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「一体、何をやっているんだか……」
陽の部屋から帰ったあと、耀は自室のソファに腰掛け、尚も煙草を楽しんでいた。だが、いつもは感銘さえ受けるその味を、心の芯から楽しむほどの余裕は彼になかった。自分の話を聞いていた陽の表情と、自分のすぐ側のベッドで寝ている麻が気にかかって仕方がなかったのだ。開け放した窓から入る風は冷たく、コップに注がれたミネラルウォーターのなかに月光が反射していた。今夜は満月だ。
陽は間違いなく麻に想いを寄せている。誰から見てもそれは明確だ。だが、それにも構わず、自分は麻に身体的な愛だけを注ぎ、腕のなかで拘束し続ける。もしかすれば、麻を本気で愛しさえしているのかもしれない。だが、その真意は自分にさえ分からなかった。自分が麻のような女を、本気で愛するはずがないではないか。麻のような地味な女ではなく、もっと美しく華麗なものを求めていたはずだった。いつの間に、自分はただの欲望の処理人形に恋をしたというのだろう。やりきれない口惜しさが心のどこかに残った。麻と出会ったとき、自分自身との契約を築いたのだ。決して心からは愛さぬこと、やるべきことはきちんとやること。今では、そのどちらも守ることができていない。愛してはならないものを愛してしまった。いや、愛したくないものを愛してしまったといった方が妥当であろう。とにかく、自分自身の麻への感情に対して、耀はひどい罪悪感を抱いていた。
「麻……」
月夜につぶやいてみたはものの、何かが変わることはなかった。