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「本当に、私のことを好きって思ってくれてる人、いるのかな」
「いるんじゃないですか」
こくり、と頷きながら陽を指差す。
「違うの。きっと陽様は私を見てない。私も陽様を見てない。もう怖いよ、どうしてそんなに私を苦しめるのかな」
麻は誰にともなく、嘆いた。幼少の頃から、数え切れないほどの男に愛され、抱かれ、想われ。売られたことで親族や友人までもを失いかけていた今、麻には信じられる者などいなかった。
「じゃあ、苦しめばいい。もっともっと。苦しんで苦しんで、魔よけでもすれば良いじゃないですか」
耀は大きく深い笑みを作り、麻の腰を掴み、抱きしめた。人が見ている。彼は麻の顔を隠すように包容し、彼女を自らの膝に座らせた。細い脚と、しっかりとした腰が絡む。そのまま、麻の柔らかな唇を貪った。麻はしきりにあつい、あついと呟いていたが、やがて耀の愛撫を受け入れた。髪を撫でる手がひどく心地よい。体を密着させたまま、耀の欲求に、麻は必死で応えた。
「まだ足りないでしょう? これくらいのことはされ慣れてますよね」
耀の笑みは、まるで悪魔のようだった。ひどい恐怖を覚えながらも、ひしひしと心地よさが麻を蝕んでいった。首筋を撫でられ、何か冷たいものが背筋を走る。軽く喉を反らした際、麻はあるものに気がついた。耀と麻の状況をしっかりと見ていた陽だ。冷めた目で二人を見据えていた陽はやがて麻の視線に気づくと、去っていた。
「あ、陽さんが」
「どうしました?」
「陽さんが……」
「それでいい」
耀はさっと麻から体を離した。どうやら、目的は陽に見せ付けることであったらしい。麻は体の火照りを抑えきれぬまま、荒いため息を吐いた。そして耀が、そのため息に笑ったその時だった。麻は口内に異物感を感じたのだ。慌ててぺろりと舌で擦ってみると、それは何かしらの薬のようだった。
「ちょっと、何入れたの?」
「睡眠薬、とか言ったら怒るかな」
悪気もなく言った耀に、信じられない、と麻は視線を向けた。耀はなおも笑っている。くらくらと眠りに堕ちていくような蕩けた感覚と戦いながら、麻は必死で声を上げた。 ただでさえまずいことをしているのだ。内部告発でもあれば、麻どころか耀の立場までもがなくなるだろう。
「眠って忘れれば良いじゃないですか」
が、にやりと微笑んだ耀に抵抗することは無理に近い。麻はすっかりとあきらめ、耀の肩に身を預けた。