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1.始まり

こんにちは。こちら「帝国一の悪役令嬢が捧げる愛」を登場人物の名前以外全て修正した作品になっております。なんか見た事ある名前だぞ、と混乱を招いてしまったらすみません。

是非、ご愛読いただけるとありがたいです。


「おい、佐藤。これもやっとけ。」



「は、はい。――って、これ、」



「お前に渡したんだから、これはお前の仕事な。明日までだから今日中に終わらせとけよ。」




ま、終わるか知らねーけど。とケタケタ笑って去っていく篠原部長を見て、心の中にもやもやしたものが浮かんでくる。

これ、私の仕事じゃないです、という言葉がでかけてつっかえてしまったのは私がきっと弱いからだ。

そう自分に言い聞かせたのは一回何回目だろう。自分が気弱なことを言い訳にして面倒ごとを避けてきたのは他でもない自分なのに。



しかし、嘆いていても仕方がない。明日までの業務なら、早く手を付けないと。


必死に手を動かしながら、この日々はいつまで続くのだろうと考えてしまう。



「――終わるはず、ないのに。」



「そうよねぇ、そんな量終わるはずないわ。可哀想。」




そういう意味で言ったわけでは無かったけど、どうやら私はデスクが隣の桜田さんに憐れまれているようだ。桜田さんは私がああやっていびられる度に、可哀想だの大変そうだの声をかけてはくれるが、助けてくれたことは一度もない。

何なら彼女は部長のお気に入りで、彼女に割り当てられるはずの仕事を私に回されることもあるのだ。




「.........あなたって、いつもそうよね。こんな理不尽な状況なのに、黙ってるだけ。文句の一つや二つ、言えないわけ?」



「あ、いや、えっと、」



「――はぁ。もう良いわ、邪魔してごめんなさいね。」




憐みの言葉以外をかけられたことが無かったから、動揺してまともなことが言えなかった。気にする.......ことはきっと無いだろうけど。



(昔から、どうして私はこんなに気弱なのかしら。)



動かし続けた手を止めて、つい考えてしまう。私は昔から、こんな風にずっとおどおどして、何も言い返せなかった。




『い...いたい...っ、やめてっ...』



『なぁ、美咲。これはお前のせいんだよ。お前が良い高校に受からなかったのが悪いんだ。』



『や、めて.......お、おかあさん、助け......』



『全く、お父さんの言う通りよ。私たちがどれだけ貴女にお金をかけたと思っているの?それなのにこんな結果だなんて......反省しなさい。』




両親は、私を自分たちの思い通りになる人形のように扱った。中学までは、彼らも優しい普通の両親だったのだ。しかし高校受験に失敗した途端、彼らは化け物に変わった。失敗するたびに殴られ、大学受験を無事成功させて家を出るまで、プレッシャーに耐える日々だった。



暴力を当たり前だと思っている彼らの事を理解できる日は、きっと来ないだろう。あの時の記憶のせいで、上手く言葉が出てこなくなってしまったから。今口答えをしたら、殴られるかもしれない。今しゃべってしまったら、不快になるかもしれない。



考えれば考えるほど、言葉が出なくなっていった。こんな私を理解してくれた人はただ一人、祖母だけ。そんな祖母も、私が成人を迎える前に亡くなってしまった。




『おばあちゃん...お願い、死んだら、だめ.......』



『ごめんねぇ、みさちゃん。......貴女が結婚するまで...生きて見守りたかったわ。』




『やだ、そんな、最後....みたいな。』



『いい?今は辛いかもしれないけど...貴女は心優しい子だわ。次に会う時は......幸せになっていて頂戴ね。』




“みさちゃんは、みさちゃんのままで良いのよ。”




そう言い残して、おばあちゃんは帰らぬ人になった。病室で泣き続ける

私は、ついに孤独になってしまったのだ。



おばあちゃんのためにも、私は幸せにならないと。そう思って、今まで以上に勉強に取り組んで、国内でも有数の名門大学に入学することが出来た。それなのに...就職した会社は、こんなブラック企業で。



一つだけ良いことといえば、“レオン様”に出会えたこと。『君に捧ぐ王冠』という恋愛シミュレーションゲームに出てくるレオン様こと、レオンハルト・アルカディア第一皇子は、私の辛い生活を支えてくれた存在だ。



『君の心配は、全部俺が引き受ける。だから、君は自分のために生きてくれ。何も恐れることはない。俺が保証する。』



周りに頼れないヒロインが悩み事に押しつぶされそうな時、レオン様がかけたこのセリフはまるで私に言ってくれているように感じて…….その時私は、レオン様のことを好きになった。



(もし、もっと早く彼のことを知っていたら……もう少し、こんな性格を変えられたのかしら。)



学生時代は、両親の期待に応える事と祖母の残した言葉を実現することに費やしたおかげでまともに友人もできなかったため、余計にコミュ障を拗らせてしまった。



ブラック企業に就職することになってからも、この拗らせたコミュ障と弱々しい態度のせいで友人ができるどころかいびられるように。



(おばあちゃん…私、自分で幸せを掴むどころか不幸になっちゃった。)



昔を思い出していたら、なんだか集中できなくなってしまう。私はおもむろに立ち上がって、コーヒーでも買いに行こうと自販機に向かった。



自販機には、コーヒー以外にも炭酸飲料、乳飲料があったのだが、いかんせんまだ貯金が危ういためにお目当てのコーヒーで一番安いものを購入する。




「…….ふぅ、美味しい。」




思ったより喉が渇いていたのか一気に飲み切ってしまう。私の悩み事も、こんなふうに飲み込めちゃえばいいのに。



コーヒー缶を捨てた私は、何となく背景画面に設定しているレオン様を見たくなって、スマホを開いた。

すると、ピロン、という通知音が鳴る。




「何かしら。……って、何これ。『新しい人生を手に入れたくはありませんか?』」




メールを開いた私は、この文章を見て思わず笑ってしまう。詐欺メールにしては分かりやすすぎる。この文章の送り主は、一体何を考えてこんな文章を書いたんだろう。



(新しい、人生かぁ......貰えるなら、貰いたい、かも。)



連日の激務で疲れ切っていた私は、正常な思考が出来ていなかったのだろう。いつもならあぁ、迷惑メールねとすぐにゴミ箱に入れるだろうに、妙に好奇心を持ってしまったのだ。



もし詐欺メールだったら個人情報を抜き取られるかもしれないし、ウイルスに感染してしまうこともあり得る。なのに、思わず私は”はい”のクリックボタンを押してしまった。




「――――何も、起きない?」




ウイルスに感染しました、と警告マークが出てくるだろうと予想していたが、驚くことに私のスマホはうんともすんとも言わず、さっきまであったはずのメールは消えていた。もしかして、今あったことは現実じゃなくて、私が疲れていたから現れた幻覚だろうか?



まぁ、幻覚だろうと、そうでなかろうと特に問題が起きていなければ気にする必要はない。誰かがいたずらで送ったのかもしれない。



さ、仕事に戻ろう。と踵を返した時。



『.......ねがい、たす...て......』



「だ、だれ?」




後ろを振り返っても、誰もいない。




『こっち......来て......』



「こっち?一体、何なの......?」



『はやく.......早く!』




この声、どこかで。



思い出そうとして、私は自分の体がよろめいている事を自覚した。聴覚は機能せず、視界も歪んでまともに歩けない。誰かの人影が目の前にある事だけは分かったが......その人物は立っているだけで、手を差し伸べようとはしてくれなかった。



たすけて。そう呟いた声は、自分で聞き取ることは出来ない。



(馬鹿みたい。)



ずっと、自分が嫌だった。生きているのも辛かった。なのに、こんな状況でも生き延びようともがく自分が恐ろしく惨めで。



消えゆく意識の中で考えたのは、おばあちゃんとレオン様の事。『君に捧ぐ王冠』、裏ルートまでクリアしたかった。それに、おばあちゃんに私が幸せになった姿を天国から見てほしかった。




(ごめんね、おばあちゃん。)






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