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神素水(しんそすい)

作者: 黒楓

この物語は「夏のホラー2025」へ参加しています。


こういうホラーもありかなと(^_-)-☆

 1時間以上かけて身を清め、そのまま装束を身に着けた。

 洗い髪は固く絞ったままで垂らすのが作法だ。


 Z●●Mは既に繋がっているが教祖様はまだお越しにならず、私は27インチのモニターの前に正座して経典を読誦していた。


 やがて錫杖(しゃくじょう)の音と教区長を引き連れた教祖様がモニターに大写しされ、私はひれ伏した。


「サーニャ!健やかでありましたか?」


「はい!大神(おおみかみ)様と教祖様のお加護により恙なく(つつがなく)過ごしております」


「私の心眼には薔薇色の頬のそなたが見えるがいかがですか?」


「有り難いお言葉を戴き恐悦至極に存じます!!」とカーペットに頭を擦り付けた私の耳に教祖様の涼やかな笑い声が届く。


「そうかしこまっていてはそなたの顔が見れぬ。表を上げておくれ」


 恐る恐る顔を上げた私に教祖様は


「まこと、良いお顔になられた。たゆまぬ精進のあらわれと嬉しく思いますよ」


「はい!! 先程も神素水(しんそすい)で“清め”をいたしました!!」


「ほう! 飲むだけでは無く煮炊きにも使う様に申しておいたが……身清めにお使いになられたか?」


 教祖様のお声に私は何か間違いがあったかと震撼した。


「いけなかったのでしょうか?」


「そう、声を震わすではない。確かに神素水は大神様のご神体から湧き出たご神水を私を始め多くの者が手間と時間を掛け、創り上げたもの……しかし私達の労力なぞ気にするでない! そなたが気に掛けるのはただ一点だけでよいのです」


「教えてください!! それは何なのですか?」


「その答え、そなたは知っておる筈! 申してみよ!」


 私は少しためらってから教祖様に深く一礼して申し上げた。


「大神様の御心に副う事かと存じます」


「サーニャ! 可愛らしく秀でた使徒よ! その通りです!! だからそなたは間違えています!」


「身清めに使ってしまい申し訳ございません!!」


 間違いに気付き、涙声を振り絞ってお詫びを申し上げる私に教祖様は優しく仰る。


「私は身清めの為に用いた事を叱っているのではありません。そなたが……未信心の者が功徳積むことを妨げている事を叱っているのです」


「そんな!! 私は!!」

 とモニターに縋る私に、教祖様は()()()()()()ガラリとお変えになり、重々しく“大神様のお言葉”を述べる。


「言い訳は許さぬ!! そなたが未信心の者に分け与えた神素水は、彼らからのお布施によるものでは無く、未信心の者からのお布施と偽りそなた自身が納めたお布施によるものであった事、明白である!!」


 それは確かに事実で……私は私の身近な友達や後輩にも幸せになってもらいたくて自分が戴いた神素水を積極的にプレゼントしていた。それがまさか大神様の逆鱗に触れるとは……


「どうかお許しください!! 私は!!……私が体感した大神様のお力とそれによって得た平穏を……身近な人達にも知って欲しかったのです!! ただそれだけなのです!!」


「サーニャよ! そなたはいつから私に代わってその様な大事を執行できる立場になったのです!! 勝手は許しません!! たった今からあなたは使徒サーニャではありません!! 大神様から戴いた釋名(しゃくみょう)は返上なさい!!」


 雷の様な教祖様のお言葉に私は縋り泣いた。


「どうかどうかお慈悲を!!何卒お許し下さい!!」


 必死に泣き叫ぶ私に、教祖様は“大神様がその身から離れたかの様に”優しい声色に変わって語り掛けられた。


「装束は……しきたり通りに身に着けておりますか?」


「はい、教祖様から洗礼を受けた時と同じ様に身一つで、下には何も纏っておりません!!」」


「しかし私の心眼にはあなたの体の上を“(よこしま)”が這い回っているのが見えます」


「そんな筈はございません!! 大神様と教祖様のお力で()()()()()()()()から受けた穢れをすべて払って戴いてから、何人も指一本触れさせてはおりません!! 今この場で露わになって証明いたします!!!」


「麻美さん!! その必要はございません!! そなたが信心を分かち合おうとなさったのはどんな方々ですか?」


 もう“サーニャ”と呼んで戴けない事に絶望を感じながらも私は申し上げた。


「身近な女性……お友達や同僚です」


 私の答えに教祖様は頷かれた。


「やはり、そなたに取り憑いているのは……嫉妬が呼び込んだ“悪魔の息吹”のようですね」


「嫉妬って?!!」


「分かりませんか? 大神様により顕現(けんげん)されたそなたの美しさが、そなたの周りに居る女性達の嫉妬を呼び込んだのです。このまま行くとそなたは悪魔の餌食となり、ゆくゆくは地獄の業火に焼かれましょう……私は愛するそなたが……その様な末路を辿る事を見ては居られないのです。だから使徒になりたいなどと思ってはなりませぬ!!」


 教祖様から『愛するそなた』とのお言葉とその思いを吐露して戴き、私の身は限りない幸せに満たされた!!と同時に使徒として教祖様をお助けしたいと切に願った!!


「教祖様!!私はどうしてもどうしても使徒して教祖様の愛に報いたいのです!! 私に道をお示し戴き、機会をお与え下さい!!!」


 27インチのモニターを抱きしめんばかりに迫る私に教祖様は深いため息をお付きになられた。


「殿方なら……そなたに嫉妬を抱く事はないでしょう……でも……」


「どうか仰ってください!!」

 私は教祖様が目を伏せて言い淀んだ“希望”にどうしても縋りたかった。


 目を上げた教祖様は真っ直ぐ私を見据えて仰った。


「そなたを抱き(いだき)たいと思う殿方は少なからず居るでしょう……神素水に満たされたそなたがその殿方を抱けば(いだけば)そなたの身を通して神素水の功徳がその殿方に届きます。さすれば殿方は自ら神素水を拝受したく、そなたに願い出るでしょう」


「ぜひ!!私にその任をお与えください!!」


「そなたはこの意味がお分かりか? これは()()ですよ」


「はい!! 私は愛して下さる教祖様のお力になりたいのです!! その為の殉教ならこんな幸せな事はございません!!!」


 この私の言葉に教祖様は目頭を押さえモニターの向うから私に深く頭を下げた。

「そなたの信心と私への愛に……心から感謝申し上げる」


 愛する教祖様にこんな事をさせてしまった私はモニターを抱き締めて叫び泣いた。


「どうかどうかお止めください!! 私は今、教祖様への罪の意識に押し潰されそうです!!」


「麻美さん!あなたは罪深くありません。私と共に在りさえすれば」


「はい!いつまでも!どこまでも!お仕え申し上げます!!」


「何とも可愛い子!そなたには新たな名を授けます! そなたはこれから使徒サンスレイとなります。教区長! 使徒サンスレイの元に神素水を5ケース送りなさい!」


 私が感涙の中、モニターに手を伸ばすと教祖様も手を伸ばし私達はモニターを挟んで手と手を重ねた。


「そなたに大神様のご加護があらんことを!!」



 Z●●Mが切れた後も教祖様のお言葉は耳朶に残り……私は長く長くその感激に浸っていた。   






                              終わり




私は、このお話にゾッ!といたします(^^;)



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― 新着の感想 ―
私は特定の宗教を信じることはないのですが、そういう物に頼る人には怖い話ですよね。
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