その① 一人と一匹
選んでいただきありがとうございます。 うれしい限りです。
初めて書いたものなので、広い心で見ていただけたらと思います。
それはある晴れた日のことだった。
空に浮かぶ太陽、青い空、白い雲、澄んだ空気。木々が両脇を囲む緑の道。
群青の衣服に身を包んだ少年が、遥か遠くを目指して旅を続けている。右肩から左腰に跨げて掛けた鞄が歩くたびに揺れた。
帽子にはスチール製のプレートが付いていて、額を守っている。首に巻いた黒のスカーフと、藍色の上下のジャケットは防寒具も兼ねる。
腰から下がる二本の黒い棒は唯一の護身具。それらを纏う少年は、青い瞳に灰色の髪。決して背は高くなく、華奢な体つきをしている。
肩には黒猫が丸まっていた。炭から生まれたような真っ黒な猫。ただ、両耳の先だけが、僅かではあるが、体と相反して真っ白なのだった。
瞳は鮮やかなエメラルドグリーン。いつも絶妙なバランス感覚で、少年が飛ぼうが跳ねようがまったく動じることなく肩に止まっている。
黒猫のナットが尋ねた。
「ねぇ、ポセット。まだ休まないの?」
ポセットと呼ばれた少年が答えた。
「うーん、もう少ししたらね。とりあえず食べ物を探そう。今なんにも食べるものないんだ。これは致命的だよ」
歩いても、歩いても、視界いっぱいに広がる木々と黄土色の一本道が無くなることはない。ゆっくりと緑が流れて行き、黄土がスライドし、雲が追いかけてくる。
平和な道、平穏な道、静かな道、同じ景色。
「同じところをぐるぐる回ってるみたいで気持ち悪くなってきたよ。ポセット、道間違えてない?」
「間違えてないよ。一本道なんだから間違えようがないだろ」
ナットはつまらなそうに髭をたらし、ボケ~っと空を見始めた。
ナットが大きくため息をついた時、ポセットは道端に咲いた小さな花に足を止めた。黄色の、小さな五枚の花弁を力いっぱいに開いている。
緑の中にただ一つ咲き誇るそれは、良い目の保養になった。
「見なよ、ナット。ほらこんなに小さくても……。あぁ、いい匂いがする」
花に顔を寄せるポセットを見て、ナットも鼻を鳴らした。
「いい匂い~」
ふわりと風が吹いた。花が大きく揺れる。
「あ、ポセットあそこにもあるよ」
目の前の黄色い花と同じ花が、ちょっと離れた場所で揺れていた。
「ホントだ」
立ち上がり、もう一つの花の前でまたかがむ。
「あ、ポセット、あっちにもあるよ」
「え? あぁ、本当だ……」
向こうにも同じ黄色の花があった。今度は走って向かう。
「変な花だね」
「ほら、ナット。あっちにもあるよ」
また少し離れたところに黄色の花が咲いていた。ポセットは立ち上がり、道沿いにずっと遠くまで目を凝らす。
同じく目を凝らしていたナットが言った。
「よく見たら、いっぱい咲いてるよ」
道沿いに点々と黄色の花が続いていた。
抜けるような青空を、一羽の鳥が滑るように飛んでいく。
伸びる黄色い点々は、遠くに薄らと見える緑のドームにつながっていた。
「森があるよ、ポセット。どうするの?」
ポセットは振り返って、何もない、今来た道に小さく微笑んだ。
「とりあえず行ってみよう」
ポセットは目の前に広がる森林を前に、大きく息を吸い込んだ。
「森、かぁ……。困ったな」
「何? ポセット、森怖いの?」
「迷ったりしたら困るじゃないか」
「大丈夫だよ、きっと」
迷路のように入り組む木々。その中で、たまたまポセットの目にとまった一本の木。獰猛に皮を削られた木の身体に、四本の太く長い線が刻まれていた。
「あれは、爪痕……?」
じっと一点を見つめて、ボケッと立ちつくすポセットに、痺れを切らしたナットが声をあげた。
「ねぇ行こうよ、ポセット。どうせ他に行くあてもないんだしさ」
「ないこともないよ。確か、近くに町があったはずだ。行く道は探さなくちゃいけないけどね」
「えぇー! やだよぉ! どうせ何もない町なんでしょ? オイラ、森の中見てみたいよ!」
ポセットの耳元でニャアニャアだだをこねる。
「でもなぁ……。何もないんだぞ? どうせ、宝物とか期待してるんだろ」
澄まし顔のナット。でも、髭がピンと伸びた。
「やっぱりか」
「い、いいじゃん。ね、ちょっとだけ!」
ポセットはしばらく、前を向いたり後ろを振り返ったりうろうろした挙句、キッと前を向いた。
「しょうがないか。どうせ食べ物も採らなきゃいけないし」
「やったぁ!」
二匹と一匹は木漏れ日が僅かに照らす木々の領域に足を踏み入れた。
なんだか中途半端に区切られてて申し訳ないです。
続きます。