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【SF 空想科学】

粋なオプション

作者: 小雨川蛙

 

 とある夫婦が莫大なお金を支払ってある会社に依頼をした。

 夫婦の担当者となった社員は親切丁寧にプランを説明する。

 藁にも縋る思いで夫婦はこの会社を見つけたのだ。

 社員の言葉一つ一つを必死に聞きながら、気になる点を質問し納得のいかない回答であったなら容赦なく問い詰めて言った。

「ご安心ください。私共も悪徳業者ではありません」

 社員はそう言って穏やかに、何時間、十何時間と相手が納得する丁寧に回答をしていく。

 やがて夫婦は十分な説明を受けたと判断した。

「元々不可能だと思っていたことだ」

 そう言って夫の方が妻の肩を抱く。

「多少の問題には目を瞑ろう」

 妻は無言だったがハンカチを目にあてて涙を何度も拭いていた。

 夫婦の心情を知る社員もまた静かに頷き、最後の説明に入る。

「さて、こちらで最後です。とはいえ、ただのオプションの説明なのですが」

「オプション?」

「はい。こちらは無料サービスでして要するに復元にあたって多少の調整が効くのです」

 その言葉を聞いて妻はハンカチを放して社員の前に置かれた資料を見つめる。

「欠点をなくせるってことかしら?」

「ええ。そうなります」

 答えを聞いて夫婦は顔を見合わせてから言った。

「ちょっと詳しくお話を聞かせてもらえる?」


 それから三ヵ月して夫婦の下に一年前に事故死した息子が戻ってきた。

 そう。

 あの会社は死者を甦らせることを仕事としている会社なのだ。

 家族三人は大泣きしながら再会を喜び、その日は息子が大好きだった料理ばかりを出してこの奇跡を存分に傍受した。

 そして、時間が二十一時を回った頃、母に戻ることが出来た女性が言った。

「あら、もうこんな時間。さぁ、早くおやすみなさい」

 それは息子が事故死をしてしまったあの日と全く同じ声掛けだった。

「うん。分かったよ、お母さん! それじゃあお休み! お父さん、お母さん」

 そう言って息子は素直にベッドに入っていった。

 それを見て夫婦は胸を撫でおろす。

 何せ、甦る前の息子と来たら不良息子で未成年であるにも関わらず酒を飲み、深夜にバイクを乗り回した挙句事故死をしてしまったのだから。

「良かった良かった」

 夫婦の心は幸福に包まれる。

 最愛の息子が戻ってきただけ嬉しいのに、最高の状態に『変わって』戻って来るなんて。

 こんなに嬉しいことはない。


 こうして、素晴らしい会社によってまた一つ、失われた幸せが戻って来たのだった。

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