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4人の朝食

「テルが探していた人だった」

「え、すごいじゃん」

「見つかってよかったね」

 ダナンが朝食を一緒に食べようとテルを誘ったら着いてきてくれたので、昨日の夕飯から続いてまた、4人でダナンとテルの部屋の食卓を囲んでいる。

「反応薄くない?」

「ダナンにそれ言われるとは」

 笑いながら、イネノから茶碗を渡された。炊き立てのご飯が湯気を立てている。いつのころからか、朝食はだいたいイネノが作るようになっていた。特に決めたわけではないけれど、暮らしていくうちにダナンとイネノのあいだでなんとなく家事の分担ができ、いまのところ不平不満は出ずうまく暮らせている。

「私たちだけじゃなくて、御母堂にもちゃんとお知らせしたら? 心配されているんじゃない?」

「あー、それはまあそのうち。まだテルの了承もらってないし」

 きょとんとした顔のスミとイネノがいっしょにテルの顔を見たので、テルが少し身じろいだ。

「断っちゃったんですか?」

「ダナン、お買い得だと思いますよ」

「……保留だ」

「あ、よく考えて見れば昨日会ったばっかりか」

 一夜明けて、イネノとスミのテルに対するかしこまった態度が、何だか溶けてきている。と、先ほど指摘したところ、ダナンの態度見てたらなんかこっちが間違っているような気がしてきたから、と言われたのだが。

「母より、学校長に断っておいた方がいいかな」

 何を? とイネノに首を傾げられ、ダナンは学校長に入学の手配をしてもらったこと、送り出されるときになるべく自分の情報は伏せておくことを約束したことを説明する。

「探し人見つけたよ、というよりは、何人かには開示したって報告しておこうかなって」

「学校長が噛んでいたのか」

「そう。特別入学という名の裏口入学」

「それいったら、僕もだよ」

「私もだな」

「一般入試通ったのこのなかでは私だけだね。……まあ3人とも一般入試でも通ったでしょうけど」

 スミが面白そうに言う。確かにこの4人に限れば、一般入試が一番少ない。おかしな比率だ。

「学校長には手紙でも書いておこう」

「会いに行けば? 入学式で、誰でもいつでもどうぞって言ってたじゃない」

「そういえば」

 それもありかと、ダナンがうなずく。ずいぶんと学校にも慣れたし、一度くらい挨拶にいくのも良い気がする。配膳が終わり、4人でいっしょにいただきますと手を合わせた。

「ところで、イネノ、ダナン。夜中に幽霊が出たんだけど」

「あ」

「あ」

「は?」

 お椀を持ってそれぞれ固まった3人をよそに、スミが続ける。

「言っておいてほしかった。さすがにびっくりした」

「ごめん、昨日はいろいろありすぎて、素で忘れてた」

 狭間でダナンと会話をしてからウノメはどんどん落ち着きを見せているということで、彼女の宿る鍵は居間に置いておくようにしていた。ダナンですら、ときおり彼女の姿を見られるようになっている。会話は相変わらず、通じないことが多いが。

 ダナンの寝台を使っていいと言ったのだが、スミは居間に予備の布団を出して就寝したそうで、丑三つ時にふわりと姿を見せたウノメを目撃してしまったらしい。

「それに関しては私もごめんだけど。彼女も驚いたんじゃないかなあ」

「うーん、まだそこまで外界に反応できているかはわからないけど、こんど謝ってみる」

 ゆっくりとお椀を置いたテルが、ちょっと待て、と手をあげた。

「幽霊って、幽霊か?」

「うん。なんかまあ、諸事情でいまちょっと一緒にいる」

「彼女に関しては他に悪い影響はないです。僕が請け負います」

 試験中のことは口外を禁じられている。拾った経緯は伏せて、イネノが彼女のことをさらっと説明した。

「入学から1か月ちょっとしか経ってないのに、お前たちはなぜそんな色々なことが起きているんだ……」

「退屈しなくていいよね」

「ものは言いようが過ぎる」

 少し考え込んでいたスミが、箸を置いた。

「ウノメさん、帰りたい場所があるのね。彼女の宿ってる鍵、ちゃんと見せてもらいたいんだけどいいかな?」

 スミの申し出に、スミにもテルにも見せても双方に問題ないだろうということで、食卓の真ん中に鍵が乗せられた。

「これがどうしたの?」

「うん、やっぱり。これ、図書館の鍵だよ」

 イネノとダナンが顔を見合わせる。スミが、持ち手についた赤い石の下を指さす。

「ここに小さな刻印があるでしょう? 〇にト。これ、ここの図書館の印」

 ほんの小さな傷のようなそれ。イネノが自室から拡大鏡を持ってきてまじまじと見つめる。

「入り口の鍵、じゃないよね」

「各部屋の鍵だよ。管理室を見学させてもらったときに、全室分の鍵がくぎに掛けられていたの。ぜんぶ、この赤い石の鍵だった」

 ここの図書館は、1階は広間が広がっており延々と書棚が連ねられているが、2階からうえと地下は、分野ごとにいくつもの部屋に分かれており、通常は扉が閉められていた。必要があれば、図書部に申請することで開けてもらえる。

「図書館の建設はいつ? この鍵って、いつのか分かる?」

「この学校がここに移転してきたときだから、400年くらい前。でも、内装は何度か大幅な手入れがされているし、鍵も建設から変わってると思う。図書館の記録あると思うから調べておく。とりあえず、この形式の鍵が出てきたのは、100年かそこらじゃないかな?」

「年代が合わないなあ。そもそも彼女の着ているあの服が主流だったのは、500年くらい前なんだよね」

 それこそ図書室で、ダナンとイネノは服飾史の本を読んで確認してあった。地域的にも合っていたので、彼女の生前の年代はそのあたりだと睨んでいる。

「彼女が生きていたのが500年前、図書館が建ったのが400年前、鍵が100年前」

「鍵は生前の彼女のもちものだと思ったけど、違うってことだな」

「うぅん、因果関係のほとんどないものに霊体が宿るかなあ。この鍵と石自体は、特段特別な力はないし」

 イネノがくるくると手の中で鍵をまわす。

「図書館でお願いしたら、他の鍵を見せてもらえるかな?」

「無理」

 スミがすぱんと言い切った。向かいでテルも頷いている。

「そうだな、あそこは書籍を保全することに注力している。図書に関することなら受けてくれるだろうが、管理に関するようなことに手を出すのは難しいだろう」

「鍵をかけてあるのは、本を盗難、紛失、汚損から防ぐため。鍵を部外者に触らせることはしないでしょうね」

「図書館を治めているのは図書部だ。正式な要請として出せるなら、図書部に申請はできるだろうが」

 幽霊に見せてあげたいので。……うん、許可、出ないな、とダナンはちょっと天井を仰いだ。うまい言い訳を探してみてもいいが、嘘をつくのも気が引ける。

「とりあえず、出来そうなことからやろう。図書館に彼女と行ってみないか?」

 入れるようになったのが最近の敷地なのと、人が多そうなので、図書館周辺にはまだ鍵を持ち運んでいなかった。館内に入れなくても、何か反応があるかもしれない。

「うん、できれば夜中に行きたいんだけど。人がいないときのほうが万が一の影響を考えなくていいし、彼女も夜の方が、混濁が少ない」

「夜間に寮を出る許可が必要だね」

「そちらなら、統轄部の権限で出せないこともない。乗り掛かった舟だ。準備ができたら連絡してくれ」

 テルの申し出に、イネノが顔を輝かせて礼を言う。

「図書館の鍵の方は、私が図書部になって鍵の管理が分かるようになったら、何か方法がないか探ってみるよ」

 図書部に所属するのは、スミのなかで当たり前な決定事項らしい。

「1年生が部に入るのは難しいとか聞いたけど」

 1年生も入学2か月後から部に所属できる、というのは、規定上可能というだけで、実際希望を出して部に許可をもらえるかは別問題だという。ほとんどの1年生は、先輩たちにとって未知の存在だ。各部にふさわしいと判断する材料に乏しい。授業で成果を残したりしていれば、推薦や勧誘を受けたりもするらしいが。

「図書部に知り合いがいたから、たぶん大丈夫。学業の方も、今は全力でやってるし。ふたりのおかげで」

「じゃあ、期待しておく」

 うん、とスミが微笑む。一緒の授業でスミが熱心に取り組んでいるのは見ているし、アケビからも、必修でも先生の覚えがめでたいと聞いている。きっと、望む通り、いちばんに図書部へ所属出来るに違いない。

「それにしても、そんなに古い、自我のある幽霊は、それは、なんというか」

 テルがそこで口をつぐむが、スミがまたもばっさりと、普通ならちょっとまずいですよね、と言葉を継いだ。

「ただ、イネノが受け入れているなら、めったなことにはなりません。白の女神さまは悪意や害意にたいへん敏感ですから。彼女が誰かを害そうというような心を持っていたら、もしくは彼女にその意図がなくてもそういう事態が起こりそうなのであれば、イネノはすぐに対処するでしょう」

 それはそれとして。スミは視線を強くしてイネノを見た。

「もっと早く相談してくれればよかったのに」

「いや、まあちょっと、怒られるかなー、とか」

 イネノがことばを濁し、目線を泳がせた。まったくもう、と呟いて、スミが荒々しく箸で芋を割る。

「怒ってはいないけど、心配はしているからね。そこに関してはまたあとで、ふたりで話そうね」

「……はい」

 あからさまにしゅんとした声をだすイネノに、ダナンとテルは視線を交わして笑いを耐えた。

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