つかめる雲に夢を見る
手を空に掲げて思う。
僕は雲を掴みたかった。
どんな感触がして、どんな味がするのだろう。
そんな夢を積乱雲のように大きく膨らませていた。
龍のように掴むのでも、
国語の教科書のように雲に乗るのでも、
どれもが憧れだった。
しかし、夢は雲が水蒸気の塊ということを知り霧散する。
僕は憧れた雲を見ることすらやめた。
僕の憧れは地面に突き刺さった。
下を向く人間になったのだ。
雲を見なくなっていた。
しかし、こんな僕にもひとつ上を向く時がある。
南雲 天衣 という人が好きになった。
いつも空を見て少し儚げだけれど、
誰にでも優しい天使のような人だった。
勿論彼女を好きな人はいっぱい居るだろう。
言うならば雲の上の存在だった。
しかし!挨拶は不自然じゃないからいつもする。
「おはよう!南雲さん」「おはようございます。東雲さん」
そうして席につき、前の席の友人、武田に話す。
「南雲さんやっぱり天使だよね、好き」そう言うと「お前、イノシシみたいだな!前しか見てねぇ…」と話をしていく。
人は過ちを繰り返す。
見えても掴めない雲をずっと見る夢を見る。
しかし、奇跡が起きるのも人の性質だ。
そして、同時に最悪なことも起きるのが人生だ。
南雲さんが校舎裏に行くところを見たから、
何をするのかと気になっていた。
少し、覗くだけだった。
そこに、彩雲の羽根を広げる南雲さんの姿を見るまで。
綺麗で透き通るような天使の姿に
子供の頃のように夢中になり見とれていたが、
気づかれたらやばいと気づき、
そそくさと逃げようとしたらパキッと音が鳴る。
なんと枝を踏んでしまった。
それが聞こえたのか
「? なんか音が……まさか!」言ってこっちを見てきた。
バレてしまった。
けれど、ここから始まった。
雲が掴める距離まで飛べるかもしれないと感じた奇跡の日。
そして、南雲さんからの好感度が地に落ちた最悪の日だった。
けれど、地に落ちたものなら、雲より近い。
羽根がなくても大丈夫。