第18話 見つけたら嬉しい隠れキャラの実力
ケトス山脈の深い森。
虫の声が絶え間なく響き、午後の陽射しは濃い緑の天蓋に遮られている。
踏み出すたびに、鼻をくすぐる青い土の匂い。
——子どもの頃、カブトムシを捕まえに行った夏休みを思い出す。
「セージ! 見て見て! カブトムシ!!」
「うおっ?!」
反射的につかんだのは、差し出されたセラの手。
顔が真っ赤になっている。
「な、なに……? 積極的なのは嫌いじゃないけど……もっとこう、雰囲気とか……!」
「これ、ヘラクレスオオカブトじゃないか!? なんでこんなところに?!」
「ヘラ……? え、えぇ……?」
俺の脳はもう“少年のロマン”でいっぱいだった。
異世界、最高っ!!
「聞こえてんぞ、このクソガキオッサン主人公」
「スンマセン……」
空気を読んでスッと飛び去るヘラクレスがちょっと切ない。
「空振りした私のトキメキ返してよ?」
「何がトキメキだ、女神のくせに」
「神だって恋するんだよ?
てか、相手の了承なくてもどこでもおっ始めたりするし♪」
セラが妖艶に舌舐めずりしてくる。
いや、神話の“恋”の基準を持ち出すな。
「セージってさぁ、歳のわりに身体いいし顔も好みだし、その気になればいつでも襲えるんだからね〜?」
「メインヒロイン(仮)が襲うとか言うな」
「(仮)付けるなし!! メインヒロインはどう見ても私!!」
……これまでメインヒロインらしいことしたっけ?
とはいえ、“夜這い宣言”された以上、今後は寝るときの警戒を強化しなきゃならんな。
夜は神界に戻ると言いながら、絶対戻ってない夜がある気がする。
「はっはっは! お主ら仲が良いな。お似合いの夫婦だ」
「夫婦じゃないわ!!」
って、あれ? 俺だけ…?
まあいい。
それより、シル・ゼンいたの忘れてた……。
俺は気を取り直して尋ねる。
「しかし随分奥まで来たな。この先に住んでる人、本当にいるのか?」
「彼は人里を嫌うのでな。もうすぐだ」
森の勾配を越えると、シル・ゼンが立ち止まり指さした。
「あそこだ」
——小さな小屋。
煙突から細く煙が上っている。
かつて転生したばかりの頃に俺が住んでいた、あの小屋を彷彿とさせる。
「こんなところに何の用だ、ゼン」
振り向いた男は、灰色の長髪を束ね、麻布の羽織を身にまとっていた。
汗をぬぐう腕には浮き上がった血管。
締まり切った筋肉。
年齢は俺より少し上か——。
だが、その身体が語っていた。
——この男、只者じゃない。
そして気づく。
「あれ? セラは?」
姿が見えない。
神界に忘れ物でも取りに戻ったか?
「ケンジ殿が寺院へなかなか来んから、ワシの方から来てしまったわ」
「俺はもう関わらないと言ったはずだ」
「つれないことを言うな。ワシらの仲だろう」
ケンジと呼ばれた男は、露骨に嫌そうな顔をした。
そして俺を見た。
「そちらは?」
「あ、紹介しよう。こちらが青葉聖司殿じゃ」
俺は一歩前に出る。
「青葉聖司と言います。この世界に転生した人間です」
男の表情がわずかに和らいだ。
「……同じ日本人か。俺は藤田健司だ。健司でいい。敬語もいらん」
「じゃあ健司。君も転生者か?」
「そうだ。もう何十年も前だがな」
「ということは、君も……“この世界を救え”と言われた側?」
「まあ、そんなところだ」
そう呟いた健司の瞳は、どこか深い影を落としていた。
しばし沈黙。
だがやがて健司は息を吐き、言った。
「俺は、その使命を全うできなかった。
最強の力を持っていたにも関わらずだ」
“最強の力”という言葉に、空気がわずかに重くなる。
「健司のスキルは?」
「『万器掌握』。
あらゆる“武器”を一度使えばマスターできるスキルだ」
……反則すぎる。
「武器になり得るなら何でもいい。
転がっている石でも、次からは必中の銃弾になる」
健司は足元の石を拾い、大木へ投げつけた。
パァン!!!
木の幹が、丸くくり抜かれて吹き飛んだ。
……チートすぎない?
なのに、その力を持ってしても世界を救えなかった?
魔王グラト、どれだけヤバいんだ。
俺が断ったの、むしろ正解では……?
「差し支えなければ教えて欲しい。なぜ最強でありながら失敗した?」
健司は拳を震わせた。
「……それは——」
その時、空からひらりと舞い降りる影。
「やっぱり引きこもりケンジ〜! 久しぶり〜♪」
セラだった。
「……」
「ちょっと見ない間に老けたね? 一瞬誰かと思った!」
健司の眉間が、さっきの倍の深さで寄る。
「セラと健司、知り合い?」
セラは胸を張り、ドヤ顔。
「当然! 彼の担当は私だったからね!!」
担当だったくせに忘れてたのかよ。
ということは——。
「健司、転生時のスキル……まさか、セラに売りつけられた?」
「……あまりにしつこかったから、彼女の勧めるものにしたんだ」
それが不幸の始まりだったらしい。
「ちょっと! 貧乏神みたいに言わないで! 私はもっと格式高い神なんだから!」
Zランクがよく言う。
だが健司は首を振った。
「セラフィーナは悪くない。
全ては俺の過信が招いた結果だ」
「ケンジ……」
セラが急にしおらしくなる。
健司は小屋へ向かい、扉を開けた。
「中で話す。……続きはそこでだ」
夕日が、彼の背中に長い影を落としていた。
俺たちは、静かにその跡を追ったーーー。
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