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戻らぬ時と進む時

作者: P4rn0s
掲載日:2026/03/04

電車の中で、何となくタイムラインを流していた。

指は勝手にスクロールを続け、目はほとんど内容を追っていない。


そこで、不意に止まった。


「老害は確実にいるけど、『若害』も確実にいるよね?w」


笑いの記号がついているのに、少しも軽くなかった。

むしろ、その「w」が、妙に引っかかった。


確かに、と思う。

年齢に関係なく、周囲を振り回す人間はいる。

若くても傲慢な人はいるし、年を重ねても幼い人はいる。


でも、同じ「害」という言葉で括ってしまっていいのだろうか。


目の前の優先席では、

スーツ姿の若い男が足を広げて座っていた。

その前に立つ杖を持った女性は、

何も言わずにつり革を握っている。


男はスマホに夢中で、周囲を見ていない。

見えていないのか、見ようとしていないのかはわからない。


若さは、時に視野が狭い。

自分のことで精一杯で、他人の存在が風景になる。

それは未熟さであって、まだ変わる余地のある状態だ。


一方で、昔、職場にいた上司を思い出す。

長年同じやり方を通し、誰の意見も聞かず、

「俺の時代はな」と繰り返す人だった。


部下が疲弊していることも、

時代が変わっていることも、

自分の言葉が誰かを削っていることも、

きっと見えていなかった。


いや、見えていたのかもしれない。

ただ、見ないほうが楽だったのだろう。


若さゆえの未熟さと、

長い時間を経ても変わらない頑なさ。


同じ「迷惑」でも、質が違う気がする。


若い頃は、世界が狭い。

自分の正しさが絶対で、反対意見は敵に見える。

それは経験不足の副作用だ。

痛い目を見れば、たいていは少しずつ修正される。


けれど、何十年も生きて、

何度も失敗や後悔を重ねて、

それでもなお、自分以外を顧みない人がいる。


それは未熟というより、選択だ。


成長しないという選択。

耳を塞ぐという選択。

力を持ったまま、変わらないという選択。


電車が揺れる。

若い男がようやく顔を上げ、目の前の女性に気づいた。

慌てて立ち上がり、席を譲る。


女性は小さく頭を下げた。


男は少し気まずそうに笑っている。

悪意はなかったのだろう。

ただ、見えていなかっただけだ。


若さは、未完成だ。

だからこそ、変われる。


年齢を重ねることは、本来、

視野が広がることのはずだ。

他人の立場を想像できる材料が増えることのはずだ。


それなのに、それを使わない人がいる。


「若害」という言葉は、確かに存在するのかもしれない。

でも、それは成長途中の歪みだ。


「老害」と呼ばれるものは、

成長を拒んだ結果の硬直かもしれない。


どちらも周囲を傷つける。

けれど、背負っている時間の重さが違う。


時間は、ただ過ぎるだけじゃない。

学ぶ機会であり、気づく機会であり、

他人を想像する力を育てる猶予だ。


それを持ちながら使わないのは、

やはり少し、重い。


スマホを閉じる。

タイムラインの軽い笑いは、もう流れている。


害になる人間は、どの世代にもいる。

けれど本当に怖いのは、年齢ではなく、

変わらないと決めた心なのかもしれない。

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