表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東国戦記女化伝  作者: 富野夷
3/6

遠見

 白雲斎は更に遠見を勧めた。山中にあって空を見る。雲を見る。そして、天候の動きを知る。翻っては、天から見る積もりで自分自身を見詰め直す。

 白雲斎の蔵書は、当然に限りないほどである。千代松が許しを得て手にしたのは日本書紀と墨子であった。

それを紐解いて読み続けて、書紀の一条にその目が留まる。

『舒明九年二月、大きなる星、東より西に流る。便ち音ありて雷に似たり……是に僧旻僧が曰はく、天狗なり。其の吠ゆる声雷に似たらくのみ、といふ』

 千代松は目を閉じた。暗い闇の空である。しかし、星々が輝いている。漆黒の闇と彼方の輝きの中を飛行していく。耳元で風が鳴る。

 目を転じれば、眼下には巨大な青い星。見詰める。その瞳も青く反射する。海が見える。島が見える。書紀には、大八洲国とある。更には峻厳な山の連なりへと視界が接近していく。山々を覆う巨木の常緑の緑が広がる。その緑の中に一点の茶色、茅葺の屋根である。

 自分が眠っている。開いた半蔀から自分の寝姿が見える。千代松は、はっとして覚醒する。座したままに眠っていたのかも知れない。

いや、唯の夢ではない。紛れもなく大空に上がったように見た。不思議な経験ではあった。

 千代松は教えを受けたことに感謝しつつ、書に読み耽り遠見をして、その合間には走る。

 いつの間にか一年が過ぎていた。と或る日、長閑な春の空であった。白雲斎と千代松は、庭に出た。藪の向こうから鶯の声もする。眺めやれば、霞が空に柔らかく棚引いている。

「今宵は、冷えるやも知れません今のうちに、大根でも引いて参りましょう」

 確かに眺めれば、霞の奥には僅かながらも叢雲が立っている。その夕べは北風となり、千代松の見立て通りに冷えた。風呂吹きの大根を食べながら白雲斎が言う。

「東国に向かう時が来たようだの」

 千代松は深く頭を下げた。


                                        

 


 



 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ