第35話 ヒロイン退場、主人公は日常へ?
恐る恐る、周囲を見渡す。
歓談する魔王と三飽魔。
飛び跳ねるリオナ。
空中には、相変わらず虹色の光に包まれた神界の映像。
……よかった。
どうやらこの物語は、まだ続いているらしい。
このままエンドロールが流れたらどうしようかと思った。
『エンドロールって意外と楽しいんだよね。声優さん当てゲームできるし』
「この声は絶対あの人だと思って確認したら違った時の、あの妙な恥ずかしさとかな」
『そーそー! セージ、分かってんじゃん!』
……。
共感できてしまうのが、地味に悔しい。
「それより、どうするんだ。だいぶグダグダだぞ」
『魔王の脅威もなくなったし、私的にはここで終わってもいいかな〜って』
「作者の意向を無視して勝手に終わらせるな」
『だって世界は平和だし、もうやることなくない?』
……なんだか色々とすり替わっている気もするが。
結果的に争いが避けられたのは事実だ。
それだけは感謝している。
とはいえ――。
「世界が平和になった、というより……」
もともと、平和だった。
セラが「討伐討伐」と騒いでいたから、
魔王がどれほどの極悪存在なのかと勝手に想像していただけ。
実際は、想像を軽く飛び越える良い人だった。
アスファレイアは、最初から危機なんてなかった。
神界の連中もずっと緩みっぱなしだったし。
つまり――
「セラが一人で空回ってただけ、ってことか」
ほら見ろ。
やはり俺の出番はなかったじゃないか。
『それ、主人公として終わってない?』
「終わってない」
……いや、でも。
何かが引っかかる。
脳裏に浮かぶ、あの三人組。
エクレールやリオナの体内に溜まっていた物質。
ジャンクゾールに蔓延したSNS依存。
そして、リアクタンス・ノートを配らせた存在。
「リオナ。あの小瓶を渡した三人組、覚えてるか?」
「うん! 確か、えーえふなんとかって言ってたよ!」
無邪気な答えが、逆に胸に重くのしかかる。
AFDA――。
成分解析で、何度も目にした名前。
見過ごすわけにもいかない。
とはいえ、目的も行き先もわからないまま。
「彼らは、どこへ行くって言ってた?」
「トーフ帝国だよ!」
トーフ帝国。
折りたたんでいた地図を広げる。
「なんだその、ピエロの笑顔みてぇな絵は」
「やはり素晴らしい美的センス! 一目で分かります!」
「……あんた、よく読めたわね」
アヴルスとメルミナは常識的。
ゾネリオだけ感覚がおかしい。
突然、グラトが地図をひったくった。
くしゃくしゃに握られた紙が、微かに震えている。
……ああ、そういえば。
彼の似顔絵、描いてあったな。
下手すぎて怒ってるのかと思ったが――
「なんと美しい! まるで肖像画だ! 普段よりイケメンではないか!!」
イケメン前提なのか。
「ここからトーフ帝国までは?」
『徒歩で一週間くらい。車なら三、四時間かな』
「車?」
『神界にはあるよ。今流行りのEV♪』
流行り……?
『じゃあ行っちゃう?』
「……」
セラの話では、自然豊かで農業が盛ん。
最近、まともに野菜を食べていないしな。
正直、興味はある。
『相変わらず自分のルーティン最優先のクズ主人公だね♪』
「クズで結構。健康あっての主人公だ」
『えっ 陰で意識してるの?! 某劣等生も? ホワイトルームの子も?!』
そこを引き合いに出すな。
「たぶんな。でないとあの頭と肉体のキレは説明がつかない」
「ショック! 二人とも、ばくばく野菜食べまくってるの?! もうほとんどセージじゃん!」
俺の評価低すぎないか?
……と、話しているうちに。
「魔王を倒す必要は、もうないってことでいいんだよな?」
『うん。情動も安定してるし、とりあえず懸念してたリスクは消えたよ』
「じゃあ、君の役割も終わりか」
『……』
セラの瞳が、みるみる潤んでいく。
『私、用済み?!』
次の瞬間、涙と汗で顔が崩壊した。
『やだ! 今すぐ行くから見捨てないで!!』
「これで昇格できるかもしれないぞ」
『ちょ、ヒロイン置いて先進む気!?』
「俺は、のんびり暮らすよ。今までありがとう」
その背後で、ディアクローネが冷たい笑みを浮かべていた。
『お楽しみのところ悪いけど、いい加減、書類を片付けなさい』
『楽しんでるように見えます!?』
耳を引っ張られ、連行されるセラ。
ウトリスが眠そうに現れる。
『……もう切るよ』
『それじゃ、セージ。また縁があれば』
プツン。
画面は静かに消えた。
⸻
ギンジャーリ城・裏口前
「そろそろ発つ。SNSはほどほどにな」
「切り替えが早いな」
「人間の俺にできることは、もうないしな」
グラトが手を差し出す。
「いつでも来い。我らは貴様を歓迎する」
「ありがとう。また必ず」
握手した瞬間、光が溢れ――
三飽魔と共鳴するように、力が流れ込んできた。
冷水を浴びた後のような研ぎ澄まされた感覚。
これはーー。
「信頼の証、というやつだな」
これが、魔族特有の共鳴する力。
こんなにも温かい優しさに満ちた力を持つ種族。
百聞は一見にしかず、だな。
「セラに横取りされる前に行くよ」
彼らの笑い声を背に、歩き出す。
さて。
次はトーフ帝国か。
まずは乱れた食生活を整えよう。
久しぶりに一人の時間だ。
空を見上げる。
陽光に照らされたバズルダムの街は、
まるで天上の楽園のように輝いていたーーー。
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