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深夜
凌は窓から空を眺めていた。
幽霊であるから、眠る事はしない。
だから、駿が寝てしまった後は一人で過ごしていた。
(…案外、暇なもんだな)
思わず苦笑して、それから無造作に壁にかかっているカレンダーを見た。
そこには、今日の日付にだけ○が書かれていた。
(そういや…あそこにいたという事は、待ち合わせだったんだろうな)
なのに、自分のせいでキャンセルさせてしまったのだろう。
申し訳ない気持ちはあるが、あの時の自分はそれなりに必死だったと思い返した。
それから、椅子にかかった制服のジャケットを見る。
恐らくそれは自分と同じなのだろう。
それなのに…
(あ…っ)
違和感を感じる。
同時に、頭の中にある景色が浮かんだ。
いつだっただろう…
屋上で佇む駿の姿。
彼に呼び出された自分の姿。
『…なぁ、八坂』
フェンスに寄りかかった駿が、凌をジッと見る。
『今、付き合ってるヤツとかいる?』
『いきなりなんだ。そんなヤツはいない。塾なんかで忙しいからな』
『さっすが優等生の委員長』
クスクス笑う駿に、思わず眉を顰めた。
『用が無いなら帰るぞ』
そう踵を返した時…駿の手が凌の腕に絡む。
『用ならあるよ。八坂、オレと付き合わない?』
『はぁ?』
『あんたがオレを目の敵にしてるの知ってるよ。けど、オレこう見えても案外純情なんだ』
駿の言ってる意図が分からず、凌はただ黙っていた。
『ずっと…好きだった。1年の頃から…』
それは聞いた事の無い真剣な声
『黙っておこうと思ったんだけど…八坂って結構モテるから…。誰かのものになるのは嫌なんだ』
駿と凌とでは、明らかに駿が見上げる状態になる。
『誰かのものにならないでよ。オレの物になって?』
あの時、頷いたのはどうしてだったのか
制服を見つめたまま、凌は戻ってきた記憶に笑みを浮かべた。
(そうだったんだ…)
ゆっくりと、眠る駿を見つめる。
(……ようやく…思い出した…)
手を伸ばし、駿の頬に触れる。
しかし、感触はない。
手も、通り抜けてしまう。
(だから、お前は辛そうに…)
凌は触れられない自分の手を見つめた。
その身体が、一層透けている。
まるで空気になるように…
(思い出したからか)
なんだか納得した。
消える身体が惜しいとは思わない。
そのまま…空気に融けるように凌の身体は消えていった。




