた。
「気付いた時には記憶が無くて…お前の目の前にいた。それからは…まぁお前も知っているだろうが…昨夜な…思い出したんだ」
「何を?」
「記憶全てだよ。お前の…制服を見て思い出した。お前はただのクラスメートじゃなかった」
その言葉に、ピクリと駿が反応する。
「お前に告白されて…OKして…。あの日、お前があそこにいたのは…俺と待ち合わせしていたからだったんだな、駿」
「え?…今、"駿"って」
「思い出したと言っただろう?俺たちは付き合っていた。あの日は初めてのデートだったんだ。しかも…付き合い始めて1ヶ月だ」
思わず凌が笑う。
「一ヶ月で初デートとか…どれだけ初々しいんだと思ったよ」
「……普段は学校で会ってたし…それに、お前は委員会とか忙しいしさ。帰れば塾だなんだって…付き合ってないんじゃないかって思ったんだよ」
「そうだな。だから1ヶ月してようやくデートだ」
凌はその日を思い出すように目を閉じた。
「俺自身も呆れるほど楽しみにしていた…。遅れないように早めに出て…結果、事故にあったんだけどな」
「そ、んな…」
「でもきっとどこかで覚えていたんだ。待ち合わせに行かなけりゃって…。だから、気づいた時にあそこにいた」
包帯に巻かれた手を、駿の方へ伸ばす。
その大きな手が、頬を撫でた。
「だけど、本当はお前にあんな姿を見せるべきじゃなかった…1ヶ月で恋人が死んだなんて…そんな思いさせるべきじゃないからな」
「こい…びと…」
「そうだろ?お前は俺の恋人だろ?」
優しく問いかける声に、駿は思わず俯いた。
「わっかんねーよ…。オレの告白に流されただけだと…。だって…お前はいっつもオレのこと嫌がってたし」
「そりゃ、委員長としてはな…。でも、言っただろう?お前は意外に純情なんだって。俺が他のヤツのものになってほしくないって」
コクリと駿が頷く。
「それを聞いて…安心したんだ。お前に…そう思ってもらえてるなんてな」
「なんで?」
「もしも学校という規則がなかったら…俺もお前みたいに自由になりたいって思ってたから。だから、お前と付き合って…いろいろ知りたかった」
凌の手が、今度は駿の髪を撫でる。
「全てを思い出して…辛そうなお前を抱きしめてやれないのがもどかしくて…。キス一つ出来ない身体なんて嫌だろう?そう気付いたら、戻ってた」
空気に融ける様に…気付けば自分の身体に戻っていた。
大怪我だった自分の身体は、意外にも動ける事に驚いて…
今まで危篤状態だったと周囲にいた家族は皆喜んでいた。
ようやく自分が戻ってきたのだと実感した。
「駿…ごめんな」
謝る凌に、駿はただ首を横に振るしか出来なかった。
涙が止め処なく溢れてくる。
「駿…ごめん…心配かけたな。記憶まで無くして…」
「いい…もう、いい…」
駿の腕が、柔らかく凌の首に絡まる。
「お前が…生きててくれたから…いい…」
「あぁ」
凌は駿の背を撫でる。
「駿…俺が退院したら…デートしような」
「ん…」
「それから…俺はOKした時から、ちゃんとお前を見てるよ。流されてるだけなんて…ないから」
「うん、ありがとう」
凌は駿の金の柔らかい髪に顔を埋め、それから額にキスをする。
「凌…大好きだから」
「俺も、好きだよ」
それから2人はゆっくりと唇を重ねた。
長らく未完で申し訳ありませんでした
ひとまず落ち着いた…というところです
読んでくださってありがとうございました!