6.攻略対象との遭遇
遅くなりました。お楽しみください。
何と驚くことに、私はレオン様を好きなのであろう女生徒に、出会い頭から悪口を吹っ掛けられている。
「ほんと、貴女みたいな厄介な女のせいでレオンハルト殿下がどれだけお困りになっているか...。」
「あの、私別に.........。」
「言い訳は結構よっ!――それで、貴女はどこの誰なのかしら?見たことのない顔だけれど.........あら。紫の、髪.....?」
「わ、私は......ヴィオラ・ヴァレンティアよ。」
「ヴィオラ......ヴァレンティア、ですって?」
有り得ない、と呟いたご令嬢はぺたりと床に座り込んでしまった。よく回る口だと思っていたが、戦意喪失したかのように一言も発さず......正確には、一言も発せず。顔は青ざめてしまって、私は戦わずして勝つ状態に。
この、貴女は誰?からのヴィオラ・ヴァレンティアです。という質問、今日だけで2回目である。周りの生徒たちのどよめきからも、また気づいて貰えていなかったらしい。
そんなに違う?と疑問にも思うけれど、確かに髪は女の命、化粧は女の武器、と言うくらい2つとも女性にとっては大事なもの。これくらい影響があってもおかしくない......のだろう。
そして私に絡んできた女生徒が青ざめているのは、私の爵位のせい。公爵家という大きな威光を持つ私に、あろうことかため口で大口を叩いてしまったのだから、こうなるのも仕方がない。高位貴族は容赦ない人もいるし、実際ヴィオラは最近までその部類だった。下手をしたら爵位を剥奪されるなんてこともなくはない。
しかし、私はそんな事をしたくない。貴族的には、自分の持つ爵位なりの態度をしっかりと持つことを大事としているけれど、ここは学園の中。表面的でも、平等を謳うこの学園で爵位うんぬんを持ち出すのは忍びない。
(何か、穏便に解決する方法は......そうだわ。)
「――あの。」
「っも、申し訳ございませんでした。わたくし、ヴィオラ様だとはつゆ知らず、失礼な態度を......。この通り、土下座でも何でもいたしますので、どうか...どうか、お許しください。」
「土下座なんて......いらない、わ。」
「ど、土下座では足りないでしょうか?でしたら、ヴィオラ様の小間使いにでも――。」
女生徒は、地面に擦り付けていた頭を上げて、驚くような提案をしてきた。彼女の先程の態度を見るに、ある程度の爵位は持ち合わせているはず。それでいて、誰かの小間使いを申し出るというのは、プライドが傷つく行為だ。
後悔するなら、最初からしなければよかったのに。そう思う部分もあるが、レオン様は確かにかっこいい。彼の虜になって、若干理性がおかしくなるのも分かる。うん、分かるわ。
私も彼の虜になっている一人として、彼女の気持ちを汲み取った対応をしたい。けれど、公爵家の一員として、必要な事もある。
「貴女は......貴族、という立場を...考えて行動、すべきよ。――私も、同じくらい....彼が、好き。だから今回は、知らなかったことに...するわ。」
「――でも、」
「授業が...始まるわ。教室に、戻りましょう。」
彼女に何かを言わせる前に、私は立ち去った。信じられない、とか、本当にヴィオラ様なの?、とかあちこちから視線を受けて......やはり、耐えきれなくなって逃げた。
注目を集めていたことは分かった。特に、私がヴィオラだと名乗ってからは凄い。一気に周りの好奇心が集中していたのは火を見るよりも明らかだった。
彼女の言葉を遮ったのも、そろそろ限界がきそうだったから。埒が明かないと思ったのも理由の一つだけど。動悸がしてきて、その場に立っていられる気がしなかった。
「――また、逃げちゃった。」
「いやぁ、すっげぇ走りだったな。」
「っな、なに!?」
「ぶっ、...はは、そんな驚くことかよ?見慣れた顔だろ?」
はー、おっかしい、と笑い転げている、突然現れた彼の顔には見覚えがある。
「カルロ・ダラソン.......。」
「おー、なんだ?俺ら、フルネームで呼び合うような間柄じゃなかっただろ?」
アルカディア帝国の歴代近衛騎士団を率いるダラソン公爵家嫡男。それが彼の肩書だ。ヴィオラとは仲良し――ではなく、カルロが一方的にヴィオラに付き纏っていたのだ。恋愛的な意味ではなく、からかいの対象だったというか......おもちゃみたいな。
プライドの高いヴィオラは当然彼を疎ましく思って遠ざけようとするけれど、カルロも中々手強く、結局放置するという結論に至っていた。
大分ひどい扱いをされていたカルロだけど、実はヴィオラが処刑される時に反対の声を上げてくれた数少ない人のうちの一人でもある。特に二人の間に情があったわけでもないのに、何故か彼は親身になってくれていた。
そして一番大事なのは、彼が攻略対象の一人である、ということだ。『君に捧ぐ王冠』の攻略対象でヴィオラを疎ましく思っていなかったのは彼だけ。掲示板でも、どうして彼はヴィオラに良くするのかという議題が上がるくらいには不思議な事だった。
カルロが心優しい人だから、とか。そういうコメントも見受けられたけれど......。『君に捧ぐ王冠』の作者は登場人物の設定が細かく複雑であることが有名な小説家でもあるため、そんな単純な理由ではないとファンの間ではもっぱら噂だ。
(彼はやはり、ゲーム通りみたいね。)
人懐っこそうな笑顔を浮かべるカルロを見て思った。
「さっきのアレ、人が違うみたいだったな!いつもなら癇癪を起こして相手の子を殴り飛ばすだろ?謹慎明けだから大人しくしてるのか?」
「そ、そんなところ。」
「そうかー。」
何だろう。
私は少し違和感を感じた。
人懐っこい笑顔。彼のチャームポイントであり、ゲームに登場する彼はいつだってこの笑顔を浮かべていた。爽やかで、温かみのある笑顔だと――思っていたけど。
何故か今は、底知れぬものを感じ取ってしまう。何か、彼は違う。
怖い。そう思ってしまった。
(逃げよう。)
「わ、たし。用事があって、」
「ん?はは、用事かー。公爵令嬢サマは忙しいもんな。でも俺、お前に用があるんだよ。」
決して痛くはない。けれど絶対に話さないという意思を感じる力で、私の手首が掴まれる。
「離、して!」
「なぁ。俺、不思議なんだよ。ついこの前までのお前と今のお前、魔力の流れが全然違うんだ。今のお前からは、違うモノを感じる。」
「何の、話だか――。」
「とぼけても無駄だ。お前、ヴィオラじゃないだろ。ヴィオラに見せかけた何か――――お前、何者だ?」
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