第17話 神をも虜にするノルウェー式HIIT
転生当初、ぼろ小屋で作った自作の革グローブを装着する。
手に馴染むこの感触が、スイッチを入れてくれる。
「……ふぅ〜」
深呼吸。
もう一度、深呼吸。
メンタルも身体も、いつも通りだ。
——修道院のみんなの前でだらしない姿は見せられない。
——そして、この極悪女神の鼻っ柱をへし折る絶好の機会でもある。
「確認だが、君は“20セット”って言ったな?」
すると、セラは自信満々に顎を上げた。
「ん? なに? もしかして怖気づいちゃった感じ? かわい〜♪」
……ふっ、その余裕を今から地面に叩き落としてやろう。
皆に見えるように、俺は“4本”の指を立てた。
「4セットだ。1セット終えるたびに3分休憩。——合計4セット」
しん……。
直後。
大広間に、風の音だけが残った。
からの——。
「あははははは!! 4セットって16セットの1/4じゃん!!
しかも休憩3分って、温泉か何かぁ〜!? ぬるすぎて逆に笑う〜!!」
腹を抱えて泣き笑いするセラ。
修行僧たちも困惑して顔を見合わせる。
俺はゆっくり言った。
「……君たちは勘違いしている。俺は“20秒”とは一言も言ってない」
「…………え?」
セラの笑い声が、ちょうどBGMを切ったみたいに止まった。
「ノルウェー式HIIT。
“4分間”の運動を“4セット”。
すなわち——1セット240秒だ」
どよめきが爆発した。
「240秒も動き続けるだと?!」
「に、20秒でも死にかけるのに?!」
「人間じゃない……」
いやいや、人間だ。
ただし、この瞬間のセラの顔は人間の理解力を超えていた。
口半開き、目は点、鼻水が1筋……。
「う、うっそ……! ヤケクソで大きなこと言っただけでしょ!?
いくら健康オタクのセージでも、それは無理だって!」
「神界への配信、忘れるなよ?」
そう言って、俺は深く息を吸い込み、タイマーを起動。
ペアラSSのアラーム——。
『ピッ!』
——そして、俺は宙へ跳んだ。
◆ ◆ ◆
ーーー25分後。
『ピーーー!! お疲れ様でした』
俺はそのまま大の字で倒れ込んだ。
「ハァ……ッ! ハァ……ッ! ハァ……ッ!」
心臓が胸の壁を突き破るのではと思うほど暴れている。
ブランクがあるとやっぱりキツいな……。
沈黙の中、息を整えたシル・ゼンが口を開いた。
「し、信じられぬ……。本当に240秒×4セットを……」
「久しぶりだからパフォーマンスは落ちてたな」
俺はクールダウンしつつ答える。
「それにしても、お主の動きは不思議だ。飛んだり跳ねたり……疾走とは違うようだが」
「ジャンピングバーピーとジャンピングスクワットだ。HIITの中でも最上級の負荷。
それを交互にやってた」
「……試してみたくなったわ」
ワクワクした顔で腕をまくるシル・ゼン。
「いや、無茶するなよ?」
——そして10秒後。
「む、むり……」
地に伏した。
「鍛錬積めばできるようになるさ」
大広間は拍手喝采に包まれた。
「セージ殿は生きる伝説だ!!」
「救世主だ!!」
褒めすぎでは?
だが活気が戻ったならそれで良い。
俺はセラのほうを見る。
「神界にちゃんと中継したか?」
セラは地べたに座り込み、鼻水を垂らしながらペアラSSを差し出した。
食材管理長:『すごーい! セージくん!』
行事統括官:『あはは! バルザロス並みね〜♪』
財務管理室長:『この心肺能力……資産価値ありすぎるわ』
最高評議会会長:『うむ。戦力として合格だ』
……めっちゃ評判いい。
と思ったら。
ペアラSSから淡い光の玉がポンポン飛び出し——
俺の胸に吸い込まれた。
「ぎゃああああーー!! また私のフォロワーがぁぁ!!」
セラが俺にしがみついて、必死に取り戻そうとベタベタ触ってくる。
シル・ゼンたちは気まずそうに頭を掻く。
「男として、あの勇姿を見て心を奪われぬ者はおらん」
……若い女の子に言われたかった。
その時。
「痛っ!?!?」
頬に激痛が走った。
「うわぁぁん!! セージの浮気者ぉーー!!」
待て。
いつ交際した?!
——あ、フォロワーのことね。
年甲斐もなくちょっとドキッとした。
そこへシル・ゼンが深刻な顔で近づいてきた。
「セージ殿」
え。
まさか告白?
いやいやさすがにそれは——。
「お主に会わせたい人がいる」
「……へ?」
妄想が一瞬で雲散霧消した。
「セージ殿なら……彼の心を動かせるかもしれぬ」
隣ではセラが水たまりの上で号泣し、
俺の思考は真っ白なまま。
気づいた時には、
俺たちは“ある人物”を紹介される流れになっていたーーー。
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