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刻まれる記憶  作者: 紫音
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-4-

深夜


凌は窓から空を眺めていた。

幽霊であるから、眠る事はしない。

だから、駿が寝てしまった後は一人で過ごしていた。


(…案外、暇なもんだな)


思わず苦笑して、それから無造作に壁にかかっているカレンダーを見た。

そこには、今日の日付にだけ○が書かれていた。


(そういや…あそこにいたという事は、待ち合わせだったんだろうな)


なのに、自分のせいでキャンセルさせてしまったのだろう。

申し訳ない気持ちはあるが、あの時の自分はそれなりに必死だったと思い返した。


それから、椅子にかかった制服のジャケットを見る。

恐らくそれは自分と同じなのだろう。


それなのに…



(あ…っ)



違和感を感じる。

同時に、頭の中にある景色が浮かんだ。


いつだっただろう…


屋上で佇む駿の姿。

彼に呼び出された自分の姿。


『…なぁ、八坂』

フェンスに寄りかかった駿が、凌をジッと見る。

『今、付き合ってるヤツとかいる?』

『いきなりなんだ。そんなヤツはいない。塾なんかで忙しいからな』

『さっすが優等生の委員長』

クスクス笑う駿に、思わず眉を顰めた。

『用が無いなら帰るぞ』

そう踵を返した時…駿の手が凌の腕に絡む。

『用ならあるよ。八坂、オレと付き合わない?』

『はぁ?』

『あんたがオレを目の敵にしてるの知ってるよ。けど、オレこう見えても案外純情なんだ』

駿の言ってる意図が分からず、凌はただ黙っていた。

『ずっと…好きだった。1年の頃から…』


それは聞いた事の無い真剣な声


『黙っておこうと思ったんだけど…八坂って結構モテるから…。誰かのものになるのは嫌なんだ』

駿と凌とでは、明らかに駿が見上げる状態になる。

『誰かのものにならないでよ。オレの物になって?』


あの時、頷いたのはどうしてだったのか





制服を見つめたまま、凌は戻ってきた記憶に笑みを浮かべた。


(そうだったんだ…)


ゆっくりと、眠る駿を見つめる。


(……ようやく…思い出した…)


手を伸ばし、駿の頬に触れる。


しかし、感触はない。

手も、通り抜けてしまう。


(だから、お前は辛そうに…)


凌は触れられない自分の手を見つめた。


その身体が、一層透けている。

まるで空気になるように…


(思い出したからか)


なんだか納得した。



消える身体が惜しいとは思わない。


そのまま…空気に融けるように凌の身体は消えていった。


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