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授業開始と行方不明

 金曜5限の弓術の授業は、先週に続き今日も座学だった。ダナンたちが指定された教室に入ると、幾つか種類の違う弓や矢が教壇の横に立てて並べられていた。武術系の講義でも、早速実践に入るものもあれば、こうして座学から入るものもあり、教授や授業内容によって自由だ。どの授業も、なかなか面白い。

「イネノは長弓?」

「長弓の方が得意だね。短弓も扱えるけど」

 入寮試験のときに、弓なら使えると言っていたイネノも、この授業をとっている。長弓は魔を払うと言われていて、儀式や祭祀に使われることも多い。巫ならば、修めていて当然だろう。

 教室はだいたいが、四人掛けの長机が三列ある階段教室。昼食時間を挟んだあとの時間帯で、まだ授業開始には早く、ほとんど生徒が来ていない。後ろの席でも見えないということはないが、せっかく空いているので、ダナンとイネノは並んで教壇に近い席に陣取った。

「けっこう、一緒の授業が多かったな」

 特に相談して授業を決めることはせずに、お互い好きに授業を選択したのだが、1週間を経てみると、結局寮以外でもイネノといる時間が長い。午前の必修は同じ組で受けているから当たり前として、午後も全く会わないということはなかった。

「そうだったね。僕としては気楽だし心強いけど」

「同感」

「そういえば、ちょっと気になっていることがあって」

 気になること? とダナンが問い返す前に、横から声がかかった。

「ダナン君。少し良いだろうか」

 長い髪を頭の高い位置でひとつに束ねた、端正な顔立ちの女性が背筋を正して、机の横に立っていた。

「えぇと」

「私は2組のアケビという」

「やあ。どうしたの?」

 初めましてではないような気がして、ダナンは無難な挨拶を選んだ。よければ、とイネノとダナンが席を詰めて勧めると、彼女は素直に空いたところに腰を掛けた。

「ダナン君は、水曜6限の、剣術中級の授業はとらないのだろうか?」

 水曜6限。それでダナンは、彼女のことを思い出した。剣術中級は、先週からいきなり木刀を握って素振りから入った。試しだろうが本番だろうがやることは変わらん、まずは素振りだ、初心者も経験者も上級者も素振りが基本! と豪放に笑った担当教師は、授業の終わりごろに数名を選出して、型を指定した模擬試合のようなものをさせた。素振りだけである程度の経験者を見抜いたらしく、選ばれた者はみな、なかなかの技量の持ち主だった。

 そこでダナンも指名されてひと試合務めたのだが、その時のダナンの相手がアケビだった。南方の州で主流である剣術の、お手本のように美しい型を使っていた。手足も長くしなやかで、勘もいい。これからさらに強くなるだろう。

「うん。水曜6限は、魔術の歴史をとることにしたから」

 イネノの影響もあって魔術をきちんと修めた方が良いという気にダナンはなっていたが、将来的には自分が武術に重きを置くであろうことも分かっていた。どちらの授業をとるか迷って剣術の教師に相談したところ、お前に中級はいらん、必修の初級を真面目にやれば来年上級に進んでいいぞ、とあっさり言われたので、その通りにさせてもらっている。

 ちなみに余談だが、イネノは、初級中級にあたる魔術関連の授業も広く選択していた。みんなが使っていてもおかしくない魔法を知るのにいちばん良いと思ったから、らしい。

 アケビはダナンの返答に、少しだけ眉を寄せた。

「そうなのか。残念だ」

「残念?」

「君の剣術はとても興味深かった。授業も大切だが、共に学ぶ君からも、いろいろ学びを得られるのではないかと思っていたんだ」

 真面目だ。とても真面目な人だ。ダナンは感心した。これはますます強くなるだろう。イネノも、「すごい、えらい」という表情でアケビを見ている。相変わらず顔に全部出ている。

「独学だから、そう期待してもらうほどのものでもないんだけど。この後の武術総合はとるよ。君は?」

「ああ、それは私も取っている」

「得物はいろいろで、実践的な授業だと言っていたね。もし剣術の手合わせの機会があったらよろしく」

 ダナンが手を差し出すと、引き締めていた顔を少し緩めて、アケビは握手を返した。胼胝のできた、実直な手だった。

「ところで、もうひとつ聞きたいことがあるのだが」

 それまで発止とした受け答えをしていたアケビが、そこまで言って少しためらうように間をあけた。

「ダナン君は、スミさんと知り合いなのだろうか?」

 思わぬ名前が出てきて、ダナンとイネノは顔を見合わせた。

「うん、スミは友人だよ。イネノとスミがもともと幼なじみで、オレもそこから仲良くなったんだ」

「初めまして」

 そこまで黙っていたイネノが、ダナンの横から顔を出してアケビに声を掛ける。初めまして、と律儀に頭を下げて応えてから、アケビは少し首を傾げる。

「立ち入ったことを聞くようだが、彼女は元気だろうか?」

「え?」

「私はスミさんと同じ組なのだが、午前中の授業が終わるとどこかに行ってしまって、姿を見かけなくなってしまうんだ」

「あ。やっぱり……」

 イネノの顔が青ざめる。

「さっき気になってるって言ったでしょ。スミと会わないけど、ひとつも授業重なってないのかなって……」

「そう言われれば、オレも一度も会ってない」

 自分とはかなり選択の方向がかなり違うと思っていたし、人数が多くて全員の顔が目に入らない授業もあるから、そこまで気にしていなかったのだが。

「本人は元気だと言っていたのだが、体調が悪くて、午前中だけ無理に出ているのかと」

 心配そうなアケビに、イネノが首を振る。

「ちょっと、僕に心当たりがあるから本人と話すよ。教えてくれてどうもありがとう」

 私にできることがあれば言ってくれ。相変わらず親切に実直に申し出てくれたアケビに、イネノとダナンはもういちどありがとうと、頭を下げた。

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