第33話 飲み物の恐怖と消えた女神
「エナドリが……糖質だと?!」
魔王グラトの三つ目が、血走ったように俺を射抜いた。
正直、見た目の圧は相当だ。
だが――ここで引くわけにはいかない。
健康に関する誤解を、放置するなんて俺にはできない。
「グラト。君はどうしてエナドリをそこまで愛飲している?」
俺の問いに、魔王は誇らしげに胸を張った。
「我が愛する《ドーパミクサー》についてか? ならば語ろう。まず、この喉越しよ。しゅわしゅわとした刺激が喉を通るたび、次の一本へと手が伸びる。そして摂取後に得られる研ぎ澄まされた集中力――何より素晴らしいのは、飲料水である点だ」
なるほど。
「小麦などの炭水化物ではない。つまり糖質を気にせず飲める!」
……うん。
教科書に載せたいレベルの誤解だ。
「エナドリって、これのこと?」
グラトの背後から、リオナがひょいっと一本の缶を取り出した。
メタリックシルバーのロング缶。
ピンクの稲妻マークがやたら主張している。
いかにも欧米発、って感じのパンクなデザインだ。
「ちょっと貸してくれ」
裏面を見るが、成分表示はなし。
――ああ、そういう世界か。
このアスファレイアでは、表示義務がないらしい。
現実世界とほぼ同じ食品文化なら……中身はだいたい想像がつく。
俺は静かにスキルを発動した。
『体組織成分解析』
⸻
名称:ドーパミクサー(Dopamixer)
分類:清涼飲料水/AFDA製 情動賦活エナジードリンク(SNS増幅)
主成分:アクティブレゾニン/フィードバック糖核液/マギア刺激素V/リプラフィン(微量)
効果:覚醒強化・集中上昇・SNS反応感度UP・短期万能感UP
副作用:依存促進(魔力量比例)
⸻
……はい、アウト。
「依存促進までご丁寧についてるな。しかもSNS反応感度UPのおまけ付きだ」
「な、なんだそれは……」
「ちなみにグラト。“清涼飲料水”って言葉、知ってるか?」
「我を舐めるな。強炭酸とケミカルな味で誤魔化した駄菓子の延長品だろう?」
「エナドリも、だいたい同じだ」
「なっ……?!」
顎が外れ、地面にめり込む。
さすが魔王、リアクションまで規格外だ。
「ば、馬鹿な! あの刺激と爽やかさ! 脳を直接揺さぶる感覚が紛い物だというのか?!」
「全部カモフラージュだ。覚醒作用がある分、下手すると普通の清涼飲料水より危険だぞ」
次の瞬間、禍々しい腕が俺の肩を掴んだ。
三つ目がさらに真っ赤に充血する。
「どこがいけない!? 一体どこがだ!」
「人工甘味料だ」
俺は解析結果をそのまま見せる。
「人工甘味料の甘さは、砂糖の数百倍。脳を直接バグらせる。そして液体は吸収が早い。固形物の約三倍とも言われてる」
「……」
「つまり、血糖値が一気に跳ね上がる」
魔王が、膝をついた。
「最近、魔力が不安定だった……動物の赤子動画を見ても疲れが抜けなかったのは……」
「過剰摂取だな」
「我が国の政を放置してまで動画を……それも、作られた衝動……」
自覚してるだけ、まだ救いがある。
「君は民の健康を考え、白米を推奨できる人だ。違和感を感じていたなら、無視しちゃいけなかった」
沈黙。
拳が、悔しそうに震えていた。
「……一ヶ月もすれば、飲みたいと思わなくなる」
しばらくして、グラトが顔を上げた。
「城へ来い。見せたいものがある」
嫌な予感がしたが、断る理由もない。
⸻
ギンジャーリ城の裏口から入ると、内部は想像以上に綺麗だった。
白い壁、赤い絨毯。
普通に王城だ。
やがて辿り着いたのは――
『宝物庫』
扉が開かれた瞬間、言葉を失った。
「……段ボール?」
部屋一面、エナドリの箱、箱、箱。
「これを全部、成分解析してほしい」
……うむ、察した。
結果は予想通りだった。
「全部、ドーパミクサーと同類だな」
グラトは箱を見つめ、静かに言った。
「……全部飲み終えてから捨ててもよいか?」
「ダメだ」
「即答っ?!」
重症だ。
「君は比較的健康リテラシーが高い。だからこそ、徹底する」
その時――
ゾネリオのベルトが不気味に点灯した。
「今、依存してるのグラト様だけですよ」
「てめぇが飲ませたんだろうが!!」
アヴルスの炎が燃え上がる。
「ほんと余計なことしかしないわね」
メルミナはリオナの頭を撫でている。
「というわけで」
俺は言った。
「HIITだ。エナドリ断ち込みでな」
魔王に向かい三飽魔が拳を合わせる。
「なぜ祈った?」
「これから起こることへの敬意です」
「む、むう…?」
HIIT前に祈りを捧げるとは素晴らしい改心だ。
「さて……」
ふと気づく。
「ん? セラは?」
いない。
そういえば、城に入ってから、声も聞いていない。
「地下に防音体育館がある。そこなら音を気にせず運動できる」
体育館完備の魔王城って何だ。
「じゃあ、まず先にこいつらの廃棄だな」
「なっ?!」
「退路を断った方が、パフォーマンスは上がる」
「お掃除お掃除〜♪」
リオナが箱の山へ突撃する。
「待て! 丁重に扱え!!」
まるで年末の大掃除だ。
……魔界も、案外普通だな。
そう思った瞬間、なぜか胸がざわついた。
消えたままの女神のことが、
どうしてか頭から離れなかった――。
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