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その④ マシンガン彼女




 東の空に紫色が滲み始めたとき、ポセットはすでに起きていた。


「今日中に森を抜けたいな」


 まだ寝ているナットをひょいっとつまんで肩に乗せ、鞄から出した地図と磁石で方向を見ると、西へ向かって歩き出した。


 ナットが欠伸まじりに尋ねる。


「そっち行ったら抜けられるの?」


 ポセットが頷く。


「ああ、西に行けば確実に抜けられるよ。前の町で気まぐれに買った地図だったんだけど」


「いい買い物したね」


「ただ、確かめたいことがある」


「もしかして昨日の女の子?」


 そうだよ、とポセット。


「あの子はとても不思議な感じがした。もしかしたら、僕の記憶と関係があるかもしれない。森は抜けたいけど、できればもう一度会いたいとも思う」


「そうだね、確かに不思議な感じがした。絶対人の気配じゃなかったもん」


 ナットが何をもって人の気配と言うのかは分からないが、ナットの感覚が頼りになるのはポセットも認めるところだった。


「ナットの感覚は本当に頼りになるよ。でも、昨日のお前の感覚を信じたとすると、あの女の子は一体……?」


「お化けだったんじゃないの?」


 同じ景色を歩き続けるうちに、太陽は随分高く上がってしまった。ずっと木の陰にいるので暑くはない。むしろ寒いくらいだった。どこからともなく、空を駆ける鳥の声。


「ねぇ、おなか減ったよ、ポセット」


「我慢しろ、ナット」


「ねぇ、木の実採ってきたんでしょ? 一つ食べようよ」


「かさばるから二つしかないの。それにお昼は我慢して、夜に食べるんだから」


「えぇ~」


 木の実で八割満たした腹も〝ね〟を上げ始めた頃。


「おや……?」


「わお」


 茂みを掻き分けて、大きな葉っぱをのれんのようにひょいっと上げた先に、それは悠然と立ち尽くしていた。


「あ! 人だ!」


 女性だった。赤味がかった長い髪を背中に垂らし、丈夫そうなヘルメットと厚手の半袖短パンを着ている。探検隊員のような格好だった。


「よかったー! 助かったわ、ありがとう!」


 女性は飛びかかるかのようにポセットに近づくと、両手を握ってブンブン上下に振りまわした。


「私、迷っちゃったのかと思って、ずっと不安だったの! でも大丈夫そうで安心したわ。早速で悪いんだけど私お腹ぺこぺこなの、食べ物あるかしら? あ、それより森の出口を教えてもらえない? ああいいの、ごめんなさい。もちろんあなたの用事が終わってからでいいわ。何しに来たの? 木の実でも取りに来たの? だったら私も手伝うわ! さ、どれから取るの? 食べれるやつ? 毒入りのやつ? 新種の木の実を探してたりして? ステキ。やっぱり、あるかわからない新種を探すのって大変そうだけどロマンがあるわよね。まぁ、私は木の実とかあんまり興味ないんだけどね。そうそう、ロマンといえば……」


 マシンガンのように降りかかる言葉の雨。女性は一息に言いきった。しかし、まだまだその話は続いていくようだった。


 ポセットは片手でマシンガンの銃口をふさいで、


「落ち着いてください」


 女性を押しやりながらゆっくりと茂みから抜けた。


 口を塞がれてなお、口をもごもごと動かすその女性は、自ら〝ミコ〟と名乗った。彼女も旅をしていて、昨晩森に入ったのだという。


「あのね、私森沿いの道を歩いていたわけよ。するとどうでしょう、森の中に女の子がいるじゃないの!」


「女の子――」


 ナットにだけ、ポセットの目つきが変わったのがわかった。


「その女の子はね、うっすら発光しているようにも見えたわ。とにかくその子は迷うことなく森の中に突き進んでいくのよ。危ないよって声かけたんだけどね、聞く耳なしって感じでどんどん奥に入っていくわけ。ここら辺、猛獣が出るって聞いたから。もう、慌てて追いかけたわよ」


「猛獣……。それはもしかして人狼のことでは?」


 ミコは両手をポンと叩いた。


「そうそれ! なんかねー、出るらしいのよ。変な話よねー。人狼ってもっと山の方に住んでるって聞いたんだけど……。怖いわよねぇ」


 ポセットの背を冷や汗が流れ、ナットが目を大きく見開く。


「――ホントに、いたんだね」


「僕の言うことを信じてなかったのか、ナット」


「うん、全然」


 小さく言ったナットの耳がくりくりと四方八方の音を拾う。


 気を取り直して、ポセットが聞く。


「その子はどんな格好をしていましたか?」


「えー、うんとねー。暗くてよく見えなかったけどぉ、軽そうな……、長いワンピースを着てたかなぁ?」


「もしかしてそれって三色だった?」


「確か、そうだよ。月明かりだけじゃ何色かまではわかんなかったけど。よく知ってるねぇ、猫くん」


 やっぱり。ポセットとナットが目を合わせる。そして、ポセットの顔に笑みが浮かぶ。


「そ、それで……、その子は今どこに?」


「え、知らないけど?」


 は? とポセットが呆けた顔になる。ナットがすかさず聞いた。


「追いかけたんじゃないの?」


 ミコは首を傾け、困ったように唸る。


「あのね、追いかけたには違いないんだけど、追いつく前に見失っちゃたんだぁー。それであちこち探し回ってるうちに迷っちゃってさぁー。いや、まいったね。あっはは。ところであの子の知り合いなの? なら早く探してあげようよ。きっと困ってるよー」


 ポセットはガックリと首を垂らした。地面からのナットの高さが三センチは下がった。




「それでね? 牛車に乗せてくれたおばさんがまたいい人なのよぉ~」


「あの、ミコさん」


「ん? 堅苦しいなぁ~。ミコでいいよ、ポセットくん」


「いや、でも――」


「うーん、じゃあ、どうしても呼び捨てできないなら〝ミーちゃん〟とかにしてよ~」


「いや、それも――」


「もー、じゃあ、私も君のこと〝ポセット〟って呼ぶから、ね? ポセットも私のことミコって呼んで?」


「えー、困りましたね……」


「もー、わがままだなぁ」


 ナットがポセットの耳元で呟く。


「よく話す人だね」


「まったくだ。ちょっとこういう人は苦手だよ」


 ひとまずミコを森の外に案内するため、二人と一匹は森の出口を探して西を目指していた。


「でね? でね? そこで食べたシチューがまた美味しいのよ! こう、なんだかわかんない動物の肉が入っててぇ、それがまたジューシーでねぇ~」


 黙々と歩き続けるポセットにお得意のマシンガントークを浴びせながら、ミコは流暢に後をついてくる。

 どのくらいうるさいかというと、ポセットがうんざりして思わず猫背になってしまうくらい。


 さらに言えば、ナットが耳をぴったり閉じて、その頭が真ん丸になってしまうくらい。


 その時、ポセットが歓喜の声を上げた。


「あ――、これは……!」


「えー、何? 何があったの? 見せて!」


 ポセットは足元の草を手で掻き分け、それを見せた。


「これって――」


「足跡……?」


 人の足跡。裸足。それは交互に少しずつ前にでて、くねくねと続いていた。


「あの女の子の?」


「大きさから見ても、恐らく……。そうでなくても、人がいるかも……。行ってみよう!」


「あ、ちょっと!」


 ミコの案内そっちのけで、足跡の追跡が始まった。


 草を掻き分けて、足跡を消さないよう、見失わないよう、慎重に進んでいく。注意深く足元を見るため、自然と体は曲がり、自然とナットが前に転がり落ちる。


「にゃおぉ……」


 ナットも意地になって肩にしがみつく。


「あはは、何これおもしろーい。枝が絡まってるー。あっはは」


 その後ろで、ミコは変な形の枝に大爆笑。


 到底乗っていられないポセットの肩はやめて、ミコの肩に乗りかえたナット。案外悪い乗り心地にムスッとしていると、ミコが尋ねてきた。


「なんであんなに必死になって探してるの? 女の子の知り合いなわけ?」


「うーん、そういうわけじゃないけど。ポセットはちょっと聞きたいことがあるんだよ」


「えー、それってどんな?」


「〝記憶〟だよ。ポセットは昔の記憶がないんだ。だからその手がかりを探してるんだよ」


「へー」


 ミコは一生懸命足跡をたどるポセットの後ろ姿をじっと見つめた。


「結構苦労してんのねぇ」




だらだら長くてなんか申し訳ないです。


続きます。

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