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異世界でも健康的ルーティンを!!〜健康生活を徹底していたら、いつの間にか世界が平和になっていた〜  作者: SSS


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第14話 ありがたい霊薬はトレードオフ


シル・ゼンは、よくある瞑想ポーズであぐらをかき、そっと目を閉じた。


俺たちが正座してから、もう結構な時間が経つのに、まったく開ける気配がない。


ほのかに漂うお香の香り。

吹き抜ける風に揺れる蝋燭の火。

ときどき廊下のどこかで軋む木の音。


まるで時間だけが置いていかれたみたいな静けさだ。


なるほどな。


これはきっと、瞑想——いわゆるマインドフルネスってやつか。


マインドフルネスは「今、この瞬間」に意識を向けるための、心のトレーニング。

たぶん自分の鍛錬も兼ねて、俺たちに“器”があるかどうか試しているつもりなんだろう。


それなら、付き合うまでだ。


正座を崩し、シル・ゼンと同じようにあぐらを組む。


ゆっくりと、目を閉じる。


扉の隙間から入り込む風が、笛みたいな音を立てて通り過ぎる。


風に運ばれてくる土と木の匂い。

ひんやりとした床の感触。

蝋燭の火が、肌の表面をそっと撫でていくような温度。


吸う息で肺が膨らみ、吐く息で肩が落ちていく。


それら全部が、ゆるやかに溶け合い、ひとつの塊になっていくような——不思議な一体感。


やがて、暗闇の奥に、ふわりと光景が浮かんだ。


『いつも、ごめんね』


……母さん。


振り返った彼女の、丸くて柔らかいほっぺた。

向日葵みたいな笑顔が、まっすぐこっちを向いている。


『前、見てないと危ないぞ』


ぶっきらぼうに言いながら、車椅子を押す俺。


『苦労かけてるよね。私が倒れたりしたから』


『そういうのはいい。過ぎたことを言っても仕方ないだろ』


『あはは。そうだよね』


なんてことない一場面。


まだ母さんが生きていた頃の、ありふれた日常の記憶。


どうして、今、これを思い出すんだろう。


………。


……少し、感情に持っていかれたか。


ゆっくりと目を開けると、シル・ゼンはまだ瞑想を続けていた。


「……ふぅ。まだまだだな」


思わず、小さく吐き出す。


少し遅れて、シル・ゼンも瞳を開いた。


さっきよりもさらにギラついた、充血気味の目。


そのまま、ガバッと立ち上がる。


「——例のものを持ってまいれ!!」


張りのある声が大広間に響いた。


次の瞬間、修行僧たちがドタドタと駆け込んでくる。


号令を待っていたかのような機敏さだな。


「こちらを」


一人の修行僧が、両手で包み込むように湯呑みを差し出した。


中には、真っ黒な液体。

立ち上る湯気と、どこかで嗅いだことのある香り。


……この匂い、まさか——。


シル・ゼンは迷いなく、その黒い液体を一気に飲み干した。


「キタキタキタァーーーー!!! 力が漲ってくるわぁ!!」


「…………」


普通に怖いんだが。


「これでまた、試練に臨むことができる!!」


テンションが炎のように立ち上っている。


さっきまでの枯れた僧侶はどこへ行った。


シル・ゼンはどこか爽やかな表情になって、再びどかっと座り直した。


「今のは……何だ?」


「あれは『魂融の(だく)』。

 一度口にすれば、凄まじい集中力を引き出す。

 ワシが試行に試行を重ねた、奇跡の結晶よ」


その割に、さっきまで怠そうだったけどな。


「霊薬は五段階に分かれておる。段階が上がるほど、その不可も跳ね上がる。

 『魂融の濁』は、四段階目にあたるのだ」


そう言うと、また勢いよく立ち上がり、壁に貼られた紙を指さした。


「見よ! これが律命修道院に伝わる霊薬と、その啓示である!!」


【第一霊薬】黎明の(しずく)

 ──飲めば夜明けまで瞑想できるが、胃がもたれる。


【第二霊薬】覚醒の(ほのお)

 ──一晩中修行に没頭できる。ただし翌朝、目が血走る。


【第三霊薬】神眼の(きり)

 ──集中力が増すが、幻覚を見やすくなる。


【第四霊薬】魂融の(だく)

 ──確かに効くが、依存性が極めて高い。


【第五霊薬】名なしの啓示

 ──まだ見ぬ霊薬。されど信徒は、その到来を待ち続ける……。


……この世界、やたら筆文字推しだな。


ていうか説明文が直球すぎないか? 特に第四。


「霊薬は、劇薬に等しい。

 見ての通り、その負荷の強さを段階別に分けておるのだ」


中二心をくすぐる名前といい、説明といい、変なところで正直だ。


「第五の霊薬には、どうして名前がないんだ?」


「まだ誰も拝んだことのない、“幻の霊薬”だからだ。

 第五の霊薬を見つけ、我らの血肉と融合させる——。

 これこそが、我ら最大の試練!」


拝んだこともないのに、存在を確信しているのか。


この団体、大丈夫か本当に。


「お主たちは、我らの“質の高い健康作法”を学ぶために来たのだろう? だがな……」


健康“作法”って言い切るの、なかなか強気だな。


「……ここ数年、僧たちに覇気がないように感じるのだ。

 ある時は破竹の勢いで鍛錬に臨むのだが、その反動か、集中力が切れるのも早い」


集中力の激しいアップダウン。


それはもう、あれしかないだろう。


「かく言うワシ自身も、著しいパフォーマンスの低下を感じておる。

 皆が鍛錬に集中できるよう、定期的に霊薬を賜る試練を課してきたのだが……その頻度を上げざるを得ないほど、精神がもたなくなってきておるのだ」


シル・ゼンは、その場に片膝をついた。


「……あまりにも負荷が大きすぎた、ということか。

 我ながら、ストイックになりすぎたようだ」


ちょいちょい横文字挟むの、気になるなこの人。


だが、話はだいたい見えた。


修行僧たちのやつれ具合。

さっきの黒い液体の匂い。

シル・ゼンの目の充血。

さっきまでの咳、疲弊感。


全部つながる。


体組織成分解析(アナリシス)』——発動。


シル・ゼン(人間・修道僧・58歳)


種族    : 人間(持久力特化体質)

身長    : 179cm

体重    : 63kg

体脂肪率  : 6%(除脂肪体重優勢)

性格    : 無表情/ストイック/自己抑制強め/内向的/偏執的探求心

健康状態  : 慢性的睡眠不足/眼下クマ顕著/カフェイン代謝過多による交感神経亢進

ルーティン適正: 瞑想・断食◎/低刺激運動〇/睡眠改善×(カフェイン依存が妨害要因)

備考    : 筋肉量は標準を上回るが、回復が追いつかず慢性疲労傾向。

       血中カフェイン濃度は常時高値で、離脱時に強い倦怠感と頭痛を示す。


やっぱりか。


この霊薬、どう見ても“ありがたい霊薬”というより、

「カフェイン全振りドリンク(濃縮)」だ。


僧たちのパフォーマンス低下は、ほぼ間違いなくこれが原因だろう。


「君たちが、集中力を維持できず、疲れが取れない理由は分かる」


「なんと……この症状が分かるというのか?」


「ああ。

 俺も、生前は似たような状態に陥ったことがあってな」


夜ふかしとカフェイン頼りの悪習慣。

あの“変なシャキシャキ感”と、その後のどっと来る倦怠感。


一度ハマると抜けるのが大変な、あの感覚だ。


シル・ゼンは、ギラついた目をさらに見開き、にじり寄ってきた。


「頼む! 我らを助けてはくれぬか?!」


う……。


また、嫌な予感が。


「この通りだ!」


両手を合わせ、床に頭が付きそうな勢いで下げる大貫首。


目は血走っているのに、その奥には確かな必死さが見えた。


全力で間違った方向にストイックなだけで、根は真面目なんだろう。


……やれやれ。


「分かった。ただし——俺の言うことを、盲信はするなよ。

 個人差もあるし、万能薬じゃない」


「おおお!! 話が分かる!! さすが我が同志……ゴホッ、ゴホッ!!」


いつも肝心なところで咳き込むな、この人。


……ん?


これ、立場逆転してないか?


本来は「健康ノウハウを学びに来た訪問者」だったはずが、

気づけば「カフェイン依存修道院の相談役」みたいになっている。


目的がじわじわとズレていく感覚に、俺は深いため息をつくのだったーーー。

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