第48話 性格診断テストでは神を測れない
「これで最後だな」
最後の一箱をゲートに放り投げる。
「よーし。じゃ、閉めちゃうよ〜」
セラが鍵を回すと、虹色の異空間はみるみる縮み――
すっと静かに消えた。
「意外とこたえたな。いい筋トレになった」
「ほんとセージの身体って意味不明なくらい丈夫だよね」
「鍛え方が違うからな」
結局、在庫は百個どころじゃなかった。
一箱二十四缶として二十箱。
しかも、フォーリンが閉め忘れていたゲートから“定期的に追加補給”まで発生。
途中で数えるのをやめたのは、俺の敗北ではない。合理化だ。
セラはペアラSSを操作し、宙に映像を投影した。
倉庫らしき光景の下から、ぬっとフォーリンの顔が出てくる。
『お、終わったのかい? 早いね』
「早いじゃないよ! ゲート閉め忘れとか勘弁して! 勝手に増える箱を送り返すの大変だったんだから!」
……君は途中、葉の詰めてないキセルを構えてただけだ。
『いやぁ〜ごめんごめん! 毎年数が合わなかったから、おかしいと思ってたんだよねぇ』
一年目で気づけ。
「とにかく! これで借りはチャラだからね!」
『はいはい、分かりましたよ〜』
……と、ここでセラが急に顔を上げた。
「いや、むしろ今度は私が貸し作ったかも」
『どうして?』
セラはどこからともなく紙を取り出し、画面越しのフォーリンに見せつける。
「ゴッドミクサーを拾ったAFDAが、ドーパミクサーとかリアクタンス・ノート作ってアスファレイアにばら撒いた可能性が高いの」
『なるほど。その線は確かにあるかもしれないね』
「実際、みんな何かしら依存に陥ってたんだよ。シガリアも、律命修道院も、ジャンクゾールも」
フォーリンは軽快にうんうん頷く。
そしてセラが、トドメみたいに言った。
「これ、下手したら世界滅亡案件じゃね?」
その瞬間。
フォーリンの“やる気のない瞳”が、びっくりするほど開いた。
『ま、まじか!? アスファレイアそんなことになってたの!?』
取り乱すフォーリンを見て、セラの目が悪代官のそれになる。
「結構やばいんだよ〜? あの三人組の行方も分からないしぃ〜?」
フォーリンが画面いっぱいに顔を寄せた。
『会長には……黙っててくれないか……?』
セラの顔が、さらに悪役へ堕ちる。
……よだれ拭け。
「えぇ〜? どうしよっかな〜。私とおそろでZランクも楽しいと思うな〜♪」
死んだ魚の目が、さらに死んだ。
『それだけは、ぜっっっったいに嫌だ。セラと同等になるくらいなら、うちは死を選ぶよ』
「そんなに!?」
煽った本人がショック受けるな。
「その辺にしとけ。仲間同士で脅迫し合うのは不毛だろ」
「甘いよセージ! 神界はいつ地位が脅かされるか分かんないんだからっ」
モグリナやウトリスの、ふわふわした空気を思い出す。
……うん。
たぶんそれ、フォロワー少ない神だけの話だな。
「冗談だよ。こう見えて私、結構誠実だから。黙っててあげる」
「それを“誠実”と呼ぶ世界は嫌だな」
――ていうか。
この子には一回、ビッグファイブテストを受けさせたい。
「な〜に? ビッグファイブテストって」
「人間界で科学的に信頼性が高いと言われる性格診断だ。協調性・外向性・誠実性・神経症傾向・開放性の五つで――」
「私、やる!!」
説明の途中で走るな。
セラはペアラSSを操作し、秒で受験を開始した。
数分後。
「終わったよー!」
ずいっと突きつけられた画面を見て、俺は固まった。
……そんなバカな。
誠実性、100超え。
セラだぞ?
「へぇ〜。面白いね♪」
満面の笑みのセラ。
俺は思わず呟く。
「ビッグファイブも案外アテにならないな……」
というか――
数値こそ違えど、俺の傾向と妙に似ている。
なんとなく腑に落ちた。
「どしたの?」
「……いや、何でもない」
そのとき、画面の端からフォーリンが再登場した。
『もういいかなー?』
「あれ? まだいたの?」
『通信切ってないからね!?』
フォーリンは頭をぽりぽり掻きつつ、一枚の紙をひらひらさせる。
『AFDAの三人のプロフィールデータ、送っといたよ。顔と名前くらい知ってた方がいいでしょ』
「さっすがフォーリン! 分かってる〜♪」
『君に弱み握られたからね。サービスだよ』
ダルそうに欠伸をするフォーリン。
『今日は仕事しすぎた。もう寝る。じゃあね』
プツン。
通信が切れた。
俺とセラでペアラSSを覗き込む。
前髪に青いメッシュの入ったリーダー格の男。
七三分けの中年男。
実験用ゴーグルの女性。
名前は――シエル、グレイ、フェリン。
……リオナやユキナのときにすれ違った三人で間違いない。
「グヒヒ。どれもええ感じよのぅ」
「吟味するな」
俺はペアラSSを取り上げた。
「あっ!? 私の唯一の楽しみが!」
「楽しみの方向性が陰湿すぎる!」
セラはケロッとして笑う。
「神の世界って、ある意味昼ドラよりどろっどろだからね♪」
「楽しそうで何よりだよ」
ともかく、ようやく雑用は終わった。
「シガリアに寄って、美味いものでも食べよう」
「なにそれ!? いつもナッツと野菜ばっかなのに!? 頭でも打った!?」
「俺にも食べたい日くらいある。チートデイだ」
セラがにやぁっとする。
「えへへ〜。私はいつもチートデイ♪」
「よし。またHIITの負荷を上げる必要があるな」
「それだけはやめて!!」
涙目でしがみつくセラを引きずりながら、俺たちはシガリアへ続く農道を歩き出した。
晴れ渡る空。
風は穏やか。
旅路は順調――のはずだった。
このあと、思わぬ事件に巻き込まれることになるとは。
この時の俺たちは、まだ知る由もなかった――。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
皆様の応援が、何よりの励みになります!
少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします!(広告下の☆をタップで簡単に登録できます)
また、読み進める途中でも構いませんので評価をしていただけると大変嬉しいです!
これからも、どうぞよろしくお願いします!




