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東国戦記女化伝  作者: 富野夷
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迎撃

 果たして翌日、風は吹いた。多賀谷舟団は動いた。

 この時点で義長の軍に利が生じている。そもそも、こうして戦は始まっていく中に果たして勝つことは出来るのか、駆り出された兵としてみれば半信半疑でしかない。

 その心理の中で、義長の作戦が既に的中。この大将の言うことを聞いているならば、きっと勝てる。その気持ちが兵に生じたことで勝機は増している。

 多賀谷軍は朱の旗指物を風に靡かせる。川面を席巻するばかりの舟団の威容であった。

 もしも、これをいきなりに物見が目にすれば、その数を更に倍とでも見誤って報告するのが人の気持ちだろう。

 儀式めいた大袈裟な身振りで、大人数と思わせようとする。それは昔ながらの戦法というものだ。義長は相手の数を既に調査している。

 とは言うながらも結局、その数が半分以下なのも紛れもない事実。その現実を目の前にしてしまえば、兵の士気は一気に萎えてしまうであろう。

 だが義長は、この風を計算に入れているのだ。しかも、舟は常よりは上流に潜ませてあった。少ない数ながらも、風を利して多賀谷が得意とする船戦を逆に、こちらが仕掛けるのだ。

 北風を孕む旗指物の舟が、葦原に身を隠している岡見軍の前をやがて通過していく。

 舟中に、弦を未だ付けず、弓を休ませたままの者も多い。粗忽なのではない。岡見軍の待ち伏せの迎撃を想定していない。

 まあ物見が今、我等を見て慌てて足高城に報告に走っているだろうぐらいにしか考えていないのだ。

 一斉の鬨の声。

 葦原から舟を押し出す。

 全員が戦闘態勢を整えている。

 川面に出れば、背後からの風が後押し。

 気が付いて、一斉に立ち上がり体勢を変えようとして揺らし、浸水させてしまうような舟もある多賀谷軍。当然、舟の向き自体を変える暇等はありはしない。

 川面は風の通り道になるから陸地よりも強く吹き付ける。

 引き絞った弓から、北風に乗って矢が飛ぶ。

 混乱の中、迎撃の弓矢。

 向かい風に顔を晒して矢を放つのも、狙いを付けづらいものである。

 義長の傍らには、海老原治郎。栗板の楯を構えて、敵の矢から義長を守る。

 しかもこの男、盾に刺さった矢を引き抜き。その先は弓につがえるも面倒とばかりに、相手に打ち投げ返してしまう。それが弓同等に飛ぶ。

 武については桁外れる男。

 その投げ矢が、風に乗って多賀谷軍を脅かす。

 船戦は崩れ始めると収拾が付かなくなる。しかも逃げ場は少ない。

 義長は無理追いはさせなかった。

 この度は相手を殲滅させるような戦いをしている訳でない。

 川が蛇行すれば風向きも変わってしまう。長引けば却って援軍を呼び込んでしまい、数的には更に劣勢になるかも知れない。

 今のこれだけの人数で、多賀谷軍に衝撃を与えられるならば、それに相当に意味が生じるのだ。

 多賀谷軍への矢衾の包囲、しかしながら対岸に向かう辺りに、逃亡の隙を義長は許した。

 兵は正直である。上から何を言われようが隙を見付ければ、そちらへと進む。闘戦は、徐々に収束の方向へと向かって行く。

 果たしてこれ以後、多賀谷政常も柳水軒義長に対しては、自重をする以外の何ものでもなかったのである。

 戦国の只中、義長とても一寸先のことは決して論詳らかではないかも知れない。

 しかしながらも一応の安定を、牛久城、足高城、女化が原の地は得ることが出来たのである。


                                             

 


 



 


 

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