第30話 楽園とは魔界を指すらしい
かつて魔界らしい陰湿さをまとっていたバズルダムは、すっかり別物になっていた。
暗さは消え、人々の笑い声がそこかしこで弾んでいる。
――もはやテーマパーク。
以前の面影はどこにもなく、町全体が生まれ変わったかのようだ。
まるで、ここが本来あるべき姿だったと言わんばかりに。
「いやいや、ここ魔界だからね?」
「そうだった。忘れてた」
「セージって、結構ドジだよね」
君にだけは言われたくない。
「魔界の形も色々あるってことよ。ね、リオナ」
「そーだよ! 魔界はきれいで賑やかなところなんだよ!」
……受け入れられない。
俺の中の“魔界像”が、音を立てて崩れていく。
「そうだよね! 神も魔族も関係ない! いい人はいい人♪」
理屈としては正しい。
だが、それを堂々と言うのは君じゃない気がする。
――神界チャットが割り込んできた。
記録管理長『ふわぁ……ま、そんなもんだよね』
食材管理長『お菓子と親切は種族を超える! だね〜』
音楽管理長『性格を見るのは心の眼。そう、音楽のように』
……神界がOKなら、もういいか。
「よーし! 元気になったし、もっと配らなくちゃ!」
リオナが、リアクタンス・ノートを満載した荷車に手をかける。
「それはダメだ」
「え?」
「それを配ったら、魔界はまた元に戻る。人を依存させる、とても危険なものだ」
不安げなリオナに、メルミナがやさしく微笑みかけた。
「セージの言う通りよ。それはAFDAという商会が私に渡してきたもの。全部処分しましょう」
AFDA――
目的は分からないが、魔界を混乱させたかったのは確かだ。
子どもを利用するやり口も気に入らない。
放置するには危険すぎる。
「空にした瓶は残しておいてね」
「そこは諦めないんだな……」
そんな時、ふとメルミナが首を傾げた。
「ねえ。ずっと思ってたんだけど……あなたたち、何しに魔界に来たの?」
ドキッ。
まずい。
セラは魔王討伐を狙っているが、俺は――
「おい主人公。可愛いヒロインに罪をなすりつけるなよ」
「見逃してくれ」
「クズ野郎発言っ?!」
セラが前に出る。
「何度も言ってるでしょ! 私は世界を救う覚悟で――」
「俺は観光だ」
「……は?」
「魔界に来たことなかったから、観光」
セラの顔が、みるみる青くなる。
「貴様……本気でこのまま帰る気か!? まだギンジャーリ城を拝んでいないだろう?!」
あ、観光名所なんだ、そこ。
「ちゃんと観光はしたいんだな……」
「んだよ。ギンジャーリ城か。最初に言えよ」
アブルスが鎧の中に手を突っ込む。
武器――!?
身構えた次の瞬間、彼が取り出したのは一枚の紙だった。
「ほら。ここを真っ直ぐ行けば着く」
……パンフレット?
《魔界名物・世界遺産 ギンジャーリ城》
ご丁寧な文字が踊っている。
「へぇ〜! 世界遺産なんだ! 行こうよセージ♪」
「待て。魔王の居城だぞ。いきなり押しかけるのは失礼だろ」
すると、ゾネリオのバックルがピカッと光り、鼻の辺りにデジタル数字が浮かんだ。
「ご安心ください。現在、開園時間中ですので」
……時計機能まであるのか。
「じゃあ、みんなで一緒に行こうよ!」
セラの提案に、アブルスとゾネリオが即座に頷く。
「同志の誘いを断る理由はねぇ!」
「ええ。私も同行します!」
仲良くなりすぎだろ。
「……私は反対ね」
空気を切り裂くように、メルミナが口を開いた。
「今のグラト様は、とても機嫌が悪いわ」
最悪のタイミングじゃないか。
「理由は?」
「SNS依存よ」
「……え?」
「しかも、私たちより重症。視聴専門だけど」
国のトップが一番ヤバいって、どういう状況だ。
「魔獣の子ども特集が大好物。特にケルベロス種」
「……三つ首の、あの?」
「ええ」
濡れた段ボールに捨てられたケルベロス。
三匹の子犬みたいな……ちょっと可愛いかもしれない。
だが、それで苛立つ理由が分からない。
「癒されるだけだろ?」
「そうね。毎日ニマニマしてるわ」
……絵面が怖い。
「じゃあ、なぜシガリアに固執してる?」
「分かる?」
資源、立地、国土――
思い浮かべて答える。
「資源狙いか」
メルミナは、不敵に笑って首を振った。
「シガリア女王」
「まさか――」
「代々受け継がれる、あの国の糖質依存」
……は?
「グラト様はね」
「……」
「シガリアの“健康”を、本気で憂いているのよ」
その一言で、俺の思考は完全に停止した。
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