第31話 カミングアウトと出会いは突然に
「『シガリアの怠惰は目に余る。あのように毎日過度な糖質を頬張れば、衰退は避けられぬ』——とは、魔王グラト様のお言葉よ」
健司と対峙していた時のことを思い出す。
あの時、グラトは確かに——敵の体調を、本気で心配していた。
……魔王なのに。
いいヤツというか、もはやお人よしの域だ。
「いや、待て。でも停戦前、魔王軍はシガリアへ進軍してたよな?」
「ああ。この世界に転生した人間が立ちはだかった時のアレね」
「軍勢を動かした理由は?」
「あの時グラト様は、いても立ってもいられなかったのよ。シガリアの堕落っぷりに」
嫌な予感しかしない。
「だから直接、炭水化物との上手い付き合い方を教えに行こうとしてただけ」
……。
魔王、戦う気ゼロだった。
「それにしても、あの時の人間の気迫、すごかったわねぇ。こっちはちょっと健康アドバイスをしに行くだけだったのに」
「取り乱しすぎでしょ、あれ」
誤解とすれ違いが、全力疾走している。
アヴルスが腹を抱えて笑い出した。
「ははは! そしたら今度は、俺たちがSNS依存だぜ? 笑えねぇ!」
三飽魔は揃って爆笑している。
……異世界なのに、イベントの内容が現実世界すぎる。
セラはセラで、その様子を楽しそうに撮影中だ。
やめろ、ドキュメンタリーにするな。
「グラト様、どうしてもシガリアを放っておけないみたいなのよ。募り募ってカリカリしてるのよね」
苛立っているのはそういうことか。
「……ということは、もしかして」
「たぶん、そろそろまた『直接様子を見に行く』って言い出すわ」
冗談じゃない。
そんなことしたら、向こうは確実に「宣戦布告」だと誤解する。
戦う気がなくても、戦争は起きる。
俺の健康のためにも、それだけは阻止したい。
「相変わらずブレないダメ主人公っぷりだね♪」
「嬉しそうに言うな」
「もう諦めて世界を救っちゃいなよ」
反射的に、セラの口を塞いだ。
“YOU”は言わせない。
悔しそうに手を振り回す彼女を制しながら、ふと疑問が浮かぶ。
「……どうして“そろそろ”なんだ?」
グラトに最初に認められた魔族は、メルミナ。
付き合いの長さが違うのか。
「そろそろ——ギンジャーリ城のエナドリの在庫が切れる頃なの」
……今、なんて?
「エナドリって、まさか……」
「そう。魔界じゃビースト系なんて呼ばれてる、なんか元気が出る系のヤツね」
魔王、SNS+エナドリの二重依存だった。
「気持ちは分かるぜ。一回飲んだらハマっちまうんだよな。ありゃあ集中力も回復力も爆上げする、バケモンみてぇな飲み物だ」
「それ、脳がバグってるだけだからな?」
「町で流行り始めた頃、私が勧めたんですよねぇ」
君のせいか、ピエロ。
「ピエロ言うな!!」
だから地の文を読むな!
「なーんだ。シガリアなら、もう救ったよね? サクッと」
「いや、君は寝そべってただけだろ」
「マジか!?」
「あのスイーツ国家を!?」
……ここまで心配される国も珍しい。
「成り行きだ。助けるつもりはなかった」
「たった二人で一国を救うとか、すげぇな!」
アヴルスが、何かに気づいたように拳を打ち鳴らす。
「朗報じゃねぇか! 今すぐグラト様に知らせようぜ!」
「きっと泣いて喜ぶわ」
……聞けば聞くほど、いい魔王だ。
「決まりだ! 城へ行こうぜ!!」
「おい、待て! 話を——」
「後で聞く!」
がっしり掴まれ、抵抗する間もなく引きずられる。
「いぇ〜い! 世界遺産へレッツゴー♪」
この堕女神……。
こうして俺は、強制的にギンジャーリ城へ連行された。
⸻
ギンジャーリ城・正門
黒を基調とした重厚な城。
屋根や門には、金色の角や羽、爪を思わせる装飾が無数に突き出している。
威圧感が、肌を刺す。
ふと横を見ると、入場待ちの行列。
……完全に観光地。
「入館料300ミラです」
「はーい♪」
セラが普通に並んでいた。
「今日は私の奢り! 全員分ね!」
「妙に太っ腹だな」
「失礼な! 同志にいい顔したいわけじゃないんだから!」
——本音。
「それにね」
セラは入場券を扇子のように仰ぐ。
「ペアラSSの支払いで毎月赤字だから、今さら借金増えても平気!」
「聞きたくなかったカミングアウトだ」
「分割なら月々安いし!」
「金融リテラシー、地の底か」
「最悪セージが助けてくれるし♡」
「経済面で頼るな!!」
——その時。
全身に、ぞわりと鳥肌が走る。
空気が凍りつき、誰も息をしなくなった。
正門の脇。
小さな門が、ゆっくりと開く。
黒き双角。
漆黒の翼。
三つ目の赤眼。
——魔王グラト。
視線が、こちらを捉える。
体が、動かない。
「その体——」
殺されるっ…!
目を閉じる。
……。
…………?
ゆっくりと目を開くと、三つ目が至近距離にあった。
頭が混乱でぐちゃぐちゃになる。
その瞬間——
「素晴らしい!!!!!!!!」
……え?
予想外すぎる一言を最後に、俺の意識はふっと闇に落ちた。
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