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異世界でも健康的ルーティンを!!〜健康生活を徹底していたら、いつの間にか世界が平和になっていた〜  作者: SSS


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第41話 三本のひまわり


――あれから二ヶ月。


最初は食事を変えることに、ユキナは露骨に抵抗した。

けれど三日もすると、拍子抜けするほど順応した。


「怖いのよね。変えるのが。長年の習慣って」


そう言っていたのに。


一週間単位で、パンやパスタに偏った食事を少しずつ減らし、

代わりに、タンパク質と野菜を増やしていく。


朝は必ず外へ出て、車椅子を押して日光を浴びた。

動かない左半身のマッサージも欠かさなかった。


あれだけ高かった血圧も、今では年齢相応の数値に落ち着いている。


そして何より――

ユキナの表情が変わった。


「今度これ、試してみたいの」


以前なら“私には無理”を口にしていた人が、

“やってみたい”と言うようになった。


くすんでいた肌は透き通り、灰色の瞳も少し桜色に染まり、本来の輝きを取り戻しつつある。

成人した娘がいるとは思えないほど、若々しくなっていった。


いま、彼女は車椅子に座り、静かに深呼吸している。


俺は鼓動を抑え込むように、手を握りしめた。


体組織成分解析(アナリシス)』の結果は、すでに出ている。


脳内に残っていた魔糖素の結晶は消失。

魔糖素濃度も血圧も正常値。

身体的には――問題ない。


……それでも。


「ゆっくり立ってみてくれ。無理そうなら、すぐやめていい」


言葉が、少し震えた。


ユキナは頷き、両手を膝に置く。


息を整えて――


ゆっくり、力を込めた。


その瞬間だった。


風に吹かれた桜の花びらがふわりと舞い上がるように、

ユキナは――軽やかに立ち上がった。


白装束が揺れ、白銀の髪がさらりと踊る。


薄桜色の瞳が、驚嘆に輝いた。


俺の全身に鳥肌が立つ。


いま、目の前で起こったこと。

その現実に。


そして、咲き乱れるひまわりのような彼女の笑顔に。


「……信じられないわ」


ユキナは、まるで自分の体を初めて触るみたいに、ゆっくり両腕を見下ろした。


「本当に……立てた。自分だけの力で」


声が遠い。


彼女の言葉が耳に入っているのに、うまく理解できない。


重なってしまう。


かつて望んだ母の姿と、ユキナが。


――俺が全力で支えていれば、母さんは倒れなかったかもしれない。

――俺が全力で介護していれば、少しは楽にさせられたかもしれない。

――無理を、させずに済んだかもしれない。


でも、俺は。


現実に向き合うのが怖くて、

積極的な介護から逃げた。


そして、ろくに親孝行もできないまま――

あなたは、この世を去った。


謝りたくても、もう伝えられない。

あなたの死に意味を見出すために。


せめて、あなたがくれた命を全うするために。


俺は健康に目覚めた。

自分の体を労ることを誓った。


いつかどこかで会えた時に、

「一生懸命生きた」と胸を張って言えるように。


それなのに――

俺はあっさり死んでしまって。


転生して、俺だけが第二の人生を与えられて。


こんな親不孝者の俺なんかが。


母さん、ごめん。

本当に、ごめん。


俺は……。


「どうして、そんなに思い詰めた顔をしているの?」


気づくと、ユキナの白い手が、俺の手を包んでいた。


温かい。

火のそばにいるみたいに、じんわりと。


彼女の背後には車椅子がある。


ここまで――歩いてきたんだ。自分の力で。


「……治ったんだな」


声が掠れた。


「良かった。本当に」


ユキナは皇族らしからぬ、無邪気な笑い声をあげた。


「あなたが言ってくれたじゃない。やってみようって」

「……そうだな。なんだか、実感がなくて」


本当は。


ユキナのためだけじゃなかったのかもしれない。


これは贖罪だ。

母さんを満足に介護できなかった俺自身を救うための。


俺の独りよがりだ。


「私を介護してくれていた時のあなたの顔、真剣そのものだったわ」


ユキナは、満面の笑みを浮かべる。


「絶対に助けてみせる。そんな覚悟が伝わってきたの」

「だから……頑張ってみようって思えた」

「あなたのおかげよ。本当にありがとう」


その言葉を聞いた瞬間、何かが切れた。


ずっと背負っていたものが、

音もなくほどけて、軽くなる。


気づけば、ユキナの顔が滲んでいた。


「うふふ。あなたが泣いたら、私が泣けないじゃない」

「……すまない」

「あなたは誠実な人ね。他人にも。自分にも」


頬に触れる白い手が、遠火のように優しく温かい。


“受け入れられた”気がした。


こんなに心が落ち着くのは、ずいぶん久しぶりだ。


「さぁ、ご飯にしましょうか。あなたが教えてくれた健康レシピ……自分で作ってみたいの」

「いい心がけだ。でも、無理はするな」

「大丈夫よ♪」


ユキナはウインクして、まだ拙い足取りで部屋の奥へ歩いていった。


……すごいな。


立ったと思ったら、もう歩こうとする。

俺も、見習わなきゃならない。


「よし。いい絵が撮れた」


背後から、場違いに明るい声。


振り返ると、セラがいつものように、横向きにしたペアラSSをこちらへ向けていた。


「君は相変わらずだな」

「セージのドキュメンタリーを撮るのが、私の仕事だからね!」


「君の仕事は、この世界の救済じゃないのか?」

「それはそれ。これはこれ」


堂々と言い切る女神。


「でもね、配信は……また今度にしようと思うんだ」

「いいのか? 俺の善行は、神界のいい養分になりそうだが」

「あはは! 自分で善行って言った!」

「この際、開き直ろうかと思ってな」


セラはペアラSSをしまい、上目遣いで俺を見る。


「照れ隠しが上手いなぁ」

「ち、違う」


すると彼女は、ぴょんと飛び退いた。


「セージの魂を見つけた時ね、思ったんだ」

「……なにを」

「ずいぶん真っ黒い魂だなぁって♪」

「マジか」

「罪や後悔が強い魂は、くすんだ色になることが多いんだよ。セージのは特に酷かった♪」


……そんなにか。


天国に行けるとは思っていなかったが、

素直にショックだ。


やはり、母さんを見殺しにしたような俺は――


「でもね」


セラの声が、少しだけ優しくなる。


「暗闇の奥で眠ってた優しさと誠実さは、他のどの魂より強くてね」

「すっごく温かい光を放ってたんだ」


ふわりと舞うピンクシルバーの髪。

風を泳ぐ純白のドレス。


「その温かさに触れて思った。なんとかしてあげたいなって」


ひまわりみたいに咲く、眩しい笑顔。


その瞬間、ふっと心が軽くなった。


長い間、引きずっていた鉛が、

いつの間にか消えていた。


俺は――許されるのだろうか。


「あなたは最初から、恨まれてなんかいなかったよ」


セラが、静かに言う。


「あなたの記憶に刻まれたお母さんの魂が言ってる」


いつの間にか、真っ白い景色の中に立っていた。


振り向くセラの姿が、母さんと重なる。


その時。


母さんの声で語られた言葉を、俺ははっきり聞いた。


『聖司。ずっと一緒にいてくれて、ありがとうね』


笑顔は変わらない。

爽やかで、温かくて。


俺は、ようやく自分自身と向き合えたのかもしれない。


どうしようもなく自分勝手で、

自己中心的な自分と。


「……母さん。ありがとう」


涙を拭うことも忘れて、

消えゆく彼女の姿をいつまでも見送った。


俺は、全力で生きる。


たとえ異世界でも。

たとえ、あなたに会えなくても。


あなたにもらったこの命を、使い切るまで。


あなたの遺したものが、何より尊いものだと証明するために。


生まれ変わったような感覚の中で、

俺は胸の奥から湧き上がる温もりに、ただ浸っていた。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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