第34話 これにて終幕?
ギンジャーリ城で、魔王グラトの生活改善を始めて二週間――。
ドォン……!!
覇王の覇気を纏った、250cmを超える巨体が床へ着地した。
振動対策万全のはずの地下体育館が、わずかに震える。
「……フシュウ……」
その光景を前に、三飽魔も、そして俺も言葉を失っていた。
理由は一つ。
魔王グラトは――
四分×四セットのノルウェー式HIITを、完走してしまったのだ。
この二週間、彼は俺の想定以上に黙々とトレーニングに取り組んでいた。
弱音も愚痴も吐かず、ただ自分と向き合い続けていた。
……もしかしてこの人、
めちゃくちゃ真面目なのでは?
「む? どうした。揃って黙り込んで」
「正直、驚いたよ。まさかここまで短期間で完走できるとは思わなかった。エナドリによる血管ダメージもあったはずなのに」
すると、グラトは豪快に笑った。
「我は崇高なる魔族の長。これくらいこなせねば示しがつかぬ!」
――と言い切った直後。
ドサッと床に腰を下ろす。
「……と言いたいところだが、とうに限界は超えている。見よ、この通りだ」
伸ばされた脚が、ぷるぷると小刻みに震えていた。
「だが不思議だ。この爽快感は何なのだ。ドーパミクサーの刺激より……いや、それ以上だ」
「だろ? 心肺機能、集中力、アンチエイジング。HIITは短時間で効果を出せるコスパ最強の運動だ」
「うむ。体の奥から闘志が漲る。魔力も安定している」
「体組織もほぼ正常値だ。SNS依存も抜けてる」
その瞬間、グラトの三つ目が見開かれた。
「……HIITを、ジャンクゾールの国技にするか」
「それはちょっと過激すぎる気がするな」
「だが民が健康になり、心臓が強くなれば軍の底上げにもなる」
……理屈は通ってるのが厄介だ。
三飽魔も一斉に盛り上がる。
「いいじゃねぇか! 朝のウォームアップに最適だ!」
「赤ダルマには負けませんよ!」
「私たちはゆるめでお願いしたいわね」
「うん! 私も運動する!」
HIITを準備運動扱いとは……
魔族、怖い。
「そういや、結局同志は戻ってこなかったな」
アヴルスが天井を仰いだ。
「進化した俺を見せたかったんだが」
セラは、これまでにも何度か突然姿を消したことはある。
特に夜は布団が恋しいらしく、神界へ帰ることも多い。
だが――二週間も音信不通は初めてだ。
その時。
体育館の天井から、虹色の光が降り注いだ。
長方形のプリズムが床に貼りつく。
『ぽよん♪』
……この不愉快極まりない音。
光が反転し、映し出されたのは神界の一室だった。
積み上がった書類、半開きのお菓子袋、
そして布団から這い出る記録管理長ウトリス。
画面中央には、何やら仕事中のセラ。
隣には黒スーツ姿の財務管理長ディアクローネ。
ウトリスがヌッと画面に近づく。
『……ふわぁ。なんで私がこんなこと……』
ペアラが倒れないのを確認すると、そのまま布団へ潜り込んだ。
セラがこちらに気づき、手を振る。
『やっほ〜! 皆の可愛いヒロイン、セラフィーナでーす♪ 寂しかった?』
「いや、全然」
ポテチのカスが口元についてるし。
ペンが飛んできた。
『そこは嘘でも寂しかったって言いなさいよ!!』
「心配はした」
『えっ……?!』
なぜ照れる。
「聞かせたのは君だろ」
『わ、分かってるって!』
「それで、何してるんだ?」
『財務のお仕事よ』
……意外だ。
だが即座にディアクローネが口を挟む。
『単にあなたが滞納した書類の処理よ』
『ディアちゃん、しーっ!!』
『だから“ちゃん付け”はやめて』
……やっぱり通常運転だった。
『あなたを探すの苦労したのよ』
『ごめんって! 今度フィナンシェ奢るから!』
『それで手を打ちましょう』
チョロい……!!
「で、いつ戻る?」
『むむ〜。そういうやり方もあったかぁ。う〜ん、でも…。まいっか♪』
何やら一人でぶつぶつ言っている。
『おけおけ! とりあえずこれ書いたら戻るよ♪』
税金の書類をひらひら見せる女神。
……滞納はダメだろ。
それにしても字が綺麗だ。
丁寧すぎて逆に違和感がある。
『勝手に分析しないで!』
「はいはい」
セラが戻るまで、続きをやるか――と思った、その時。
ふと疑問が浮かんだ。
「そういえば、君たち魔族は恐れられているみたいだが、本当に世界を滅ぼそうとしているのか?」
三飽魔が一斉に怪訝な顔をする。
「は? そんな迷惑なことするかよ」
「スマイルこそ世界を平和にするんです」
「暴力はコスパ悪いわ」
……完全に正論。
「フシュウーーーー!!」
グラトの覇気が放たれ、思わず身構える。
「みんな仲良く、健やかに!!」
学級目標か。
「グラト様。それ去年のだぞ」
「では『SNSは一日一時間まで』にする」
『はいはい! それ、私が書いたげる!』
「うむ。任せた」
……もう友達だ。
つまり、この世界を脅かしていた原因は
魔族ではなかったということなのか。
……ん?
「……世界の救済は?」
セラがしばらく考え込み、指を鳴らした。
『これにて終幕! めでたしめでたし♪』
――は?
歓喜に沸く魔族たち。
そして、
取り残される俺。
……本当に、これで終わりなのか?
混乱だけが、静かに俺の胸に残っていた。
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