第46話 謎解きは女神を貶めた後で
――どうして、こんなところにリアクタンス・ノートがある?
「あ! 見てセージ! これ!」
セラが差し出してきたのは、一本の空き缶。
ドーパミクサー。
この場所に、リアクタンス・ノートとドーパミクサー。
二つの製品が揃っているということは――。
「まさか、ここはAFDAの拠点……?」
「言われてみれば! いま気づいた!」
遅い。
もう少し警戒心を持ってほしい。
いや、女神からすれば些細なことなのか。
それとも――
「私にとっての脅威は去ったからね〜。気楽でいいわ〜♪」
この堕女神め……。
「……いや、妙だな」
腕を組んで考え込んでいると、セラがスッと顔を覗き込んできた。
「お腹痛いの?」
「違う。AFDAの製品が、なぜここにあるのか考えてる」
フォーリンが言っていた“落下地点”は、確かにここだ。
神界から落ちたのはゴッドミクサー。
それなのに、ドーパミクサー……。
単純すぎて、逆に見落としていたが――。
「……中に入ろう」
「ラジャー♪」
建物に近づくにつれ、甘ったるい匂いが鼻をつく。
「いい匂い〜。ここ、寝れるかも」
「寝てていいぞ。最終回までずっとな」
「ヒロイン切り捨てエンド!?」
セラの悲鳴を背に、田舎の駄菓子屋みたいな引き戸を開ける。
……勝手に入っておいて何だが、セキュリティが緩すぎる。
中には、人間界でも見覚えのある機械が並んでいた。
飲料だけでなく、お菓子やスイーツ製造用の装置まである。
積まれたラベルを一枚、手に取る。
――ドーパミクサー。
「ねぇねぇ、奥で光ってるよ」
セラの指差す先。
入り口の前には『KEEP OUT』の黄色いテープが雑に貼られている。
その奥から、ほのかに虹色の光。
覗き込むと、段ボール箱がいくつも積まれていた。
箱には、大きくこう書かれている。
《ゴッドミクサー》
そして、その中心に――
不自然な虹色の光が、ぴったりと張り付いていた。
近づこうとした、その時。
セラが軽やかな足取りで光の前に立つ。
「ほうほう……」
顎に指を当て、しゃがみ込み、じっと凝視。
数秒後。
「これ、神界に繋がってるね」
「……本気か?」
「うん。エネルギーの流れにフォーリンの神気が混ざってる」
……まともな解説をするセラ。
「何か変なものでも食べたか?」
「さっきからヒロインの扱いひどくない!?」
セラはため息をつき、手を差し出した。
「鍵、預かってるでしょ?」
「あ、ああ」
鍵を渡すと、セラは空中に差し込む仕草をする。
――次の瞬間。
バチッ!
激しい静電音とともに、床に張り付いていた光と同じ“歪み”が出現した。
「このゲートね、鍵を差した側から神界へ一方通行なの」
「一方通行?」
「例えば――」
セラは床に落ちていたドーパミクサーの空き缶を拾い、投げた。
――その瞬間。
「いてっ」
乾いた音。
缶は俺の額に直撃し、床に転がった。
……なるほど。
「つまり、このゲートに箱を投げ込めばいいんだな」
「そうそう♪ フォーリンの倉庫に直送されるはずだよ♪」
…………。
「じゃあ、なんで缶は俺に当たった」
「私を軽んじた、は・ら・い・せ♪」
根に持ってたのか。
「じゃあ、この床のゲートは?」
「う〜ん……たぶん、フォーリンの閉め忘れ」
「……え?」
「だから、神界と繋がったままなんだよね」
――その時。
ポンッ。
床のゲートから、ゴッドミクサーの箱が飛び出した。
嫌な予感。
まさか――。
「あはは! 神界から垂れ流されてる〜!」
「笑い事じゃない!」
何年も放置されていた神界製品が、地上に流出していた……?
その瞬間。
頭の中で、点と点が繋がった。
ドーパミクサー。
リアクタンス・ノート。
AFDA。
「……なるほどな」
「え? なになに?」
呑気に首を傾げるセラ。
――見えてきた。
シガリア王国が、異常なまでにスイーツを求めた理由。
ジャンクゾール魔界域に、エナドリと依存製品が広まった理由。
トーフ帝国で、ユキナと“あの三人”が話し込んでいた理由。
「セラ……俺は気づいてしまったかもしれない」
「ほう?」
「この世界の、真の脅威に」
セラは一瞬だけ驚いたように目を見開き――
すぐに、クールな笑みを浮かべた。
「面白いじゃない。なら――」
白い指が、ビシッと俺を指す。
「どちらが真の名探偵か、決着をつけよう?」
「ふっ。君が泣き崩れる未来が見えるな」
こうして。
謎の工場で、
謎の製品に囲まれ、
なぜか女神と名探偵対決をする流れになったのだった――。
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