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2.新世界


『おばあちゃん、これ、なあに?』




私は、たんすの奥にしまってあった箱からペンダントを取り出して、おばあちゃんに見せた。




『これはね、私の宝物なのよ。』



『たからもの?』



『そう、宝物。とっても大切なものって事よ。』



『じゃあ、みさのたからものは、おばあちゃんだよ!みさ、おばあちゃんがいちばんたいせつなの!』




私は昔からおばあちゃんっ子で、家が近いから暇があればしょっちゅうおばあちゃんの家にお邪魔していた。近所の子どもたちと遊ぶよりも、私はおばあちゃんと一緒に居たかったから。




『あらあら。』




私もみさちゃんが宝物よ。と微笑むおばあちゃん。ああやって過ごした日々は、私にとって宝物だった。




『みさちゃんは、みさちゃんのままでいいのよ。』




おばあちゃん、そんなこと言っても私、もう死んで......って、




「っ!」




はっとして体を起こすと、私は見知らぬ部屋の中にいた。病室か...とも思ったけど、周りを見渡す限り派手に装飾がつけられすぎていて、とても病室には見えない。



(私、死んじゃったと思ったんだけど......。)



どうやら死んでいなかったらしい。



手で握りこぶしを作ることもできるし、頬を抓っても痛い。立ち上がっても痛みを感じないので、どうやら怪我はしていないようだ。



あんなに体調が悪かったのに、こんなに回復するのだから人間の体というのは凄いものだ。嘘のようにぴんぴんしている。



(ただ、心なしか体が軽くなったように感じるのよね。)



私はストレスを感じると暴飲暴食に走るきらいがあったので、しっかりお腹に贅肉が付いていたはず。ずっと椅子に座ってパソコンとにらめっこの状態だったからまともに運動もしていない。それなのに、どうしてこんなにお腹周りがスッキリしているんだろう。



それに、まだまだおかしな点はある。指が心なしかすらりと細くなっているし、肌も過労や睡眠不足など知りませんとでもいうかのような健康できめ細やかな肌に進化している。



そういえば、足も細くなっているような?運動不足まるわかりの肉厚太ももは一体どこへ。




「んー......全ては倒れたことで解決したのかしら?倒れて強制的に眠っていたから痩せて、健康的になったとか。いやでもこの肌はきちんと手入れされているような...。」




鏡、鏡と辺りをうろついていると、大きなドレッサーを見つけた。鏡には埃ひとつついていないし、持ち主は相当綺麗好きなことが伺える。




「すみません、ちょっと椅子をお借りします。」




誰かもわからない持ち主に謝り、無駄に派手な椅子に座る。そして鏡を見ると......




「え、あ、ど、どなた?」




知らない人が映っていた。しかも、私が動くと同じ動きをする。



――分かっている。そう、このアメジストのような輝く紫紺の髪とハニーブロンドの瞳をもつ少女が私だということは。



しかし、驚くのも無理はない。気絶して起きたら知らない少女になっていました......なんて、ベタな小説の導入そのままじゃない!テンプレすぎて逆に飽きられている筋書きまであるわよ。




「な、なんてこと...わ、私、異世界転生しちゃったの...?」




ベタな台詞過ぎると思った貴女。ええ、私も思ってるわよ。その台詞はもう聞き飽きたってね。でも言わせてほしい。私、異世界転生してしまったみたい。



しかも、『君に捧ぐ王冠』の世界に。











★★★




(はぁ。どうしてこんなことに。)



私の目の前には老いた医者と、若い侍女がいた。




「お嬢様、お気を確かに!――お医者様、お嬢様は確実にご病気でいらっしゃいます。見てください、こんなにお嬢様が大人しい事なんて....ご病気じゃなかったら天変地異でも起こる前兆に決まっています!」



「わ、わかっとるわい。でもなあ、おかしいところなんて一つもありゃせんのだよ。」



「そんなはずは...。」



「この屋敷で20年医者をやっとる儂が言うんだから間違いない。お嬢様が生まれる前からここにいるんだからな。」




納得できない様子の侍女の肩に手を置いて、何事もなかったようで良かったわい、という言葉と共に医者は足早に去っていった。診察している時に何故かつるぴかの頭に冷や汗をかいていたから、お腹でも下したのかもしれない。



そもそもどうしてこんな事になったかと言えば、少し前に遡る。



無事異世界転生(?)を果たした私は、名前も知らないこの少女の情報をかき集めようと部屋の外へでた。そこで丁度侍女と鉢合わせをしたので、話しかけようとして......土下座された。




『すすすすすみません!お嬢様の気に障るような事を何かしてしまったでしょうか!?ああ、視界に入ったのがお気に召さなかったとか!?すみません、もう二度とこのような事はないようにしますので、どうか家族だけは...なにとぞ...なにとぞ...!』




と、いう具合に。どうやらこの少女は恐るべき存在だったようだとそこで自覚した。周りにいた侍女たちも憐みの視線をその侍女に向けていたし、こういうことは日常茶飯事だったのだろう。



しかし、私は知っている。悪いことをした人間には、それ相応の罰が返ってくる。因果応報というやつだ。だから私は、この肉体の持ち主のような横暴な振る舞いはせず、態度を改めたように振舞おうと考えた。良い事をして、悪い事なんて一つもないから。



そう、思ったのに。




『大丈夫?そ、そんな地面に...頭をこすったら、痛いでしょう?』



『ふえええっ!?お、お嬢様...申し訳ございません、仰っている意味が分からないのですが..........はっ、もしや、もっと頭を擦り付けろということでしょうか!?すみません、私が愚かでした!』



『え、いや、ええと、そう言う事じゃなくて...』



説明するのも億劫だったので、取り敢えず彼女の手を取って立たせたら、血相を変えて飛び出して行って、さっきの有様になったわけだ。あれだけ怯えられる前の持ち主は、どれだけ恐ろしい人だったのだろうか。考えるだけで寒気がする。



そして、何よりもっと寒気がすることと言えば...私が、()()()()()()かもしれない、ということだ。最も転生先としては避けたいところだったんだけど....。



大体、嫌な予感と言うものは的中してしまうもので。




「お嬢様のお名前ですか?......なるほど。」



「なるほど?それ、名前?」



「いえ、お嬢様はですね、このアルカディア帝国一の美貌を持ち、帝国内の平民から高位貴族まであらゆる男性をも魅了し跪かせるいわや傾国の美女とでも言いましょうか。宝石のように輝く御髪と顔の小ささには似合わない大きな瞳を...ああ、違いました。大きなハニーブロンドの輝くような瞳を...」



「え、っと...褒めてほしいんじゃ、なくて。」



「ええっ!?違うのですか?」



「普通に、名前を......教えて欲しくて。」



「そ、そうでしたか......いやはや、長々と失礼しました。お嬢様のフルネームと言うことで宜しいんですよね?お嬢様のフルネームでしたら、ヴィオラ・ヴァレンティア公爵令嬢様ということになります。」



「ヴィオラ・ヴァレンティア......やっぱり。」



「やっぱりも何も、それ以外に一体どんな名前があると...?」



「私の人生は、終わりだわ。」




これで、私の運命は決まった。私の未来はお先真っ暗で、一寸の光もなくただ闇の底に消えていくの。だってまさか、()()ヴィオラ・ヴァレンティアに本当になってしまうなんて...。




「お、お嬢様!?お気を確かに!」




ばたっと倒れこんだ私を親切に答えてくれた侍女が支えてくれる。この子、変なところはあるけれど根は素直で優しい子なのよね。実際、ヴィオラにこんなに親切にしてくれるんだから。ヴィオラと言えば、”帝国一の美女”という名とともに、”帝国一の悪女”という二つ名も持ち合わせているような女性なのだ。



『貴女、わたくしを差し置いてレオン様と親しくなさるなんて、恥を知りなさい!わたくしは貴女のような毛虫に毛が生えた程度の爵位しか持たない凡人と違って、貴女のような人間には手の届かないところにいる公爵令嬢なのだから!』



ヒロインがどのルートに進んでも二人の仲を引き裂く悪役として登場するヴィオラ・ヴァレンティアは根っからの悪人で、自分の欲しいもの・やりたい事は何としてでも手に入れる、もしくはやり遂げる人だった。――たとえそれが、非人道的な行為であったとしても。



まぁ、その非人道的な行為が引き金になって最終的に処刑されてしまうのが彼女の運命なのだけど。罪状は様々だが、私の推し、レオン様のルートでは、アルカディア帝国に恨みを持った他国にヴィオラは帝国の秘匿情報などを漏らして斬首刑となった。



あのシーンを画面越しに見ている分にはスカッとしたけど、実際に自分が首を切られるかもしれない状況になっている身としては、たまったもんじゃない。しかもヴィオラはもう学園に入学していて、その悪名は帝国各地に広まっているという。着々と斬首刑が近づいているようで恐ろしい。




「ど、どうすれば......。」



「――あ、あの。何かお困りですか?私なんかにお話しされるのは嫌かもしれませんが...お力になれたらいいな、と。」




恐る恐る助力を申し出てくれた侍女は、かすかに震えていた。下手をしたら体罰になるかもしれないのに、こうやって主人のために動いてくれる侍女は少ないだろう。こんな悪女の元に仕えるより、もっと良い主人がいるはずなのに。




「あ、ありがとう。――で、でもこれは、私の問題、だから。今は一人に、なりたい。」



「――――そ、そうですか。すみません、出過ぎた真似を......私、出ていきますね。」




申し訳なさそうに部屋を出ていく彼女を見ていると、胸が締め付けられるような思いがした。せっかく助けてくれようとしたのに、部屋を出ていってほしいと言うなんて...嫌な奴よね。

それでも私は、一人で整理する時間が欲しかった。知っている世界と言っても、これからどうすれば良いのか落ち着いて考える時間が無かったから。



(これから...どうしたら良いんだろう。)



剣と魔法の世界に突然放り出された異世界人。魔法なんて使い方も分からないし、ここでの常識はせいぜいゲームで知りえた事くらいしかない。性格も真逆なのに、私はどうやってヴィオラとして生きていけば......。



確か、家族との仲も最悪で、家の中では煙たがられていたというシーンがあったはずだ。外でも嫌われて、身内にも嫌われるのは流石の彼女も辛かったのではないだろうか。――と、思ったが、ヴィオラは結構頭がパッパラパ...ではなく、面白い頭の構造をしていたのでそんな事はないかと思い直した。



周りに嫌われたくらいで落ち込む彼女じゃない。



そんなヴィオラになりきって過ごすのは、生半可なことではないだろう。まず流暢に喋ることすらできないし、誰かに堂々と悪口を言えるような強気な女じゃない。明らかに向いていない。



ヒロインが攻略対象の誰かと上手くいくのを阻んだら、自動的に悪役令嬢として認識され、斬首刑になったりするんじゃないだろうか。



――そう考えると、疑われても良いから改心したとか適当な理由をつけて、私らしく社会の隅っこで生きていくのが良いかもしれない。誰の邪魔もせず、ストレスを感じることもない、穏やかな生活ができる。それにせっかく『君に捧ぐ王冠』の世界にこれたのだから、学園にいる間だけでもヒロインと攻略対象の恋の行方を見守るのも良い。



(そうよ、レオン様もいる世界なんだから。本物のレオン様を、間近で見られる。)



悪い事ばかりじゃないことに気づくと、心が楽になる。最初は周りから嫌われていても、しばらく大人しくしていればきっと、無害な存在として気にも留められないはずだ。




「公爵令嬢だし、お金はある。卒業したら、万が一のことがあったらいけないようだし、ここから出ていくのよ。それまでにお金を貯めて、平穏に過ごすの。......って言っても、そう上手くいくかしら。」



自分でも雑な計画だと思う。お金はあるっていったって、そのお金は公爵家のお金。私が自由に使えるお金は限られているだろう。もっとも、散財三昧のヴィオラに多額のお金を渡すとは思えないし。ここを出て行ったって行く先の当てはないし。



「んー......前途多難だわ。」



「何がだよ?」



「ひょえっ」




後ろを振り向くといたのは、ゲームでよく見た攻略対象だった。ヴィオラと同じアメジスト色の髪の毛に、父親譲りの緑色の瞳を持つ兄、エドガーだ。




読んでいただきありがとうございます。面白かったら是非、いいね・ブックマークをお願いします。

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