第11話 契約書と血糖値の乱高下には要注意
シガレット城・城門前ーーー。
「ここでいい。世話になった」
「そ、その……。気をつけて行きなさいよ。ちゃんとご飯、食べるのよ?」
「ああ。ミトコンドリアがサボらない程度にはな」
住めば都とはよく言ったものだ。
なんだかんだで長く滞在してしまったが、振り返れば悪くない日々だった。
エクレールが、少し照れながら口を開く。
「私ね、セージには本当に感謝してるの。
太ってて、髪も肌もガサガサで、情緒も不安定で……どうしようもなかった私を、あなたは救ってくれた。
王国まで立て直してくれて……だから──」
「その気持ちだけで十分だよ。
俺は君のサポートをしただけだ。
乗り越えたのは、全部君自身の力だ」
「セージ……」
その時ーー、
「は〜いロマンチック終了〜! そろそろ出発しよ!」
セラが、ズイッと二人の間に割り込んできた。
「神界の条約が厳しいんだろ。寝そべりに戻らなくていいのか?」
「いや〜こっちの姿のほうがPV伸びそうだし。
どうせ条約もガバガバでしょ。ダラハラだし」
温度感が謎だ。
条約って何なんだ。
エクレールが、ここでセラに向き直る。
「次に会うときまでに── 四分完走しなさいよ、セラ」
「はあ!? なんで私なの!?」
「当然でしょ。あなた、配信してるくせに現場で一番体力ないんだから」
ぐうの音も出ない正論だった。
「そしたら……私をフォローしてくれる?」
セラが必死に食い下がる。
エクレールは肩をすくめた。
「考えておくわ」
「考えておくって何よ!? そこは“する”でしょ普通!」
その横で俺は思わずふっと笑ってしまう。
セラにフォロワーがつく日は……やはりまだ遠い。
「私、この国をアスファレイア最大の健康大国にしてみせるわ!」
「その頃には、俺が君のメニューをこなす羽目になりそうだな」
重く閉まる城門の音を背に、俺たちはシガリア王国を後にしたーーー。
***
シガリア王国はアスファレイア最北の国。
俺たちは南へ向かい、律命修道院を目指して歩いていた。
セラによると、修道院周辺に生えている草は万能薬として重宝されるらしい。
医療薬品のないこの世界では、薬の価値は高い。
自然由来のものなら体への負担も少ないだろう。
「ハロ〜神界のみなさん♪
『Zランクだけど心はSランク♡』配信を始めまーす!」
よく飽きないものだ。
こんな活動で本当に神界ランクが上がるのだろうか。
……それより地図だ。
俺は、セラが描いてくれた(?)“地図”を広げる。
左端の細長いギザギザ──おそらくケトス山脈。
だが途中で諦めたのか、ぐちゃぐちゃに塗りつぶし、
『ここらへん山!』
と書かれている。
右のふわふわした雲みたいなのは滅亡寸前と噂されるトーフ帝国。
そして下の黒いトゲトゲ大陸がジャンクゾール魔界域。
その中央には城と、角の生えた妙にリアルな悪魔の顔。
……この落書きを解読できた俺を褒めてほしい。
「分かりやすい地図でしょ? 自信作よ!」
いや、逆方向にすごい。
セラは続けて言う。
「ところでさ、どうしてシガリア王国を出たの?
あそこなら衣食住も整ってるし、ギルドも軍もあって、世界救うには最適じゃない?」
「世界は救わないと言ってるだろ。
俺は、健康が第一だ」
「でもさ〜、結果的に王国救ったよね?」
「たまたまだよ。もともと食料を調達したかっただけだ」
本音を言うなら──
エクレールの生活水準が高すぎて、逆に落ち着かなかったのも大きい。
高級食に慣れると、普通の飯が味気なくなる。
習慣を構築するには時間が必要だが、失うのは一瞬だ。
生活水準も同じだ。
「ところでセージ。歩き疲れてきたでしょ?」
「なんだよ急に」
「じゃーん♪」
セラが新品のウォーキングシューズを取り出した。
タグがついたままだ。
「転生する時、生活しやすいように色々準備してたんだ。
もしよかったら使ってみない?」
「準備、ねぇ……」
タグに書かれた注意書きを読む。
『※本製品を一度でも着用した場合、着用者は提供者(以下「セラフィーナ」と称す)の指示に誠実かつ速やかに従うものとし、拒否した場合、魂は異世界より即時抹消、または神界監獄へ強制送還されるものとする』
「…………遠慮しておく」
「なんでよ!!」
「こんな物騒な契約書つきのシューズを誰が履くんだよ」
「だって〜、こうでもしないとお願い聞いてくれないじゃん!」
お願い=世界救済。
俺には荷が重すぎる。
口論しているうちに、道端に倒れている誰かが見えた。
黒いマント。
黒紫の髪。
褐色の肌。
胸には黒曜石のペンダント。
「人間……じゃないな」
また脳内に正解音。
『正解! 魔族の子だね〜』
魔王グラト率いる種族。
諸悪の根源と恐れられる存在。
「魔族は夜行性だ。睡眠を妨げるのは健康に悪い。行くぞ」
通り過ぎようとした瞬間、
「待てーい!!」
少女が突然起き上がった。
「こんな衰弱した少女を放っていくとは! この悪魔め!!」
「寝てたんじゃないのか」
「寝るわけないでしょ! 背中痛いし!!」
確かに、この地面は身体によろしくない。
「力出ないの! お腹すいたの! 限界なの!!」
地面を踏みしめるたび、ひびが入る。
「お、落ち着け! 崩落する!!」
少女はその場でバタッと倒れた。
「む、無理……」
ただの空腹ではないな。
『体組織成分解析』を発動する。
リオナ(魔族・元貴族令嬢・140歳)
•種族 : 魔族(高位貴族血統/高感応体質)
•スリーサイズ: B72 / W54 / H76
•身長 : 148cm
•体重 : 40kg
•体脂肪率 : 17%(やや低め)
•性格 : 人懐っこい/好奇心旺盛/慎重さと打算あり/家族思い
•健康状態 : 軽度の糖質依存(AFDA製品摂取歴あり)/高GI値食品及び魔糖素残留成分検知/鉄分・亜鉛不足傾向/持久力やや低め
•ルーティン適正: 低〜中程度(運動習慣なし/改善余地大)
•備考 : BMIは18.2で正常範囲だが、筋肉量の増加が望ましい。インスリン大量分泌の形跡がある。
魔糖素……エクレールの時と同じだ。
セラが覗き込む。
「ねね、GI値って何?」
「Glycemic Index。食品が食後の血糖値をどれだけ上げるかの指標だ」
「へ〜……で、血糖値が上がると?」
「高GI食品を一気に食べると、血糖値が急上昇して、
それを下げようとインスリンが大量に出て、
今度は急降下する。
体はエネルギー切れだと勘違いして、力が抜ける。
ちょうど、この子みたいにな」
「血糖値の乱高下、ってやつね」
その通りだ。
「まだ日も高い。木陰に運んでやろう」
俺は少女を抱え、木陰へ移動する。
意図せず拾った魔族の少女。
のちに彼女が、俺の運命に深く関わることになるとは──
この時は、まだ想像もしていなかったーーー。
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